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第六章 可愛い婚約者にズキュンさせれれっぱなしの俺
第七十三話 ドレスのオーダー5 毒花令嬢の自慢の婚約者は周りにはそう見えない
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「デスティモナ伯爵家のお嬢様が嫁がれるのですもの、それはそれは立派なお家柄のご子息なのでしょうに、ご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした。私は王宮付きの服飾職人の末娘で、先祖代々王宮に仕えている兼ね合いで男爵位を賜っていただけの貴族とも言えない家柄でしたもので……若い頃は職人の中で過ごしてましたから恥ずかしながら社交界に疎くて、名の知れた貴族の方しか存じ上げていないんですのよ。今までそれで問題なかったからと、いつまでも職人気取りではいけませんわね。見識を広げなくては」
申し訳ないなんて微塵も思っていないような悪意に満ちた嫌味が向けられる。
ネリーネの嫌味に聞こえるだけできちんと向き合って聞けばただの疑問や心配しかない素直な言葉とは違う。
マダムの嫌味たっぷりな言い回しは、名の通っていない者はこの店には無相応だという蔑みだ。
きっと俺のことをデスティモナ家の資産に縋るしか後がなくて、藁をもすがる思いで誰もが嫌忌する社交界の毒花令嬢と婚約した没落貴族だとでも思っているのだろう。
まぁ、俺はデスティモナ家の資産に縋らないといけない没落貴族じゃない。マグナレイ侯爵に踊らされているだけで、近いうちに貴族ですらなくなりただの官吏になるはずの男だ。
大丈夫だ。自分の実力で王太子殿下付きまで成り上がってきた。爵位なんてなくても生きていける。
……そりゃ、ネリーネは自分が侯爵夫人になると信じているかもしれないけれど。
あぁ、俺が騙しているわけではないのに、後ろめたい気持ちでいっぱいになる。
「あら、お気になさらなくて結構ですわ。ご存じなくて当たり前ですのよ。ステファン様は名の知れた貴族ではありませんもの。マグナレイの姓は名乗ってらっしゃるけれど、マグナレイ侯爵領の寒村を管理する男爵家の末息子でいらっしゃるのよ。いくらマダムでもそんな最末端の貴族わからなくて当然ですわ。でも近いうちステファン様の名は社交界に轟くことになりますから今のうちに覚えておかれるとよろしいですわ」
俺がマグナレイ侯爵家の跡を継ぐと信じているはずのネリーネは曇りない瞳でキッパリと言い切る。
「こちらのステファン様は学生時代にイスファーンの文献を元に論文を書かれていて、いまではその論文は王立学園の地政学の講義で使われていますのよ。わたくしも講義を受けておりましたけど、有力貴族の子息達はみな地政学を学びますわ。海向こうの隣国との貿易が再開されますでしょう? 今後イスファーンとの関係改善によりイスファーンと我が国の関わりについて正しく学ぼうとするはずですから、有力貴族でステファン様の名前を知らないものはいなくなるはずですのよ」
自分の書いた論文が王立学園で講義に使われているなんて知らなかった。
俺は口元が緩み小鼻が膨らんでいるのを手で隠してネリーネを見る。
ネリーネは誇らしげに胸を反り、窮屈そうにドレスにおさまった巨大な肉塊でボタンがはち切れそうだった。
マダムはそんな誇らしげなネリーネを馬鹿にしたような表情で見つめていた。
きっともうこのクソババアは、ネリーネは金蔓ではないと見切ったのだろう。
「さようでいらしたのですね。あぁ。そうですわ! ネリーネ様のご結婚の門出に相応しいドレスについてでございますが、一つご相談がございます」
愛想笑いにすらなってない目だけ細めた顔でクソババアはネリーネに話しかけた。
申し訳ないなんて微塵も思っていないような悪意に満ちた嫌味が向けられる。
ネリーネの嫌味に聞こえるだけできちんと向き合って聞けばただの疑問や心配しかない素直な言葉とは違う。
マダムの嫌味たっぷりな言い回しは、名の通っていない者はこの店には無相応だという蔑みだ。
きっと俺のことをデスティモナ家の資産に縋るしか後がなくて、藁をもすがる思いで誰もが嫌忌する社交界の毒花令嬢と婚約した没落貴族だとでも思っているのだろう。
まぁ、俺はデスティモナ家の資産に縋らないといけない没落貴族じゃない。マグナレイ侯爵に踊らされているだけで、近いうちに貴族ですらなくなりただの官吏になるはずの男だ。
大丈夫だ。自分の実力で王太子殿下付きまで成り上がってきた。爵位なんてなくても生きていける。
……そりゃ、ネリーネは自分が侯爵夫人になると信じているかもしれないけれど。
あぁ、俺が騙しているわけではないのに、後ろめたい気持ちでいっぱいになる。
「あら、お気になさらなくて結構ですわ。ご存じなくて当たり前ですのよ。ステファン様は名の知れた貴族ではありませんもの。マグナレイの姓は名乗ってらっしゃるけれど、マグナレイ侯爵領の寒村を管理する男爵家の末息子でいらっしゃるのよ。いくらマダムでもそんな最末端の貴族わからなくて当然ですわ。でも近いうちステファン様の名は社交界に轟くことになりますから今のうちに覚えておかれるとよろしいですわ」
俺がマグナレイ侯爵家の跡を継ぐと信じているはずのネリーネは曇りない瞳でキッパリと言い切る。
「こちらのステファン様は学生時代にイスファーンの文献を元に論文を書かれていて、いまではその論文は王立学園の地政学の講義で使われていますのよ。わたくしも講義を受けておりましたけど、有力貴族の子息達はみな地政学を学びますわ。海向こうの隣国との貿易が再開されますでしょう? 今後イスファーンとの関係改善によりイスファーンと我が国の関わりについて正しく学ぼうとするはずですから、有力貴族でステファン様の名前を知らないものはいなくなるはずですのよ」
自分の書いた論文が王立学園で講義に使われているなんて知らなかった。
俺は口元が緩み小鼻が膨らんでいるのを手で隠してネリーネを見る。
ネリーネは誇らしげに胸を反り、窮屈そうにドレスにおさまった巨大な肉塊でボタンがはち切れそうだった。
マダムはそんな誇らしげなネリーネを馬鹿にしたような表情で見つめていた。
きっともうこのクソババアは、ネリーネは金蔓ではないと見切ったのだろう。
「さようでいらしたのですね。あぁ。そうですわ! ネリーネ様のご結婚の門出に相応しいドレスについてでございますが、一つご相談がございます」
愛想笑いにすらなってない目だけ細めた顔でクソババアはネリーネに話しかけた。
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