77 / 105
第六章 可愛い婚約者にズキュンさせれれっぱなしの俺
第七十四話 ドレスのオーダー6 毒花令嬢の可愛さに俺と侍女だけ撃ち抜かれる
しおりを挟む
「弟子の一人が独り立ちを希望しておりましてね。ネリーネ様のドレスのデザインを弟子に任せてよろしいかしら? 師匠として弟子の巣立ちに何かしてやりたいと、ずっと思案しておりましたの。ネリーネ様の婚姻用のドレスを担当させていただければ弟子にも箔がつき独立のはなむけになりますわ。もちろん生地や縫製はこのメゾン・ド・リュクレールが責任を持つてやらせていただきますのでご安心ください」
そう言ったクソババアは作業机で刺繍をしている女を呼んだ。近寄ってきた女は迷惑そうな顔を隠そうともしない。
どう考えても師匠の顧客である毒花令嬢を奪ったなんて「独立のために手段を選ばない」といった噂をたてられるだけでいいことなんて何一つない。弟子の独立の出鼻をくじきたいのだろう。
あからさまにネリーネを厄介払いした上で弟子を貶めたい目の前のクソババアと、迷惑そうにしている感じの悪い女に腹を立てる。
二人の目の前に、預かってきたマグナレイ侯爵家の蝋印が押された封筒を叩きつけたらどうなるだろう。
そんなことをしても、今俺が一人痛快な気分に浸れるだけだ。
ネリーネはロザリンド夫人に口止めでもされているのか、俺が侯爵家の跡取りだなんて言って回ったりすることがない。それはロザリンド夫人がことの真相を理解しているからなのか、ネリーネが素直だからなのかはわからない。
ただわかっているのは、俺がマグナレイ侯爵家の跡取りになるはずなんてないということだ。自分で墓穴を掘って俺が笑われるだけならまだしも、ネリーネにまで恥をかかせるわけにはいかない。
ネリーネの後ろに控えたままのミアが視界に入る。口角だけを辛うじて持ち上げた気持ちの入っていない笑顔と、上品な街着のスカートを力一杯握って血管の浮き出ている手の甲からひしひしと怒りが伝わる。
俺もミアもネリーネを侮辱された怒りで気が狂いそうなのに、目の前のネリーネはクソババアの協力のお願いを嬉しそうに聞き、感じの悪い女に笑顔を向ける。
「まぁ、貴女が独立されるのね。女性職人が独立するだなんてなかなかできることではないわ。誰かパトロンは見つかりましたの? 女だてらに自分の店を出すのは大変ではなくて? わたくしもこちらの服飾店には、お世話になっていますから、協力させていただきますわ。でも、マダムはお寂しいんではなくて? 本当は独立なんてさせずにいつまでも手元に置いておきたいのでしょう?」
素直か!
いや、そうだった。ネリーネは素直なのだ。こんな時に可愛いを発揮している場合ではないが、俺とミアはネリーネの可愛さに心を撃ち抜かれる。
ただ、ネリーネのありもしない言葉の裏を勝手に解釈したクソババアには「本当は独立させたくなくて邪魔したいのでしょう」と、感じの悪い女には「パトロンもいないのに独立なんて無謀なこと女のくせに」とでも聞こえたようで、二人は複雑そうな顔をしていた。
そう言ったクソババアは作業机で刺繍をしている女を呼んだ。近寄ってきた女は迷惑そうな顔を隠そうともしない。
どう考えても師匠の顧客である毒花令嬢を奪ったなんて「独立のために手段を選ばない」といった噂をたてられるだけでいいことなんて何一つない。弟子の独立の出鼻をくじきたいのだろう。
あからさまにネリーネを厄介払いした上で弟子を貶めたい目の前のクソババアと、迷惑そうにしている感じの悪い女に腹を立てる。
二人の目の前に、預かってきたマグナレイ侯爵家の蝋印が押された封筒を叩きつけたらどうなるだろう。
そんなことをしても、今俺が一人痛快な気分に浸れるだけだ。
ネリーネはロザリンド夫人に口止めでもされているのか、俺が侯爵家の跡取りだなんて言って回ったりすることがない。それはロザリンド夫人がことの真相を理解しているからなのか、ネリーネが素直だからなのかはわからない。
ただわかっているのは、俺がマグナレイ侯爵家の跡取りになるはずなんてないということだ。自分で墓穴を掘って俺が笑われるだけならまだしも、ネリーネにまで恥をかかせるわけにはいかない。
ネリーネの後ろに控えたままのミアが視界に入る。口角だけを辛うじて持ち上げた気持ちの入っていない笑顔と、上品な街着のスカートを力一杯握って血管の浮き出ている手の甲からひしひしと怒りが伝わる。
俺もミアもネリーネを侮辱された怒りで気が狂いそうなのに、目の前のネリーネはクソババアの協力のお願いを嬉しそうに聞き、感じの悪い女に笑顔を向ける。
「まぁ、貴女が独立されるのね。女性職人が独立するだなんてなかなかできることではないわ。誰かパトロンは見つかりましたの? 女だてらに自分の店を出すのは大変ではなくて? わたくしもこちらの服飾店には、お世話になっていますから、協力させていただきますわ。でも、マダムはお寂しいんではなくて? 本当は独立なんてさせずにいつまでも手元に置いておきたいのでしょう?」
素直か!
いや、そうだった。ネリーネは素直なのだ。こんな時に可愛いを発揮している場合ではないが、俺とミアはネリーネの可愛さに心を撃ち抜かれる。
ただ、ネリーネのありもしない言葉の裏を勝手に解釈したクソババアには「本当は独立させたくなくて邪魔したいのでしょう」と、感じの悪い女には「パトロンもいないのに独立なんて無謀なこと女のくせに」とでも聞こえたようで、二人は複雑そうな顔をしていた。
6
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
悪役令嬢に転生したけど記憶が戻るのが遅すぎた件〜必死にダイエットして生き延びます!〜
ニコ
恋愛
断罪中に記憶を思い出した悪役令嬢フレヤ。そのときにはすでに国外追放が決定しており手遅れだった。
「このままでは餓死して死ぬ……!」
自身の縦にも横にも広い肉付きの良い体を眺め、フレヤは決心した。
「痩せて綺麗になって楽しい国外追放生活を満喫してやる! (ついでに豚って言いやがったあのポンコツクソ王子も見返してやる‼︎)」
こうしてフレヤのダイエット企画は始まったのだった……
※注.フレヤは時々口が悪いです。お許しくださいm(_ _)m
【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜
白崎りか
恋愛
色なしのアリアには、従兄のギルベルトが全てだった。
「ギルベルト様は私の婚約者よ! 近づかないで。色なしのくせに!」
(お兄様の婚約者に嫌われてしまった。もう、お兄様には会えないの? 私はかわいそうな「妹」でしかないから)
ギルベルトと距離を置こうとすると、彼は「一緒に暮らそう」と言いだした。
「婚約者に愛情などない。大切なのは、アリアだけだ」
色なしは魔力がないはずなのに、アリアは魔法が使えることが分かった。
糸を染める魔法だ。染めた糸で刺繍したハンカチは、不思議な力を持っていた。
「こんな魔法は初めてだ」
薔薇の迷路で出会った王子は、アリアに手を差し伸べる。
「今のままでいいの? これは君にとって良い機会だよ」
アリアは魔法の力で聖女になる。
※小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません
黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。
でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。
知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。
学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。
いったい、何を考えているの?!
仕方ない。現実を見せてあげましょう。
と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。
「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」
突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。
普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。
※わりと見切り発車です。すみません。
※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる