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第一部 悲劇の公爵令嬢に婚約者の座を譲って破滅フラグを回避します! 第一章

9 エレナ、前世の記憶を思い出す

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「殿下は父上達と挨拶がお済みになったし、僕の部屋でお茶を飲もうかなと思ってたのに、エレナの事を迎えに行っちゃうからさぁ。エレナを迎えに行ったら、あのままエレナの部屋に行くことになるでしょ。……あ、そうだ! お医者様の治癒って凄いね。昨日まで気を失ってたのが嘘みたい。でも無理しちゃダメだよ。ほら、座って」

 お兄様はそう言いながらわたしを部屋に招き入れて椅子に座らせると、テキパキとメイド達にお茶を準備するように指示を出す。

 そうなの?

 ……確かに、あのタイミングで殿下にエスコートされたら支度部屋の続きにある自室に通す気がする。
 考えるわたしを尻目にお兄様は話を続ける。

「殿下は本当にデリカシーがないよね! 今朝もそうだけど、年頃の女性の寝室に入ることに、なにも疑問に思わないなんてさ! エレナの事まだ小さな子供だと思ってる証拠だよ。エレナに対して本当に失礼!」

 お兄様の発言でエレナと殿下の関係性を理解した。

 なるほど。エレナは殿下にまだ子供だと思われているのね……

 まぁ、殿下にとったら友人の妹だもんね。

 お兄様と殿下は幼馴染って設定だから、エレナとも幼少の頃から付き合いがあるはず。
 子供の頃から知ってるエレナに殿下を意識しまくったお洋服で毎度迫られていたら、そりゃあため息も漏れるに違いない。

 でも! でもよ⁈

 せっかく婚約できた大好きな殿下に、お子様扱いされてたらエレナだって辛いと思う。
 なんでエレナが殿下の婚約者になったの? とか、いつから? どうして? なんで好きなの? とかはエレナの記憶が曖昧過ぎてちっともわからないけど……
 エレナが殿下の事が大好きなのは痛いほどよくわかる。
 なのにまったくもって女性として扱ってもらえていないって事か。

 そっか。

 もしそんな状況のところに、殿下から女性として大切に扱ってもらえてるヒロインが現れたりなんてしたら……
 エレナも悲しくて辛くて、ヒロインをいじめる悪役令嬢になっちゃうのかもしれないな。

 エレナが悪役令嬢になるところなんて、さっきまでは想像つかなかったのに。
 急にありうる展開に思えて一気に憂鬱になる。

 ……ううん。

 悪役令嬢はいくつもの可能性の中の一つよ。

 エレナがヒロインの可能性だってまだ消えたわけじゃないんだから!

 それにモブとかかもしんないし。

 あ! モブか!

 王太子の婚約者がモブってちょっと違和感はあるけれど。
 でも『エレナ』の名前を聞いても、作品名がピンとこないってことは、もしかしたら王室が舞台なだけかもしれない。
 王室で開かれる茶会や舞踏会で恋の鞘当てが巻き起こったり、王家に仕える騎士とご令嬢のラブロマンスだったりが物語の内容なのよ。
 だから、本物のヒロインも悪役令嬢も別にいて、わたしもなんなら殿下だってモブかもしれない。
 それなら、名前を聞いてもピンとこないのは合点がいく。

 そうに違いない。そうだったらいいな。

 自分に言い聞かせていると、お兄様の視線を感じる。

「ねぇ、エレナ僕の話聞いてる? また考え事? 頭の中のエレナとおしゃべりする事に夢中になって、僕の話聞いてないでしょ」
「え! あっ! ううん。えっと……何言ってるの? そんな事……」

 半目でわたしを見つめているお兄様から、考え事に夢中になって話を聞いていない事を指摘されて、しどろもどろになる。
 取り繕おうと、何かを言おうとすればするほど言葉が出ない。

 お兄様を見返すと、見透かしたような半目で見つめられ続けて胸がときめく。

 くっ。

 足を組んで、肘掛けにに片肘をついて、小首を傾げる半目のイケメンがわたしを眺めてるなんて、たまらない。

 なんかのご褒美なのかな。

 お兄様。思う存分呆れてください……

 また思考が飛び始めたわたしを見ていたお兄様から「フフッ」と笑いが漏れる。

「エレナが倒れた時はどうしようかと思ったけど、元気になってよかったよ」

 そう言ってお兄様は慈しむようにわたしに笑いかける。

 イケメンの笑顔はたまらない。
 家族の顔がいいって素晴らしいな。

 お兄様の笑顔に、私も笑顔で応えた。
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