53 / 253
第二部 ロマンス小説のお姫様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します! 第一章
48 エレナ隣国との茶会に誘われる
しおりを挟む
──お茶会なんて嫌だ!
エレナはお茶会で愛想を振り撒くのが得意じゃない。
むしろ苦手だ。お茶会にいい思い出なんてない。
まぁ、そもそも記憶が曖昧ではあるけれど。
代わりにわたしが愛想を振り撒いてあげたいところだけど、残念ながらわたしもコミュ障なのできっと惨憺たる結果が待ち受けてるとしか思えない。
断固として拒否したい。
「嫌よ。出たくないわ。お兄様だってお茶会やパーティーのお誘い断るじゃない」
「僕はいいの」
「どうして!」
「僕がお茶会やパーティーに参加しない理由と、エレナが参加したくない理由は違うでしょ」
「お兄様がなんで参加しないかなんて知らないから、違うかどうかなんてわからないわ!」
「あれ? そうなの? 知ってると思った」
そう言ってお兄様はキョトンとした顔をしてわたしを見つめた。
しまった。エレナはお兄様が何故参加したくないのか知っていたのかな……
「……お兄様が参加したくない理由は許されて、なんでわたしが参加したくない理由は許されないの?」
わたしはやっぱり納得がいかない。
「ああいう場はね、交友関係を広げて深めるためにあるんだよ。エレナは殿下と結婚するんでしょ? 未来の王妃様がいつまでも社交の場から逃げてていいと思う?」
なんだか話をすり替えられた気がするけれど、そう言われてしまうと、お茶会から逃げちゃいけない事はわかる……
「でも、でも! なんで急にお茶会に参加しなくちゃいけないの⁈」
「今度参加するから、いまから心の準備してって言ってるんだよ。ほら、急じゃないでしょ?」
「でも十六歳になったからって焦らなくていいって、社交界デビューはまだ先でいいってお父様はおっしゃってたわ!」
「だから、夜会だとか舞踏会だとかじゃなくてお茶会だって!」
「でも……!」
わたしとお兄様がヒートアップするのを見つめていた殿下の人差し指が、そっとわたしの唇に触れすぐ離れる。
「注目を浴びてるから声を抑えて」
殿下の方を向くと、自分の口元で人差し指を立てて静かにするようなジェスチャーをしている。
きゃあああぁ‼︎
わたしの唇に触れた人差し指が殿下の口元に……!
「……ねぇエレナ。わたしの付き添いでついてきてくれるかな? 詳しい話はまた改めて説明するけど、今度シーワード領に隣国のイスファーン王国使者が来て、話し合いが行われるんだ。あちらからは王女も訪れるとのことだから、わたしも挨拶にいかなくてはいけない。エレナにもついてきてほしいんだけど。どう?」
真っ赤になったわたしの顔を絶世のイケメンが覗き込んで、返事を待ってくださる。
「……殿下の付き添いが務まる様に、努力します……」
うぅっ。行きたくないけど……
行きたくないけど、殿下のお願いは断れない……
「よかったー! 殿下っ! エレナを説得してくださり、ありがとうございます!」
お兄様が殿下の手を取り握りしめた時に、殿下が一瞬見せた嫌そうな顔に少し不安になる。
お兄様の頼みだから、嫌々エレナを誘ったのかしら……
お兄様は「って事で近々招待状が届くはずだから準備しておくようにね!」と宣言して、殿下達を連れて嵐のように立ち去ってしまった。
わたしは深いため息をつく。
「お茶会なんて緊張するだけだから参加したくないのに……」
参加すると言ったくせに、なかなか切り替えができないわたしを、成り行きを見守っていたスピカさんが見つめている。
「未来の王妃様。この魔法少女めが緊張しないように特別なおまじないをかけて差し上げましょう」
スピカさんは芝居がかったような台詞回しでわたしの手を取り、手のひらに指を動かす。
一はらい、二はらい。
同じ動きを三回繰り返す。
……ん? あれっ? これってもしかして「人という字を三回書いて飲むやつ」じゃない?
え?
