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第一部 第三章
37 エレナと悲劇の公爵令嬢
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「殿下。恐れ入りますが、伺ってもよろしいでしょうかっ!」
自分がきっかけで睨み合いが始まったことなど微塵も気にしていないかの様なダスティン様の凛とした声が響く。
「構わない」
「ありがとうございます! 殿下はコーデリア様が私に好意を持っていらっしゃるとお思いなのはなぜですか?」
「思ってねぇよ。適当に言ってるに決まってるだろ」
ダスティン様が真っ直ぐな眼で殿下に質問したのに、オーウェン様が答える。
「オーウェン。ダスティンは私に質問をしている。なぜお前が答えるんだ」
「上っ面だけで適当に答えてる様にしか思えないからだよ」
「適当ではない。見ていればわかる」
「へぇ。ちっとも俺にはわかりませんけど」
「常に冷静なコーデリア嬢があんなに激しく感情をあらわにするなど尋常ではない。感情が揺れ動き、抑えきれぬ程の好意を持っているのだろう事は想像に難くない。だからダスティン、自信を持つといい」
殿下がダスティン様を励ましておっしゃる言葉の端々から、他人に興味がなさそうに思っていた殿下が、誰よりもコーデリア様の心を深く理解しているという事実が伝わり、わたしの心を重くする。
コーデリア様が殿下を毛嫌いしていたから油断していた。
殿下は、やっぱりコーデリア様に特別な感情をお持ちなんだ。
わたしと同じくらい落ち込まれてるのでは? とダスティン様の様子を窺ってみると、殿下の事を尊敬の眼差しで見つめているのが見えた。
ダスティン様は素直にその言葉の通り殿下のおっしゃる事を受け入れている。
きっとコーデリア様はこういうダスティン様の素直で実直なところがお好きなのよね。
なかなか気持ちが晴れないので、さっさとイヤリングをお渡しして屋敷に帰ろう。
お兄様は一緒に帰ってくださるかしら。
そう考えながらイヤリングをハンカチに包み直す。
「あの。ダスティン様。コーデリア様から受け取れないとお預かりしたイヤリングなので、ダスティン様にお返ししますね」
「……コーデリア様が受け取っていただけないにしろ、私がイヤリングを持っていても仕方がない。よろしければエレナ様受け取っていただけますか?」
「へ?」
曇りのない眼でダスティン様に想定していない事を言われて、なんて答えればいいかわからない。
「ちょっと待ってダスティン! 本当に意味がわからない! なんで今度はエレナにイヤリングをプレゼントすることになるの⁈」
お兄様のいいところは、こういう時に思った事をそのまま口に出して言うところだと思う。
それを言ったら、まぁオーウェン様も思った事をすぐ言うのだけれど。
「このイヤリングを見て多くの方が殿下を想像されるというのなら、婚約者であるエレナ様が持たれているのが自然です」
「これを殿下がエレナに贈ったのなら自然だけど、ダスティンが贈ってたら不自然でしょ」
「私も貴族の端くれ。殿下の臣下です。私のものは全て主である殿下のものです。そう思えば何の問題もないですよ」
いいこと思いついたみたいな晴れやかな顔してるダスティン様の感性には、やっぱりちょっと着いていけない。
でもコーデリア様はこのイヤリングをダスティン様に返す様に言ってたし、ダスティン様も返されても困るのもよくわかる……
この世界にもクーリングオフってあるのかしら……
あったにしても、貴族は「買ったもの返すから返金しろ」なんて言わないか。
捨てられちゃうのかな。
素敵なイヤリングなのにもったいない。
うーん。でも、絶対わたしが受け取るのはおかしいし。
なんかうまいこと活用できないのかしら。
リメイクとか。
いろいろ考えていたら、すごくいい事思いついてしまった。
「ダスティン様! とりあえず、このイヤリングわたしがお預かりしていてもよろしいですか?」
「私は持っていても仕方のないものなので、エレナ様がよろしければお持ちください」
「いえいえ。お預かりするだけですから!」
わたしはそそくさとハンカチにイヤリングを包み、お兄様に向き合う。
「お兄様! 明日、わたしの事を街に連れていってください!」
「駄目っ!」
普段なら「エレナの頼みならしょうがないな」って言ってくれるお兄様が、ものすごい勢いで拒絶する。
「ねぇ。お兄様。お願いします」
「駄目なものはダメ! エレナは何を考えてるの? こないだ階段から足を踏み外したのだって、街にでて辛い思いしてフラフラだったからでしょ。なんでまた街に出ようとするの!」
お兄様のいいところは思った事をそのまま口に出して言うところだと思う。
階段から落ちたのは事故だけど、事故が起きたのには原因がある事がわかった。
エレナは街で辛い思いをした。
なんだろう。何があったんだろう。
思い出そうとすると心に真っ黒な靄がたまっていく感じがして、心の中のエレナが思い出さないで! って叫んでる気がする。
「……わかりました。街に行かないで済む方法を考えてみます」
「よかった。エレナが何したいのかわからないけど、とにかく街に行かないでね」
