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第六章 可愛い婚約者にズキュンさせれれっぱなしの俺
第七十一話 ドレスのオーダー3 最高級メゾンのドレスは可愛さを台無しにする
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ネリーネに連れられて入ったメゾン・ド・リュクエールの店内は高級店と聞いて想像していたよりも薄暗くあまり広くない。
よくいえば重厚なのだろうが、初めて入ろうとする人間をまるで拒んでいるように思える。ブローチを作った宝飾店の方が華やかだが明るくて入りやすかった。
狭い店内にはドレスの見本や色とりどりの生地や糸が整然と並んでいる。傘や手提げ髪飾りなどの小物の販売もしているらしく、いくつか商品が飾られていた。
奥の窓口にいた色気たっぷりの熟女はネリーネに揉み手をしながら擦り寄ってきた。
「マダム。突然の連絡でしたのに対応してくださって嬉しいわ。今日もよろしくお願いしますわね」
「あら、いつも当店を懇意にしてくださっているネリーネ様からのご依頼ですもの当たり前ですわ。本日もお任せください。それにしても今日もお美しいですわ。ドレスがネリーネ様の美しさを引き立てております。私どもの作品はネリーネ様にお召しいただくことで完成するのだと再確認いたしました」
マダムの明らかなおべんちゃらばかりのお喋りに、俺はミアと顔を見合わせる。
「俺にはあのドレスはネリーネの可愛さを台無しにしてるとしか思えないのだが」
「意見が合いますね。でも本日お召しのドレスは旦那様に黙ってこっそり作った、ネリーネ様いわく大人っぽいドレスでお気に入りなのです。普段は旦那様が選んだ子供っぽいドレスしかお召しになれないと嘆かれるネリーネ様が、旦那様と若様がヴァカンスで屋敷を不在にしていらっしゃるからとステファン様に大人っぽい自分を見せたくて背伸びしているのですから、あまり否定しないであげてくださいませ」
「……可愛いだけじゃないか」
「えぇ。本当に可愛いらしいのです」
マダムに勧められるがまま、やたらと派手な装飾のついた髪飾りを試着しているネリーネを二人でため息混じりに眺める。
小声でミアと嘆きあえるくらいには、デスティモナ家の使用人達と親しくなることもできたのはこの休暇での成果だ。
ミアやダニー以外の使用人とも親しくなることで、デスティモナ家の使用人達がみなネリーネのことを大切に思い、変な虫がつかないように善意であの奇矯な格好に協力していたことがわかった。本当であればネリーネの可愛さを見せつけたいのはみな共通の思いのようだった。
「ネリーネお嬢様。せっかくマダムにお時間をいただいたのですから、早くお話をされては」
「あぁ。そうでしたわ。今回は婚礼用のドレスを仕立てたいの」
ミアに促されて本題を思い出したネリーネがマダムにそう告げた。
「まぁ! ではいつものサロンで詳しいお話をお伺いしますわ」
マダムは店内にある扉を開く。そこには長い廊下が続いていた。お得意様以外は中に通さないようになっているようだ。
俺たちは先導するマダムの後をついていく。扉の奥には分厚い絨毯が敷かれた廊下に幾つかの扉が並んでいた。奥に進めば進むほど扉の装飾は豪奢になる。
マダムが突き当たりの扉を開くと広く明るい部屋に応接スペースと針子たちが作業している大きなテーブルが置かれていた。
よくいえば重厚なのだろうが、初めて入ろうとする人間をまるで拒んでいるように思える。ブローチを作った宝飾店の方が華やかだが明るくて入りやすかった。
狭い店内にはドレスの見本や色とりどりの生地や糸が整然と並んでいる。傘や手提げ髪飾りなどの小物の販売もしているらしく、いくつか商品が飾られていた。
奥の窓口にいた色気たっぷりの熟女はネリーネに揉み手をしながら擦り寄ってきた。
「マダム。突然の連絡でしたのに対応してくださって嬉しいわ。今日もよろしくお願いしますわね」
「あら、いつも当店を懇意にしてくださっているネリーネ様からのご依頼ですもの当たり前ですわ。本日もお任せください。それにしても今日もお美しいですわ。ドレスがネリーネ様の美しさを引き立てております。私どもの作品はネリーネ様にお召しいただくことで完成するのだと再確認いたしました」
マダムの明らかなおべんちゃらばかりのお喋りに、俺はミアと顔を見合わせる。
「俺にはあのドレスはネリーネの可愛さを台無しにしてるとしか思えないのだが」
「意見が合いますね。でも本日お召しのドレスは旦那様に黙ってこっそり作った、ネリーネ様いわく大人っぽいドレスでお気に入りなのです。普段は旦那様が選んだ子供っぽいドレスしかお召しになれないと嘆かれるネリーネ様が、旦那様と若様がヴァカンスで屋敷を不在にしていらっしゃるからとステファン様に大人っぽい自分を見せたくて背伸びしているのですから、あまり否定しないであげてくださいませ」
「……可愛いだけじゃないか」
「えぇ。本当に可愛いらしいのです」
マダムに勧められるがまま、やたらと派手な装飾のついた髪飾りを試着しているネリーネを二人でため息混じりに眺める。
小声でミアと嘆きあえるくらいには、デスティモナ家の使用人達と親しくなることもできたのはこの休暇での成果だ。
ミアやダニー以外の使用人とも親しくなることで、デスティモナ家の使用人達がみなネリーネのことを大切に思い、変な虫がつかないように善意であの奇矯な格好に協力していたことがわかった。本当であればネリーネの可愛さを見せつけたいのはみな共通の思いのようだった。
「ネリーネお嬢様。せっかくマダムにお時間をいただいたのですから、早くお話をされては」
「あぁ。そうでしたわ。今回は婚礼用のドレスを仕立てたいの」
ミアに促されて本題を思い出したネリーネがマダムにそう告げた。
「まぁ! ではいつものサロンで詳しいお話をお伺いしますわ」
マダムは店内にある扉を開く。そこには長い廊下が続いていた。お得意様以外は中に通さないようになっているようだ。
俺たちは先導するマダムの後をついていく。扉の奥には分厚い絨毯が敷かれた廊下に幾つかの扉が並んでいた。奥に進めば進むほど扉の装飾は豪奢になる。
マダムが突き当たりの扉を開くと広く明るい部屋に応接スペースと針子たちが作業している大きなテーブルが置かれていた。
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