「遠い異国のおまじないです。さぁ。手のひらに書いた文字を飲み込んでください」
ストロベリーブロンドのツインテールを揺らして意味ありげにウィンクしたスピカさんに促されて、わたしがあわてて飲み込んだのは「人という文字」だったのか「スピカさんも転生者なの?」という疑問なのかわからなくなった。
エレナはお茶会で愛想を振り撒くのが得意じゃない。
むしろ苦手だ。お茶会にいい思い出なんてない。
まぁ、そもそも記憶が曖昧ではあるけれど。
代わりにわたしが愛想を振り撒いてあげたいところだけど、残念ながらわたしもコミュ障なのできっと惨憺たる結果が待ち受けてるとしか思えない。
断固として拒否したい。
「嫌よ。出たくないわ。お兄様だってお茶会やパーティーのお誘い断るじゃない」
「僕はいいの」
「どうして!」
「僕がお茶会やパーティーに参加しない理由と、エレナが参加したくない理由は違うでしょ」
「お兄様がなんで参加しないかなんて知らないから、違うかどうかなんてわからないわ!」
「あれ? そうなの? 知ってると思った」
そう言ってお兄様はキョトンとした顔をしてわたしを見つめた。
しまった。エレナはお兄様が何故参加したくないのか知っていたのかな……
「……お兄様が参加したくない理由は許されて、なんでわたしが参加したくない理由は許されないの?」
わたしはやっぱり納得がいかない。
「ああいう場はね、交友関係を広げて深めるためにあるんだよ。エレナは殿下と結婚するんでしょ? 未来の王妃様がいつまでも社交の場から逃げてていいと思う?」
なんだか話をすり替えられた気がするけれど、そう言われてしまうと、お茶会から逃げちゃいけない事はわかる……
「でも、でも! なんで急にお茶会に参加しなくちゃいけないの⁈」
「今度参加するから、いまから心の準備してって言ってるんだよ。ほら、急じゃないでしょ?」
「でも十六歳になったからって焦らなくていいって、社交界デビューはまだ先でいいってお父様はおっしゃってたわ!」
「だから、夜会だとか舞踏会だとかじゃなくてお茶会だって!」
「でも……!」
わたしとお兄様がヒートアップするのを見つめていた殿下の人差し指が、そっとわたしの唇に触れすぐ離れる。
「注目を浴びてるから声を抑えて」
殿下の方を向くと、自分の口元で人差し指を立てて静かにするようなジェスチャーをしている。
きゃあああぁ‼︎
わたしの唇に触れた人差し指が殿下の口元に……!
「……ねぇエレナ。わたしの付き添いでついてきてくれるかな? 詳しい話はまた改めて説明するけど、今度シーワード領に隣国のイスファーン王国使者が来て、話し合いが行われるんだ。あちらからは王女も訪れるとのことだから、わたしも挨拶にいかなくてはいけない。エレナにもついてきてほしいんだけど。どう?」
真っ赤になったわたしの顔を絶世のイケメンが覗き込んで、返事を待ってくださる。
「……殿下の付き添いが務まる様に、努力します……」
うぅっ。行きたくないけど……
行きたくないけど、殿下のお願いは断れない……
「よかったー! 殿下っ! エレナを説得してくださり、ありがとうございます!」
お兄様が殿下の手を取り握りしめた時に、殿下が一瞬見せた嫌そうな顔に少し不安になる。
お兄様の頼みだから、嫌々エレナを誘ったのかしら……
お兄様は「って事で近々招待状が届くはずだから準備しておくようにね!」と宣言して、殿下達を連れて嵐のように立ち去ってしまった。
わたしは深いため息をつく。
「お茶会なんて緊張するだけだから参加したくないのに……」
参加すると言ったくせに、なかなか切り替えができないわたしを、成り行きを見守っていたスピカさんが見つめている。
「未来の王妃様。この魔法少女めが緊張しないように特別なおまじないをかけて差し上げましょう」
スピカさんは芝居がかったような台詞回しでわたしの手を取り、手のひらに指を動かす。
一はらい、二はらい。
同じ動きを三回繰り返す。
……ん? あれっ? これってもしかして「人という字を三回書いて飲むやつ」じゃない?
え?
「遠い異国のおまじないです。さぁ。手のひらに書いた文字を飲み込んでください」
ストロベリーブロンドのツインテールを揺らして意味ありげにウィンクしたスピカさんに促されて、わたしがあわてて飲み込んだのは「人という文字」だったのか「スピカさんも転生者なの?」という疑問なのかわからなくなった。
3
お気に入りに追加
1,094
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
あなはにす
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる