4 / 234
第一部 悲劇の公爵令嬢に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します! 第一章
4 エレナ、前世の記憶を思い出す
しおりを挟む
嵐のようだったわ……
「早くエレナお嬢様もエリオット坊ちゃまと一緒に、王立学園に通えるようになるといいですね」
突然の殿下の来訪に慌てていたメリーも、平常心を取り戻したのか、いつも通りの明るい声でわたしに話しかける。
「えぇ。そうね。あまり長く休んでしまうと勉強が追いつかなくなるわ。家庭教師でも頼まないと……」
「お勉強も大切ですが、早く元気になってくださいませ」
「ありがとうメリー」
「それはそうとエレナお嬢様。今朝は何か召し上がれそうですか」
わたしの身体をそっと起こしながらメリーは尋ねた。
「動くのはまだ身体が痛くて辛いから、ここで軽くつまめるものがいいわ」
「ベッドで食べる軽い物ですね。フルーツはいかがですか?」
「そうね。フルーツなら食べられそう。お願い出来る?」
「えぇえぇ。もちろんです。すぐにご用意いたします。お嬢様。お背中にクッション失礼します」
そう言うとメリーは手際良くわたしの背中にクッションをいくつも重ねて置く。
身体を起こした姿勢をキープできるようにすると、厨房に慌てて向かっていった。
一人になった部屋で思い出す。
苺にチェリーに桃にメロン……
フルーツの名前は元の世界と同じだわ。
それにベッドやクッションといった物の名前も同じ。
この世界独自の名詞が付いている訳じゃない。
うっすらとしたエレナの記憶を遡る。
花の名前も宝石の名前も一緒。
何か異なる物……貨幣は……円でもドルでもなかった気がする。
でも、お金で物を買ういう概念は一緒。
基本的に元の世界と同一の名詞。
名詞が異なるとボロが出るからありがたい設定だわ。
そう呟いてクッションに身を委ね朝食が届くのを待った。
朝食を終えると、お医者様がいらっしゃるのを待つ間にメリーが髪の毛を整えてくれる。
「毎日領地からお医者様をお呼びして治療していただいてたんですよ。しっかり治癒していただいていますから、エレナお嬢様には傷一つ残っておりません」
「やっぱり、わたしは怪我をしていたの?」
「いえいえ。心配無用です、身体を打ち付けたので青あざができてしまったのですが、治療でどこがあざだったのか跡がわからないくらい、すっかりキレイにしていただいていますからね。きっと今日の治療で痛みも治りますよ」
階段から落ちたにしては痛みはあっても、傷やあざがあった様子は見受けられないのが不思議だった。
話しながらもメリーの手の動きには一切の迷いがない。
髪の毛を手際よくすくい取ってまとめていく。
「お医者様に診ていただくので髪の毛は軽くまとめさせていただきました。お疲れになって横になられてもご負担はないようにしましたが、いかがでしょう?」
わたしの髪の毛を整えたメリーから手鏡を渡されて、確認するように促される。
──⁉︎
手鏡には、イケメンなエリオットお兄様を少し幼く愛らしくした美少女が映っている。
慌てて手鏡を伏せ、深呼吸してからもう一度手鏡の中を覗く。
誰? この愛くるしい少女。
「エレナお嬢様?」
心配そうに覗き込むメリーの顔が美少女の後ろに映りこむ。
いつもの心配症なメリーの顔だ。
鏡がおかしい訳じゃない。
この美少女は、わたし?
……そうよね。
兄妹なんだからお兄様に似ていて当然だわ。
昨晩、目覚めた時に恵玲奈の記憶が戻ったからエレナの顔に驚いてしまったけど、一度冷静になって鏡を見るとなんだか見慣れているような気がする。
転生すると顔も変わるのね。
恵玲奈の顔でお嬢様っていうのは確かに無理がある。
残念だけど、わたしは平面的な日本人顔をより平面にした顔をしていて、いわゆるモブ顔……
きっとこの西洋風の世界だと逆にモブとしては浮いてしまうレベルの顔だもの。
落ち着いてエレナの顔を見る。
サイドに向けて編み込みをした髪の毛は柔らかそうな栗色、キラキラしたエメラルドのような緑色の瞳。
陶器のような滑らかな肌に、口紅はつけていないはずなのに紅色に艶めくぽってりとして愛らしい唇。
少し顔が疲れて見えるのは気を失っていたからかしら。
殿下とお似合いの美女というには、ちょっと幼くて親しみやすい印象はあるけれど、でも守ってあげたくなる様な可愛いらしい顔をした美少女だ。
自分の顔をじっくり観察していると、再びメリーに声をかけられる。
「エレナお嬢様どうされましたか?」
「ううん。顔色がいつもより悪い気がしたけど、大丈夫よ。髪型も、とても可愛いわ。ありがとう」
自分に見惚れていたなんてバツが悪くなり、にっこりと微笑むとメリーが安心したのが伝わる。
「もうすぐお医者様がいらっしゃいますよ」
