上 下
53 / 231
第二部 ロマンス小説のお姫様に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します! 第一章

48 エレナ隣国との茶会に誘われる

しおりを挟む
 ──お茶会なんて嫌だ!

 エレナはお茶会で愛想を振り撒くのが得意じゃない。
 むしろ苦手だ。お茶会にいい思い出なんてない。
 まぁ、そもそも記憶が曖昧ではあるけれど。
 代わりにわたしが愛想を振り撒いてあげたいところだけど、残念ながらわたしもコミュ障なのできっと惨憺たる結果が待ち受けてるとしか思えない。
 断固として拒否したい。

「嫌よ。出たくないわ。お兄様だってお茶会やパーティーのお誘い断るじゃない」
「僕はいいの」
「どうして!」
「僕がお茶会やパーティーに参加しない理由と、エレナが参加したくない理由は違うでしょ」
「お兄様がなんで参加しないかなんて知らないから、違うかどうかなんてわからないわ!」
「あれ? そうなの? 知ってると思った」

 そう言ってお兄様はキョトンとした顔をしてわたしを見つめた。

 しまった。エレナはお兄様が何故参加したくないのか知っていたのかな……

「……お兄様が参加したくない理由は許されて、なんでわたしが参加したくない理由は許されないの?」

 わたしはやっぱり納得がいかない。

「ああいう場はね、交友関係を広げて深めるためにあるんだよ。エレナは殿下と結婚するんでしょ? 未来の王妃様がいつまでも社交の場から逃げてていいと思う?」

 なんだか話をすり替えられた気がするけれど、そう言われてしまうと、お茶会から逃げちゃいけない事はわかる……

「でも、でも! なんで急にお茶会に参加しなくちゃいけないの⁈」
「今度参加するから、いまから心の準備してって言ってるんだよ。ほら、急じゃないでしょ?」
「でも十六歳になったからって焦らなくていいって、社交界デビューはまだ先でいいってお父様はおっしゃってたわ!」
「だから、夜会だとか舞踏会だとかじゃなくてお茶会だって!」
「でも……!」

 わたしとお兄様がヒートアップするのを見つめていた殿下の人差し指が、そっとわたしの唇に触れすぐ離れる。

「注目を浴びてるから声を抑えて」

 殿下の方を向くと、自分の口元で人差し指を立てて静かにするようなジェスチャーをしている。

 きゃあああぁ‼︎
 わたしの唇に触れた人差し指が殿下の口元に……!

「……ねぇエレナ。わたしの付き添いでついてきてくれるかな? 詳しい話はまた改めて説明するけど、今度シーワード領に隣国のイスファーン王国使者が来て、話し合いが行われるんだ。あちらからは王女も訪れるとのことだから、わたしも挨拶にいかなくてはいけない。エレナにもついてきてほしいんだけど。どう?」

 真っ赤になったわたしの顔を絶世のイケメンが覗き込んで、返事を待ってくださる。

「……殿下の付き添いが務まる様に、努力します……」

 うぅっ。行きたくないけど……
 行きたくないけど、殿下のお願いは断れない……

「よかったー! 殿下っ! エレナを説得してくださり、ありがとうございます!」

 お兄様が殿下の手を取り握りしめた時に、殿下が一瞬見せた嫌そうな顔に少し不安になる。
 お兄様の頼みだから、嫌々エレナを誘ったのかしら……

 お兄様は「って事で近々招待状が届くはずだから準備しておくようにね!」と宣言して、殿下達を連れて嵐のように立ち去ってしまった。

 わたしは深いため息をつく。

「お茶会なんて緊張するだけだから参加したくないのに……」

 参加すると言ったくせに、なかなか切り替えができないわたしを、成り行きを見守っていたスピカさんが見つめている。

「未来の王妃様。この魔法少女めが緊張しないように特別なおまじないをかけて差し上げましょう」

 スピカさんは芝居がかったような台詞回しでわたしの手を取り、手のひらに指を動かす。

 一はらい、二はらい。
 同じ動きを三回繰り返す。

 ……ん? あれっ? これってもしかして「人という字を三回書いて飲むやつ」じゃない?

 え?

「遠い異国のおまじないです。さぁ。手のひらに書いた文字を飲み込んでください」

 ストロベリーブロンドのツインテールを揺らして意味ありげにウィンクしたスピカさんに促されて、わたしがあわてて飲み込んだのは「人という文字」だったのか「スピカさんも転生者なの?」という疑問なのかわからなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜

雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。 リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。 だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

皇太子殿下の秘密がバレた!隠し子発覚で離婚の危機〜夫人は妊娠中なのに不倫相手と二重生活していました

window
恋愛
皇太子マイロ・ルスワル・フェルサンヌ殿下と皇后ルナ・ホセファン・メンテイル夫人は仲が睦まじく日々幸福な結婚生活を送っていました。 お互いに深く愛し合っていて喧嘩もしたことがないくらいで国民からも評判のいい夫婦です。 先日、ルナ夫人は妊娠したことが分かりマイロ殿下と舞い上がるような気分で大変に喜びました。 しかしある日ルナ夫人はマイロ殿下のとんでもない秘密を知ってしまった。 それをマイロ殿下に問いただす覚悟を決める。

処理中です...