上 下
26 / 231
第一部 第二章

26 エレナ王立学園で過ごす

しおりを挟む
 悪口は言い慣れてるけど、反論され慣れていないだろうご令嬢方はわたしの突然の行動に思い切り目を見開く。

「どういうおつもりか伺っておりますけど、聞こえませんでした?」
「いやですわ、言葉の通り、魔法が使える女性だという意味しかございませんわ。エレナ様に差別意識があるから違う意味に聞こえるんではございませんこと?」

 うわ。ムカつく!

「エレナ様! わたしのことなんて無理に庇わなくても大丈夫です! 皆さまも悪気があったわけではないってことですよね?」
「スピカさんは黙っていらして! わたしはこちらの皆さまに尋ねているのです! 特待生ということは国にとって必要な人材として求められているというのに、そんなスピカさんに悪口言うなんて国への反逆です!」

 わたしがそう叫ぶと、何か言おうとしたご令嬢達がぐっと押し黙り顔を歪める。

「それに、スピカさんはわたしの大切な友人ですっ! そのスピカさんを侮辱するというのは、未来の王妃を挑発したとみなしますから、覚悟なさいませっ!」

 わたしはそう言って荷物をまとめると、逃げる様にお兄様が待っているだろう中庭に向かう。

 ……やっちゃった。

 ついカッとなって啖呵を切ってしまった。

 悪口を言ってたあっちも悪役令嬢みたいだけど、殿下の婚約者という権力を笠に着たわたしの上から目線な発言もまるっきり悪役令嬢みたいだ。

 悪役令嬢みたいにならない様にと思っているのに……

「エレナ様」

 スピカさんの声に振り返る。
 追いかけてきてくれたのね。

「ありがとうございます」

 そう言ってわたしの手をぎゅっと握る。

「そんなお礼を言われることなんてしていないわ。偉そうに啖呵を切って逃げただけだもの」
「エレナ様が友人って言ってくださったこと、ほんとうに嬉しいです」
「え? あ、そっち?」

 スピカさんは頷くと気まずそうな顔でわたしを見つめる。

「そして、すみません」

 深々とストロベリーブロンドのあたまをさげた。ツインテールが勢いよく揺れる。

「なに? 急にあやまって」
「さっきエレナ様に魔法をかけてしまいました」
「えっ! 魔法? どういうこと?」
「あの場をおさめるために、エレナ様とあの人たちに魔法をかけたんです」
「魔法? スピカさんの? えっ? 魔法かけられたなんて気がつかなかったわ!」

 お医者様に治癒していただいた時は魔力の流れを感じて、魔法にかけられたことがよくわかった。
 さっきは何も感じなかった。
 スピカさんに何か魔法をかけられたとは思えない。

「みんな……何も喋れなくなる予定だったんです」
「どういう事?」
「さっきわたしが叫んだ時に、エレナ様もお嬢様方も嘘がつけないように、言葉に魔力を込めました」

 なんか言われてみればスピカさんがそんな事叫んでいた気がする。

「わたしの魔法は『一定時間だけ発言を制限させる事』が出来るんです。自分の心と乖離した事……いわゆる嘘を言おうとすると言葉がなかなか出て来ずに、無理に発言しようとすると頭に激痛が走ります。だから……本心しか話せないのでみんな何も喋れずに沈黙が訪れるって思ったんです」
「それで、あの人たちは心にもないことを言っていたから、黙ってしまったのね」

 凄い!

 魔法って治癒魔法とか火や水の力みたいのじゃないのね。
 なんか魔法ってより呪いみたいな感じか!
 そういえば光魔法と闇魔法に体系が分かれるって聞いたし、スピカさんは闇魔法が使えるって事ね。

 可愛らしい見た目から勝手に光魔法だと思い込んでいたから、思っていたイメージと違ってびっくりしたけど、スピカさんの事を国が囲いたい理由もわかった。
 間諜をあぶり出したりするのに便利だ。

「本当にスピカさんって凄いのね。あ、ねぇわたしにまだ魔法はかかってるの? 何か嘘ついてみてもいい? どれくらい頭が痛くなるのか試してみたいんだけど」
「もうかかってませんよ」
「あら、そうなの? 残念」
「……エレナ様。わたし、将来は王妃様専属の近衛騎士になります!」

 わたしは、泣き笑いのスピカさんに急に抱きしめられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

二度とお姉様と呼ばないで〜婚約破棄される前にそちらの浮気現場を公開させていただきます〜

雑煮
恋愛
白魔法の侯爵家に生まれながら、火属性として生まれてしまったリビア。不義の子と疑われ不遇な人生を歩んだ末に、婚約者から婚約破棄をされ更には反乱を疑われて処刑されてしまう。だが、その死の直後、五年前の世界に戻っていた。 リビアは死を一度経験し、家族を信じることを止め妹と対立する道を選ぶ。 だが、何故か前の人生と違う出来事が起こり、不可解なことが続いていく。そして、王族をも巻き込みリビアは自身の回帰の謎を解いていく。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

処理中です...