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第七章 俺の可愛い婚約者は渡さない!
第八十話 衣装合わせのあと3 侯爵宛の夜会の招待
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「旦那様。そろそろ大旦那様が食堂に向かわれる時間です。お迎えのご準備を」
針子の女が帰るのを見送ると懐中時計を片手に持った老執事が慇懃なセリフで声をかけてきた。
セリフとは裏腹に、時間を守ることもろくにできないのかとでも言いたげな目は片眼鏡の奥で光っている。
「わかった」
俺は老執事に片手を上げて応えると、食堂に向かった。
マグナレイ侯爵家別邸で生活するようになり、朝と夜はクソジジイと食事をとることになった。
屋敷お抱えの料理人が作る品の数々は宿舎なんて足元にも及ばないくらい味も質もいいはずだ。なのに、クソジジイと老執事にテーブルマナーの監視をされながら食べるためまともに味がしない。
食事の最中はクソジジイが「親子の語らいの時間だ」などと思ってもないことを言い放ち、慣れないマナーに孤軍奮闘している俺を質問責めにする。こちらは不敬になってはいけないと必死に考えて答えても興味がないのか返事はいつも「そうか」といった相槌一言で片付けられる。
「そういえば、最近デスティモナの娘を見かけないがどうしたんだ。この期に及んで逃げられでもしたのか」
弾まない会話の最中、クソジジイはまるでネリーネに逃げられていて欲しいかのようにニヤニヤとしながら俺にそう尋ねた。
「逃げられてはおりません。ネリーネ嬢の侍女の話では『マリッジブルー』ではないかとのことです。デスティモナ伯爵家の箱入り娘ですから、家を出ることが近づくことで不安に駆られることもあるのでしょう」
俺だってクソジジイに聞かれるまでもなく、ネリーネがどうしたのか知りたい。不安ばかりが膨らんでいく。
「そうか」
想定通りの反応を聞きながら、肉にフォークを突き立てる。クソジジイの後ろに立つ執事は嫌そうな顔をした。
「明日の夜会は同伴者なしだな。おいヨセフ。ステファンに招待状を渡しとけ」
いったん下がった老執事から封書を受け取る。
夜会の招待状だ。国内でも有力な伯爵家の一つであるハーミング家の紋章が蝋印されている。
「私が一人で行くのですか?」
どこかに手を回して手に入れてくるいつもの招待状は、あくまでもデスティモナ家のご令嬢様が招待客で俺はただの付き添い扱いだった。
「そうだ。マグナレイ侯爵宛の招待状だからな。いつもみたいに来客と揉めてきたりするなよ。まぁ、一人でいるステファンを構う物好きはいないか」
「あっあの、本当に私が行くのですか⁈ 閣下をご招待されたのに、私なんぞが行って良いものなのでしょうか……」
マグナレイ侯爵宛の招待状で俺が夜会に出る。
考えただけで緊張して額にドッと汗が吹き出す。
「最近は秘書官達に代理を頼むことも多い。相手だって老いぼれが夜会なんぞに来るとは思ってない。代理が来ることは織込み済みだ。それとも何かお前は代理の役割も果たせないのか」
「あ、いえ。そういうことであれば……」
なんだ。いままでは秘書官が代理をしていたのか。そうか。焦った……
俺は一気に吹き出した嫌な汗をハンカチで拭った。
針子の女が帰るのを見送ると懐中時計を片手に持った老執事が慇懃なセリフで声をかけてきた。
セリフとは裏腹に、時間を守ることもろくにできないのかとでも言いたげな目は片眼鏡の奥で光っている。
「わかった」
俺は老執事に片手を上げて応えると、食堂に向かった。
マグナレイ侯爵家別邸で生活するようになり、朝と夜はクソジジイと食事をとることになった。
屋敷お抱えの料理人が作る品の数々は宿舎なんて足元にも及ばないくらい味も質もいいはずだ。なのに、クソジジイと老執事にテーブルマナーの監視をされながら食べるためまともに味がしない。
食事の最中はクソジジイが「親子の語らいの時間だ」などと思ってもないことを言い放ち、慣れないマナーに孤軍奮闘している俺を質問責めにする。こちらは不敬になってはいけないと必死に考えて答えても興味がないのか返事はいつも「そうか」といった相槌一言で片付けられる。
「そういえば、最近デスティモナの娘を見かけないがどうしたんだ。この期に及んで逃げられでもしたのか」
弾まない会話の最中、クソジジイはまるでネリーネに逃げられていて欲しいかのようにニヤニヤとしながら俺にそう尋ねた。
「逃げられてはおりません。ネリーネ嬢の侍女の話では『マリッジブルー』ではないかとのことです。デスティモナ伯爵家の箱入り娘ですから、家を出ることが近づくことで不安に駆られることもあるのでしょう」
俺だってクソジジイに聞かれるまでもなく、ネリーネがどうしたのか知りたい。不安ばかりが膨らんでいく。
「そうか」
想定通りの反応を聞きながら、肉にフォークを突き立てる。クソジジイの後ろに立つ執事は嫌そうな顔をした。
「明日の夜会は同伴者なしだな。おいヨセフ。ステファンに招待状を渡しとけ」
いったん下がった老執事から封書を受け取る。
夜会の招待状だ。国内でも有力な伯爵家の一つであるハーミング家の紋章が蝋印されている。
「私が一人で行くのですか?」
どこかに手を回して手に入れてくるいつもの招待状は、あくまでもデスティモナ家のご令嬢様が招待客で俺はただの付き添い扱いだった。
「そうだ。マグナレイ侯爵宛の招待状だからな。いつもみたいに来客と揉めてきたりするなよ。まぁ、一人でいるステファンを構う物好きはいないか」
「あっあの、本当に私が行くのですか⁈ 閣下をご招待されたのに、私なんぞが行って良いものなのでしょうか……」
マグナレイ侯爵宛の招待状で俺が夜会に出る。
考えただけで緊張して額にドッと汗が吹き出す。
「最近は秘書官達に代理を頼むことも多い。相手だって老いぼれが夜会なんぞに来るとは思ってない。代理が来ることは織込み済みだ。それとも何かお前は代理の役割も果たせないのか」
「あ、いえ。そういうことであれば……」
なんだ。いままでは秘書官が代理をしていたのか。そうか。焦った……
俺は一気に吹き出した嫌な汗をハンカチで拭った。
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