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第一部 最終章
43 エレナとツンデレ公爵令嬢と流行りのイヤリング
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お兄様、ちょっと待ってよ! すっごい気まずいんだけど!
殿下と二人きりで四阿に取り残される。
さっきまで騒がしかったのに、今は心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかと心配になるくらい静かだ。
「……もぅ。お兄様ったら急に飛び出して行ってなんなのかしら」
気まずくて、わたしは不貞腐れた様な独り言を呟く。
「商標権とか使用料の取り分とか、あらかたそんなところを話にいったんだろうね」
殿下はわたしと違って冷静だ。
「イヤリングが流行った様にきっとカフスボタンも王都で流行るだろうし、そのときにエレナが発案したってだけじゃなくて、私に贈った物となればそれだけ箔もつくだろう。共同事業者として商標権登録するつもりで、自分に有利に事を運ぶためにも私に付けさせておきたいんだろうな」
……不覚だわ。
前世の知識で金儲けとか転生モノの醍醐味なのに全くそんな事思いつかなかった……
っていうかそもそも前世? の知識なのかな。
わたしは別にリメイクとか全く詳しくないんだけど。
むしろ手芸好きなエレナだからこその思いつきな気がする。
「エリオットはめざといね」
殿下はそう感心した様に言うと、わたしに隣へ座る様促す。
恐る恐る隣に座り横目で見た殿下は目を瞑り深くため息をつく。
わたしからカフスボタンをお渡しした方がいいのよね。
意を決して殿下に顔を向けると、同時に殿下も目を開きわたしに顔を向けた。
目が合ってカァッと顔が熱くなるのがわかる。
目を逸らしたいけど、真剣な眼差しに絡め取られて目線を動かす事がままならない。
「エレナはわたしの分もカフスボタンを用意してくれたんだね」
以前の様に「エレナ」と呼び捨てられて心臓が跳ね上がる。
そうだ。以前の殿下はエレナの事を呼び捨てていて「エレナ嬢」なんて形式張った呼び方はしていなかった。
いつからか形式張った呼び方に変わり、距離を感じていたけれど、久しぶりにエレナと呼ばれて胸がいっぱいになり、涙が自然に溢れてくる。
「どうしたの? 泣かないでエレナ。私はエレナに泣かれるのは、めっぽう弱い」
取り出そうとしたハンカチは、すでにわたしをベンチに座らせるときに出していたことに気がつき、慌てた殿下を見て自然に笑みが溢れる。
「笑ったね」
そういうと、殿下は両手でわたしの顔を優しく包み親指でそっと涙を拭う。
大きくて少し骨ばった男らしい温かな手に顔をすっぽりと包まれて、耳たぶまで真っ赤になっているに違いないわたしの顔を見つめると、殿下は満足げに微笑んでから手を離した。
「ねぇ、エレナ。どんなカフスボタンか見せてくれる?」
「……はい」
恐る恐る、袋ごと殿下に手渡す。
殿下はわたしから受け取った袋から大切そうにカフスボタンを取り出して手に取り、ハッとした顔でわたしを見る。
「マーガレットだ……」
依頼したカフスボタンは去年エレナが殿下に送ったハンカチの縁飾りに付けたレースをイメージしてデザインしている。
透かし彫りで並ぶマーガレットの 筒状花部分に緑と茶色の小さな石を交互に配置した。
殿下にお渡しするなんて考えずに趣味丸出しで作ってしまった事を後悔する。
「本当はお渡しするつもりで作ったものではなくて、その……あの……お兄様のいう様に殿下がもしこんなカフスボタンをつけてくださってたら嬉しいなって思いながら、わたしが眺めるために作った鑑賞用のものなので……あまり日常でお使いいただくのには向いていないかもしれなくて……」
言っていてどんどん恥ずかしくなるわたしを見つめる瞳は優しい。
殿下は袖につけたカフスボタンをゆっくりと撫でる。
まるで、愛しい気持ちが溢れるように。
