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第一部 第二章

25 エレナ王立学園で過ごす

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 王立学園アカデミーに通い始めてから、お兄様が毎日昼休みは中庭だったり食堂だったりで一緒にいてくださるし、たまに殿下もご一緒してくださる。
 嬉しいのだけれど注目を浴びる。

 二人ともイケメンだからね。
 まぁ、なんならランス様もいるから三人か。
 めっちゃ絵力が強い。
 キラキラと点描のエフェクトと、花園の背景の幻影が見える。

 しかも、オーウェン様がからかいに来たり、殿下がランス様だけじゃなく、将来の近衛騎士候補の男子生徒を連れてきたりするんだけれど、まぁすべからくイケメン揃いだ。

 この世界にはイケメンしかいないのだろうか。

 ちっともモテてないのに、はたから見た感じは逆ハーレムみたいになっている。

 あまり注目を浴びるのに慣れないわたしは肩身が狭い……
 イケメンをはべらせて注目を浴びるだけならまだいい。

 問題なのは、講堂で講義を受ける前後の休憩時間。
 ヒソヒソと陰口……というかあからさまな悪口が聞こえる。

 エレナを邪険にしているのは大きく分けて二つの派閥がある。

 まずはコーデリア様の取り巻きのご令嬢達。
 彼女達はとにかくコーデリア様が王太子妃にふさわしいと思っている派閥で、悪口っていうより「もうコーデリアお姉様が殿下とダンスを踊る姿を眺めることも出来ないなんて悲しいですわ。軽やかに踊るおふたりは舞踏会の華でしたのに」みたいな嘆きが多い。
 コーデリア様が王妃になると信じて取り入っていた上に、コーデリア様がまだご傷心ということもあって、エレナに迎合できないんだろう。
 線引きは弁えているし、婚約者が決まっていないご令嬢だとお兄様をガチで狙っている層なのであからさまな意地悪はしてこない。
 ……お兄様を狙ってるならエレナに優しくして欲しい。
 まぁ、優しくはされないけど、あからさまな意地悪もないので全然平気。

 問題なのはエレナを蹴落として殿下の婚約者になりたいご令嬢達。

 殿下はいわゆる座学で学ぶ様な勉強は王立学園アカデミーに入る前に修了していて、将来騎士になる生徒達と実践的な授業だけ受けて、後は執務室に篭ってばかりらしい。
 だから、殿下は同じ王立学園アカデミーに通っていてもお会いするのも難しいから、待ち伏せしてぶつかってみたりとベタな無理をしないと接点が作れない。
 そんな状態だったのにエレナのために殿下が時間を割いている。
 しかもエレナは人気者のお兄様の事もずっと独りじめしてるし、オーウェン様やその他将来この国を護る騎士候補の逞しいイケメン達が声をかけてくださる。
 まぁ、悪口言いたくなるよね。
 妬ましい気持ちはよくわかる。

「あの噂聞きました? コーデリア様が婚約者候補から外れてご傷心のなか殿下の幼馴染だからと図々しく婚約者の座に座ったらしいわよ」
「まぁ、浅ましい。鏡をご覧になったことないのかしら」
「エリオット様の妹さまと伺っていたからどんな美しいご令嬢かと思っていましたのに。ねぇ」

 今日も講義が終わったばかりの講堂で悪口が聞こえる。

 お茶会などの社交の場に最低限しか出ていなかったエレナは同世代の貴族の友達がほぼいない。
 そのため王立学園アカデミーに入るまで、どんなご令嬢なのかあまり知られておらずに、殿下の婚約者に内定したくらいだから、イケメンなお兄様に似た美少女だと思われていたみたい。

 いや。エレナはお兄様にそっくりで、可愛い顔してる。
 もう少し背が高くて、もう少し顔がシュッとしてたら、コーデリア様ほどじゃないにしても結構な美少女なんだと思うんだけど。

 とにかく背が低い。
 背の高い殿下と並んだらアンバランスなことくらいわかってる。
 だからって悪口言われると気が滅入る。

 ため息をつくわたしの後ろで、慰める様にスピカさんが髪の毛を優しくとかしてくれている。

「ほら、今もあの平民に髪の毛を整えさせていますわ。自分で手鏡を使って確認すればよろしいのに」
「自分の顔を見たくないから、鏡を使わないようにしているんじゃなくて?」
「だからって嫌ですわ。平民の魔女を手下にしてるなんて」

 わたしの髪の毛をとかすスピカさんの手が止まる。

 魔女?
 自分で言った時に魔法少女も酷いと思ったけど、魔女って!

 この世界は魔法があるけど、魔女に対する偏見がある。
 魔法がリアルにあるから恐怖心からくる偏見は、中世ヨーロッパに劣らないと思う。
 魔導士だったり、騎士だったり、お医者様だったり魔法を使える人たちには役職で呼ぶ事が多くて、魔女という呼び名は悪意がある時に蔑称として使う。

「どういうおつもりでスピカさんの事を『魔女』なんてお呼びになってるのかしら!」

 スピカさんの手が止まったのをいいことに、わたしはパッと立ち上がり悪口の主を睨んだ。
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