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第六章 可愛い婚約者にズキュンさせれれっぱなしの俺

第六十五話 二度目のデート6 芝居小屋からの帰還

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 暗幕があき客払いが始まった観客席は、人がまばらになった。
 ようやく嗚咽がおさまったネリーネの肩を抱き芝居小屋の出口に向かう。

 出口近くで待ち構えていたミアとダニーはネリーネの様子に動揺しているが、俺が直ぐに屋敷に戻ることを告げると二人ともぐちゃぐちゃと尋ねることはせずに素早く行動する。来たばかりの乗合馬車に飛び乗り、慌ててデスティモナ家の馬車に戻る。デスティモナ家の馬車にたどり着いて安心したのかミアに引き上げられ乗り込んだ途端ネリーネは再び声を上げて泣き出した。

 あぁ。早く抱きしめなくては。

 続いて乗り込もうとした俺はダニーに腕を引っ張られた。

「どういうことだ!」
「ぐぇっ」

 ダニーは俺の胸ぐらを掴む。顔が近い。首に巻いたスカーフも引っ張られて息が苦しい。こんな格好するんじゃなかった。

「ダニー! 気持ちはわかるけれど、ステファン様なんかさっさと離して馭者台に戻って馬車を出して!」

 この場に留まっていては周りに筒抜けだ。俺は馬車に乗り込み、舌打ちしたダニーは馭者台に戻り馬を鞭打つ。

 ネリーネの隣はすでにミアが座っていた。

 さっきまで俺を頼って身を委ね、腕から離したら簡単に手折れてしまいそうだった儚く可憐な金剛石の百合ダイヤモンドリリーの妖精は俺から奪われてしまった。
 腕の中からネリーネがいなくなった喪失感が俺を襲う。
 そんな俺の心情はよそに、ミアに背中をさすられたネリーネは魔法でもかけられたようにあっという間に落ち着いた。いつものように胸を張り、顔を上げて座る。さっきまで泣いていたのが嘘のようだ。

「ネリーネお嬢様。何があったのですか? いいえ。何もおっしゃらなくてもわかっております。可愛らしいネリーネお嬢様に周りの男たちが不躾な視線を送ったり不埒なことを言ってきたりしたのですね? さぞ傷つかれたことでしょう。目の前に座っているだけの冴えない男は役に立たなかったのですか?」

 ミアの侮辱するような視線は、昔から嫌というほど浴びている。なぜ世の中の女はみんな俺のことを何も知らないくせに馬鹿にするんだ。

「たしかに周りはわたくしに注目してましたし耳打ちしあってましたけど、わたくしが毒花令嬢と気がついたからだけですわ」

 自分が注目を浴びていた理由を理解していないネリーネは毅然と答える。

「何もなかったのですか?」
「何もあるわけないでしょう? それに今日はステファン様が素敵な格好をしていらっしゃるからどこぞやの貴族の青年に見えたのでしょう。誰も手出しをしてきませんでしたわ」

 素敵な格好。

 ネリーネに誇らしげにそう言われた俺はぐしゃぐしゃになった襟元を整えて胸を張った。
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