破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩

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第一部 悲劇の公爵令嬢に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します! 第一章

17 エレナとマーガレット

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 わたしは殿下に対峙し、説得を試みることにした。

 本当に、エレナが勉強熱心でよかった。
 エレナの知識をフル稼働する。

 王国の神話によると「海洋の神」を祖とするシーワード公爵家は三大公爵家の一つで、国内でも王族に次ぐ地位を誇る。
 治めている領地はその名にふさわしく、パーシェル海に面した国境地域の大半を占める。
 領都に構える貿易港は公爵家の潤沢な資産をもとに、大きな船の荷解きも並行して出来る国内一の波止場を備え、異国との貿易による利益を独占しているような状態だ。
 その領都から王都に向かう街道は流通路として栄え、街道沿いに宿場町が発展するなど恩恵を受けている領主たちも多い。

 そして、シーワード領といえば、パーシェル海に浮かぶボルボラ諸島について触れないわけにはいかない。
 古くから真珠の産地として知られていたボルボラ諸島を、海の向こうにある隣国イスファーン王国と、奪い合い戦いを繰り広げていた過去がある。
 多くの人が命を落とし「血塗られた海」「悲劇の島」なんて呼ばれるほど、時の権力者たちによる激しい争いを繰り広げていた。
 イスファーン王国と五十年ほど前に和平を結び、 ボルボラ諸島の領有権はシーワード領に編入された。悲劇の島は新たな産業として真珠養殖の研究の場となっている。

 ──国内でもっとも栄華を誇るシーワード公爵家。

 その公爵家で起きているトラブルの内容によっては、パワーバランスが崩れてこの国に大きな打撃をもたらす可能性がある。

 きっと転生モノの王道パターンなら、前世の記憶やチート能力でシーワード領の問題を解決出来るはず。

 殿下からいつもの微笑みが消えて、さっき見た真剣な表情が顔を出す。

 殿下がじっとわたしを見ている。

 わたしはギュッと口をつぐむ。
 きっと今、口を開くと諦めの言葉を呟いてしまいそう。

 沈黙が重たい。

 わたしも殿下をじっと見つめる。

 殿下は諦めたようにため息をついて口を開く。

「……シーワード公爵が長らく病に臥せっている。そのため、弟君であるシーワード子爵がいま領地管理の手助けをしているが、シーワード子爵にはあまりよくない噂がある」
「噂……ですか?」

 殿下はわたしを見つめている。
 どこまで話の理解できるのか様子を窺っているのだろう。
 わたしは背筋を伸ばして殿下の顔をじっと見つめたまま頷く。

「シーワード子爵は以前から賭け事に傾倒していて大きな借金がある。そのため貿易都市として栄えているシーワード公爵領主の座を狙い、不正を働こうとしている」

 家督争いによる内政不安か……

「そのため、シーワード公爵自身が目の黒いうちにと、娘であるコーデリア嬢に自分の息がかかった婿を取らせ領主に据えようとしている。シーワード子爵も小さな不正はあるとは聞くが、今はそれぞれ両者の取り巻き達も牽制し合っていて大きなうねりにはなっていない。シーワード子爵はこのまま我が治世の代まで泳がせ、不正の証拠を積み上げていく」
「殿下としては、しばらくは様子を見られる……という事でしょうか」
「そうだ。これでこの話はおしまいにしよう」

 だめ。
 これで話を終わらせるわけにいかない。

「殿下は、シーワード子爵が公爵領で実権を握りつつあるのを見逃されるのですか」
「見逃す……?」

 殿下が眉を顰めてわたしを見る。
 怒ってる? それともエレナがどうしてこんな主張してるのかって事を訝しんでる?

 ……えぇい! 言っちゃえ!

「すでに不正を働き、領民を苦しめているのではないのですか? 苦しむ領民がいるのを知りながら、殿下はご自身の治世の代まで見て見ぬ振りをされるのですか⁈ 不正に大きいも小さいもありません。少しでも早くシーワード公爵領を安定化させ国家の火種を消す事は、今殿下のされるべき本分なのではありませんか⁈」

 殿下の顔を見つめる。
 真剣な顔から、考えて下さっているのが伝わる。

 大丈夫。転生モノの定番なら、わたしにきっとなんかチート能力があるはず。
 シナリオがわからなくても、チート能力さえあればそれを駆使して、殿下が動いて下さったかのようにわたしが裏工作し、シーワード公爵領の家督争いに決着をつける。

 そうすればコーデリア様は政略結婚する必要もなくなり、婚約解消。
 もともと話が進んでいた殿下とご結婚することができる。
 晴れて自由の身となったエレナは領地で幸せに暮らせる。

 殿下お願い!

「……エレナ嬢のいう通りだな。私は駆け引きばかり考えて、今できることまで放棄しようとしていた。エレナ嬢の方が純粋にこの国の行く末を気にかけてくれていたね」

 そう言うと殿下は今までの愛想笑いじゃない、本物の笑顔をわたしに向けてくれた様な気がする。

「という事で殿下。わたし明日から王立学園アカデミーに行く事に決めましたので、コーデリア様をご紹介下さい」
「へっ⁈」

 殿下の殿下らしくないお返事がわたしの部屋に響いた。
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