「……本当だな。エレナが私のそばにいて、勇気を与えてくれる気がする」
自分の心音が頭の中で鳴り響いている中で、そんな都合の良い空耳が聞こえた。
殿下と二人きりで四阿に取り残される。
さっきまで騒がしかったのに、今は心臓の音が聞こえちゃうんじゃないかと心配になるくらい静かだ。
「……もぅ。お兄様ったら急に飛び出して行ってなんなのかしら」
気まずくて、わたしは不貞腐れた様な独り言を呟く。
「商標権とか使用料の取り分とか、あらかたそんなところを話にいったんだろうね」
殿下はわたしと違って冷静だ。
「イヤリングが流行った様にきっとカフスボタンも王都で流行るだろうし、そのときにエレナが発案したってだけじゃなくて、私に贈った物となればそれだけ箔もつくだろう。共同事業者として商標権登録するつもりで、自分に有利に事を運ぶためにも私に付けさせておきたいんだろうな」
……不覚だわ。
前世の知識で金儲けとか転生モノの醍醐味なのに全くそんな事思いつかなかった……
っていうかそもそも前世? の知識なのかな。
わたしは別にリメイクとか全く詳しくないんだけど。
むしろ手芸好きなエレナだからこその思いつきな気がする。
「エリオットはめざといね」
殿下はそう感心した様に言うと、わたしに隣へ座る様促す。
恐る恐る隣に座り横目で見た殿下は目を瞑り深くため息をつく。
わたしからカフスボタンをお渡しした方がいいのよね。
意を決して殿下に顔を向けると、同時に殿下も目を開きわたしに顔を向けた。
目が合ってカァッと顔が熱くなるのがわかる。
目を逸らしたいけど、真剣な眼差しに絡め取られて目線を動かす事がままならない。
「エレナはわたしの分もカフスボタンを用意してくれたんだね」
以前の様に「エレナ」と呼び捨てられて心臓が跳ね上がる。
そうだ。以前の殿下はエレナの事を呼び捨てていて「エレナ嬢」なんて形式張った呼び方はしていなかった。
いつからか形式張った呼び方に変わり、距離を感じていたけれど、久しぶりにエレナと呼ばれて胸がいっぱいになり、涙が自然に溢れてくる。
「どうしたの? 泣かないでエレナ。私はエレナに泣かれるのは、めっぽう弱い」
取り出そうとしたハンカチは、すでにわたしをベンチに座らせるときに出していたことに気がつき、慌てた殿下を見て自然に笑みが溢れる。
「笑ったね」
そういうと、殿下は両手でわたしの顔を優しく包み親指でそっと涙を拭う。
大きくて少し骨ばった男らしい温かな手に顔をすっぽりと包まれて、耳たぶまで真っ赤になっているに違いないわたしの顔を見つめると、殿下は満足げに微笑んでから手を離した。
「ねぇ、エレナ。どんなカフスボタンか見せてくれる?」
「……はい」
恐る恐る、袋ごと殿下に手渡す。
殿下はわたしから受け取った袋から大切そうにカフスボタンを取り出して手に取り、ハッとした顔でわたしを見る。
「マーガレットだ……」
依頼したカフスボタンは去年エレナが殿下に送ったハンカチの縁飾りに付けたレースをイメージしてデザインしている。
透かし彫りで並ぶマーガレットの 筒状花部分に緑と茶色の小さな石を交互に配置した。
殿下にお渡しするなんて考えずに趣味丸出しで作ってしまった事を後悔する。
「本当はお渡しするつもりで作ったものではなくて、その……あの……お兄様のいう様に殿下がもしこんなカフスボタンをつけてくださってたら嬉しいなって思いながら、わたしが眺めるために作った鑑賞用のものなので……あまり日常でお使いいただくのには向いていないかもしれなくて……」
言っていてどんどん恥ずかしくなるわたしを見つめる瞳は優しい。
殿下は袖につけたカフスボタンをゆっくりと撫でる。
まるで、愛しい気持ちが溢れるように。
「……本当だな。エレナが私のそばにいて、勇気を与えてくれる気がする」
自分の心音が頭の中で鳴り響いている中で、そんな都合の良い空耳が聞こえた。
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