わたしの言葉に安心したお兄様が強くわたしを抱きしめる。
お兄様の肩の向こうに、眉間に皺を寄せる殿下の顔が見えた。
自分がきっかけで睨み合いが始まったことなど微塵も気にしていないかの様なダスティン様の凛とした声が響く。
「構わない」
「ありがとうございます! 殿下はコーデリア様が私に好意を持っていらっしゃるとお思いなのはなぜですか?」
「思ってねぇよ。適当に言ってるに決まってるだろ」
ダスティン様が真っ直ぐな眼で殿下に質問したのに、オーウェン様が答える。
「オーウェン。ダスティンは私に質問をしている。なぜお前が答えるんだ」
「上っ面だけで適当に答えてる様にしか思えないからだよ」
「適当ではない。見ていればわかる」
「へぇ。ちっとも俺にはわかりませんけど」
「常に冷静なコーデリア嬢があんなに激しく感情をあらわにするなど尋常ではない。感情が揺れ動き、抑えきれぬ程の好意を持っているのだろう事は想像に難くない。だからダスティン、自信を持つといい」
殿下がダスティン様を励ましておっしゃる言葉の端々から、他人に興味がなさそうに思っていた殿下が、誰よりもコーデリア様の心を深く理解しているという事実が伝わり、わたしの心を重くする。
コーデリア様が殿下を毛嫌いしていたから油断していた。
殿下は、やっぱりコーデリア様に特別な感情をお持ちなんだ。
わたしと同じくらい落ち込まれてるのでは? とダスティン様の様子を窺ってみると、殿下の事を尊敬の眼差しで見つめているのが見えた。
ダスティン様は素直にその言葉の通り殿下のおっしゃる事を受け入れている。
きっとコーデリア様はこういうダスティン様の素直で実直なところがお好きなのよね。
なかなか気持ちが晴れないので、さっさとイヤリングをお渡しして屋敷に帰ろう。
お兄様は一緒に帰ってくださるかしら。
そう考えながらイヤリングをハンカチに包み直す。
「あの。ダスティン様。コーデリア様から受け取れないとお預かりしたイヤリングなので、ダスティン様にお返ししますね」
「……コーデリア様が受け取っていただけないにしろ、私がイヤリングを持っていても仕方がない。よろしければエレナ様受け取っていただけますか?」
「へ?」
曇りのない眼でダスティン様に想定していない事を言われて、なんて答えればいいかわからない。
「ちょっと待ってダスティン! 本当に意味がわからない! なんで今度はエレナにイヤリングをプレゼントすることになるの⁈」
お兄様のいいところは、こういう時に思った事をそのまま口に出して言うところだと思う。
それを言ったら、まぁオーウェン様も思った事をすぐ言うのだけれど。
「このイヤリングを見て多くの方が殿下を想像されるというのなら、婚約者であるエレナ様が持たれているのが自然です」
「これを殿下がエレナに贈ったのなら自然だけど、ダスティンが贈ってたら不自然でしょ」
「私も貴族の端くれ。殿下の臣下です。私のものは全て主である殿下のものです。そう思えば何の問題もないですよ」
いいこと思いついたみたいな晴れやかな顔してるダスティン様の感性には、やっぱりちょっと着いていけない。
でもコーデリア様はこのイヤリングをダスティン様に返す様に言ってたし、ダスティン様も返されても困るのもよくわかる……
この世界にもクーリングオフってあるのかしら……
あったにしても、貴族は「買ったもの返すから返金しろ」なんて言わないか。
捨てられちゃうのかな。
素敵なイヤリングなのにもったいない。
うーん。でも、絶対わたしが受け取るのはおかしいし。
なんかうまいこと活用できないのかしら。
リメイクとか。
いろいろ考えていたら、すごくいい事思いついてしまった。
「ダスティン様! とりあえず、このイヤリングわたしがお預かりしていてもよろしいですか?」
「私は持っていても仕方のないものなので、エレナ様がよろしければお持ちください」
「いえいえ。お預かりするだけですから!」
わたしはそそくさとハンカチにイヤリングを包み、お兄様に向き合う。
「お兄様! 明日、わたしの事を街に連れていってください!」
「駄目っ!」
普段なら「エレナの頼みならしょうがないな」って言ってくれるお兄様が、ものすごい勢いで拒絶する。
「ねぇ。お兄様。お願いします」
「駄目なものはダメ! エレナは何を考えてるの? こないだ階段から足を踏み外したのだって、街にでて辛い思いしてフラフラだったからでしょ。なんでまた街に出ようとするの!」
お兄様のいいところは思った事をそのまま口に出して言うところだと思う。
階段から落ちたのは事故だけど、事故が起きたのには原因がある事がわかった。
エレナは街で辛い思いをした。
なんだろう。何があったんだろう。
思い出そうとすると心に真っ黒な靄がたまっていく感じがして、心の中のエレナが思い出さないで! って叫んでる気がする。
「……わかりました。街に行かないで済む方法を考えてみます」
「よかった。エレナが何したいのかわからないけど、とにかく街に行かないでね」
わたしの言葉に安心したお兄様が強くわたしを抱きしめる。
お兄様の肩の向こうに、眉間に皺を寄せる殿下の顔が見えた。
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