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第二部 ロマンス小説のお姫様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します! 第一章

54 エレナ隣国との茶会に誘われる

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 去年、殿下のお誕生日に開かれたお茶会に集まったたくさんの来賓の前で、オーウェン様に殿下との婚約をおままごと扱いされて以降、半年以上お茶会に参加せずにやり過ごしていた。

 社交の場が苦手だからといつまでも逃げ回るわけにはいかないのはわかってる。

 お兄様の言うように、知ってる人もいっぱいいて、お兄様も殿下もいらしてて、王女様の案内係っていうやるべき事が決まってるから手持ち無沙汰になりようがなくて、しかもオーウェン様がいらっしゃらない! なんてこんなお茶会の機会なかなかない。

 わかってるのよ。

 それでも気乗りしないわたしは、着々とメリーが準備をしているのを横目にため息をついた。

「エレナお嬢さま。今日は王都でも人気の服飾店のマダムがきますからね」

 メリーはエレナを着飾らせるのが嬉しくて仕方ないのか、服飾店のマダムが来るのを首を長くして待ちわびている。

 殿下が婚約発表の場で着るようにと贈ってくれた胸元の開くドレスは、夜の舞踏会に着るようなもので、今回エレナの参加するお茶会であれば露出の少ないデイ・ドレスを着る必要があるらしい。
 だけど、エレナがお茶会の参加を逃げ回ったツケで着ていく服がない。

 今回は日数もないから既製品のドレスをエレナの体型に合わせて調整する事になっている。
 エレナはロリ巨乳なので、身長に合わせたドレスだと胸がキツくなるし胸に合わせるとブカブカの服になってしまう。

 なんて贅沢な悩みなのかしら。

 エレナが着飾ることをわたしよりもメリーが楽しみにしてくれている。

「この国で一番可愛いエレナお嬢様ならどんなドレスもお似合いだとは思いますが、エレナ様だけのドレスじゃないのが残念で仕方ありません。つぎはデザインから相談して作りましょうね」

 メリーの清々しいまでの侍女バカっぷりは自己評価の低いエレナに少しだけ勇気をくれた。


***


「まぁまぁ! うちのドレスを未来の王太子妃殿下に着ていただけるなんて!」

 そう芝居がかったセリフを美女に言われて、私は苦手な愛想笑いを浮かべる。

 名ばかり侯爵家のご令嬢の急ぎのドレスの仕立て直しなんて、今までなら断っていただろう案件だ。
 エレナが「殿下の婚約者」だからわざわざマダムがお出ましになって、対応してくれているに違いない。
 マダムの他にも針子と思われる女性が忙しそうにドレスや装飾品をエレナの支度部屋に持ち込んでいる。
 いつシナリオが動き出して婚約者じゃなくなってしまうのかわからないので、すっごく後ろめたい。

 そんな事を思っていると、メリーと仕立て屋のマダムに手際よく着ていた服を脱がされて、ビスチェとドロワーズ姿にされていた。

「まぁあっ! なんてスタイルのよろしいことでしょう! 小柄でいらっしゃるから、こんなにスタイルがよろしいだなんて、存じ上げておりませんでしたわ!」
「さようでございましょう⁈」

 マダムがエレナを褒めるもんだからメリーが嬉しそうに、持ち込まれた試着用のドレスを広げ出す。

 メリー……チョロいわ。

 広げられたドレスはレースやフリルをたっぷり使ったかわいらしいデザインのもの、豪奢な刺繍が入ったきらびやかなデザインのもの、シンプルなドレスに見えてよく見ると柄を織り込んだ生地を使ったものなど素敵なものばかりだった。

 メリーは有無を言わせずどんどん着せては、鏡の前に立たせる。
 マダムと針子達が丈を確認したり身頃を確認しながら、まち針をうったりしつけをしたりと忙しそうにしている。

 何枚試着したんだろう? 十着は下らないと思う。

「ねぇ、メリー。こんなに一度に着たらどのドレスを買えばいいかわからないわ」
「全部買ってあるんですから選ぶ必要はありませんよ。エレナお嬢様は隣国のお姫様の案内係をされるんですからこれじゃあ足りないくらいです」

 わたしがこっそり耳打ちすると、メリーから咎められた。
 そうだ。名ばかり侯爵家だとは言ってもエレナは生粋のお嬢様だった。

「エレナお嬢様も、もう十六歳なんですから着飾ってメリーの事を楽しませてくださいませ」
「……わかったわ」

 わたしの言葉を聞いたメリーは、満面の笑顔で新しいドレスを手に取った。
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