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最終章
第九十四話 事の顛末4 将来有望なイケメン達も俺を買ってくれている
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「実業家はいいが、デスティモナ伯は熱が入りすぎではないか? あまり熱心に勧誘してステファンが官吏の職を辞すようなことになるのは困るな。ステファンは私の大切な臣下だ。侯爵家の跡を継がないのであれば私の秘書官としてずっとそばにいればいい。今すぐは無理だが私の治世の世には爵位を約束してやる」
静かに俺の話を聞いてくださっていた王太子殿下は麗しい微笑みをたたえて口を挟む。
「殿下、俺なんかにもったいないお言葉です」
「何を言っているんだ。ステファンのように他国の歴史に見識があり、語学力のある人間であれば軍部が目をつけ参謀に迎え入れようと謀るのも時間の問題なのだ。すでに王立学園では地政学の講義にステファンの書いた論文が使われている。領主になる嫡男や、騎士を目指すものの中でも佐官を目指すようなもの達はみなステファンの名前を知っている。そいつらが軍部の主幹になればステファンを手元に奪おうと動き出すはずだ。今のうちに私の手元に囲っておきたい」
王太子殿下は真剣だった。
論文がそれほどまで本格的に使われているなんて知らなかった。俺の小鼻はみるみる膨らんでいく。慌てて片手で覆う。
「そうだステファン! うちの領地のどこかの村で管理者になる? 直ぐにでも男爵位が手に入るよ。実業家になっても爵位はついてこないし、殿下の治世の世はまだ先だ。僕につけばネリーネ嬢も貴族の一員のままにしてあげられるよ? ネリーネ嬢だって投資家を続けるなら貴族の一員でいた方が都合がいいと思うし、ネリーネ嬢のためにもどう? なんならステファンは官吏でも実業家でも続ければいいしさ」
「エリオット。ネリーネ嬢のためなんて甘言でステファンを口車に乗せて掻っ攫う気か?」
「あ、バレたか」
将来の君主であらせられる王太子殿下と、国内最大の資産家のデスティモナ伯爵と、未来の宰相と名高いトワイン次期侯爵が俺を手元に置きたがっている。
三人が俺を自分の手元に置きたがっているなんて事実に、鼻息が荒くなるのがわかる。
「若造どもが勝手なことを言いおって」
騒がしくなった部屋に重低音が響く。
マグナレイ侯爵は大きな声を出したわけではないのに、空気が一瞬にしてピリッとする。
「ステファンは侯爵家の跡取りだ。お前だって承諾して署名しているじゃないか」
眉間を揉みながらクソジジイは険しい顔を崩さない。
「……ネリーネと生涯を共にできるのなら何もいりません」
「勝手な美談を作り上げるな。そもそもなんだ、デスティモナの娘と結婚するのが侯爵家の跡を継ぐための条件なんて話は。初めて聞いたぞ」
「え? 閣下がおっしゃったではありませんか」
「爵位を継ぐために結婚しろとは言ったが、デスティモナの娘と結婚するのが条件なんて言ったか」
……言ってただろう?
あれ、クソジジイ本人がそうはっきり言っていたか? えっ? 言ってなかった? いや、絶対に言っていた!
「女に慣れてないお前に爵位を譲っても、ろくでもない女に騙されて侯爵家を潰されるのが目に見えてる。出自のしっかりしたお嬢さんと結婚の話まで整えてやったのにこんな騒ぎを起こしおって。ああ。ステファンの好みなんぞ配慮してやらなければよかった」
混乱する俺に、クソジジイは畳み掛ける。
「好み……」
「そうだろ。違うのか」
ネリーネに視線を送ると、期待と不安が入り混じった青い瞳が俺を睨みつけていた。
静かに俺の話を聞いてくださっていた王太子殿下は麗しい微笑みをたたえて口を挟む。
「殿下、俺なんかにもったいないお言葉です」
「何を言っているんだ。ステファンのように他国の歴史に見識があり、語学力のある人間であれば軍部が目をつけ参謀に迎え入れようと謀るのも時間の問題なのだ。すでに王立学園では地政学の講義にステファンの書いた論文が使われている。領主になる嫡男や、騎士を目指すものの中でも佐官を目指すようなもの達はみなステファンの名前を知っている。そいつらが軍部の主幹になればステファンを手元に奪おうと動き出すはずだ。今のうちに私の手元に囲っておきたい」
王太子殿下は真剣だった。
論文がそれほどまで本格的に使われているなんて知らなかった。俺の小鼻はみるみる膨らんでいく。慌てて片手で覆う。
「そうだステファン! うちの領地のどこかの村で管理者になる? 直ぐにでも男爵位が手に入るよ。実業家になっても爵位はついてこないし、殿下の治世の世はまだ先だ。僕につけばネリーネ嬢も貴族の一員のままにしてあげられるよ? ネリーネ嬢だって投資家を続けるなら貴族の一員でいた方が都合がいいと思うし、ネリーネ嬢のためにもどう? なんならステファンは官吏でも実業家でも続ければいいしさ」
「エリオット。ネリーネ嬢のためなんて甘言でステファンを口車に乗せて掻っ攫う気か?」
「あ、バレたか」
将来の君主であらせられる王太子殿下と、国内最大の資産家のデスティモナ伯爵と、未来の宰相と名高いトワイン次期侯爵が俺を手元に置きたがっている。
三人が俺を自分の手元に置きたがっているなんて事実に、鼻息が荒くなるのがわかる。
「若造どもが勝手なことを言いおって」
騒がしくなった部屋に重低音が響く。
マグナレイ侯爵は大きな声を出したわけではないのに、空気が一瞬にしてピリッとする。
「ステファンは侯爵家の跡取りだ。お前だって承諾して署名しているじゃないか」
眉間を揉みながらクソジジイは険しい顔を崩さない。
「……ネリーネと生涯を共にできるのなら何もいりません」
「勝手な美談を作り上げるな。そもそもなんだ、デスティモナの娘と結婚するのが侯爵家の跡を継ぐための条件なんて話は。初めて聞いたぞ」
「え? 閣下がおっしゃったではありませんか」
「爵位を継ぐために結婚しろとは言ったが、デスティモナの娘と結婚するのが条件なんて言ったか」
……言ってただろう?
あれ、クソジジイ本人がそうはっきり言っていたか? えっ? 言ってなかった? いや、絶対に言っていた!
「女に慣れてないお前に爵位を譲っても、ろくでもない女に騙されて侯爵家を潰されるのが目に見えてる。出自のしっかりしたお嬢さんと結婚の話まで整えてやったのにこんな騒ぎを起こしおって。ああ。ステファンの好みなんぞ配慮してやらなければよかった」
混乱する俺に、クソジジイは畳み掛ける。
「好み……」
「そうだろ。違うのか」
ネリーネに視線を送ると、期待と不安が入り混じった青い瞳が俺を睨みつけていた。
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