そう言われたわたしは慌ててメリーに手鏡を返した。
「早くエレナお嬢様もエリオット坊ちゃまと一緒に、王立学園に通えるようになるといいですね」
突然の殿下の来訪に慌てていたメリーも、平常心を取り戻したのか、いつも通りの明るい声でわたしに話しかける。
「えぇ。そうね。あまり長く休んでしまうと勉強が追いつかなくなるわ。家庭教師でも頼まないと……」
「お勉強も大切ですが、早く元気になってくださいませ」
「ありがとうメリー」
「それはそうとエレナお嬢様。今朝は何か召し上がれそうですか」
わたしの身体をそっと起こしながらメリーは尋ねた。
「動くのはまだ身体が痛くて辛いから、ここで軽くつまめるものがいいわ」
「ベッドで食べる軽い物ですね。フルーツはいかがですか?」
「そうね。フルーツなら食べられそう。お願い出来る?」
「えぇえぇ。もちろんです。すぐにご用意いたします。お嬢様。お背中にクッション失礼します」
そう言うとメリーは手際良くわたしの背中にクッションをいくつも重ねて置く。
身体を起こした姿勢をキープできるようにすると、厨房に慌てて向かっていった。
一人になった部屋で思い出す。
苺にチェリーに桃にメロン……
フルーツの名前は元の世界と同じだわ。
それにベッドやクッションといった物の名前も同じ。
この世界独自の名詞が付いている訳じゃない。
うっすらとしたエレナの記憶を遡る。
花の名前も宝石の名前も一緒。
何か異なる物……貨幣は……円でもドルでもなかった気がする。
でも、お金で物を買ういう概念は一緒。
基本的に元の世界と同一の名詞。
名詞が異なるとボロが出るからありがたい設定だわ。
そう呟いてクッションに身を委ね朝食が届くのを待った。
朝食を終えると、お医者様がいらっしゃるのを待つ間にメリーが髪の毛を整えてくれる。
「毎日領地からお医者様をお呼びして治療していただいてたんですよ。しっかり治癒していただいていますから、エレナお嬢様には傷一つ残っておりません」
「やっぱり、わたしは怪我をしていたの?」
「いえいえ。心配無用です、身体を打ち付けたので青あざができてしまったのですが、治療でどこがあざだったのか跡がわからないくらい、すっかりキレイにしていただいていますからね。きっと今日の治療で痛みも治りますよ」
階段から落ちたにしては痛みはあっても、傷やあざがあった様子は見受けられないのが不思議だった。
話しながらもメリーの手の動きには一切の迷いがない。
髪の毛を手際よくすくい取ってまとめていく。
「お医者様に診ていただくので髪の毛は軽くまとめさせていただきました。お疲れになって横になられてもご負担はないようにしましたが、いかがでしょう?」
わたしの髪の毛を整えたメリーから手鏡を渡されて、確認するように促される。
──⁉︎
手鏡には、イケメンなエリオットお兄様を少し幼く愛らしくした美少女が映っている。
慌てて手鏡を伏せ、深呼吸してからもう一度手鏡の中を覗く。
誰? この愛くるしい少女。
「エレナお嬢様?」
心配そうに覗き込むメリーの顔が美少女の後ろに映りこむ。
いつもの心配症なメリーの顔だ。
鏡がおかしい訳じゃない。
この美少女は、わたし?
……そうよね。
兄妹なんだからお兄様に似ていて当然だわ。
昨晩、目覚めた時に恵玲奈の記憶が戻ったからエレナの顔に驚いてしまったけど、一度冷静になって鏡を見るとなんだか見慣れているような気がする。
転生すると顔も変わるのね。
恵玲奈の顔でお嬢様っていうのは確かに無理がある。
残念だけど、わたしは平面的な日本人顔をより平面にした顔をしていて、いわゆるモブ顔……
きっとこの西洋風の世界だと逆にモブとしては浮いてしまうレベルの顔だもの。
落ち着いてエレナの顔を見る。
サイドに向けて編み込みをした髪の毛は柔らかそうな栗色、キラキラしたエメラルドのような緑色の瞳。
陶器のような滑らかな肌に、口紅はつけていないはずなのに紅色に艶めくぽってりとして愛らしい唇。
少し顔が疲れて見えるのは気を失っていたからかしら。
殿下とお似合いの美女というには、ちょっと幼くて親しみやすい印象はあるけれど、でも守ってあげたくなる様な可愛いらしい顔をした美少女だ。
自分の顔をじっくり観察していると、再びメリーに声をかけられる。
「エレナお嬢様どうされましたか?」
「ううん。顔色がいつもより悪い気がしたけど、大丈夫よ。髪型も、とても可愛いわ。ありがとう」
自分に見惚れていたなんてバツが悪くなり、にっこりと微笑むとメリーが安心したのが伝わる。
「もうすぐお医者様がいらっしゃいますよ」
そう言われたわたしは慌ててメリーに手鏡を返した。
5
お気に入りに追加
1,107
あなたにおすすめの小説
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる