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第五章 毒花令嬢は俺の可愛い婚約者
第五十七話 満ち足りた日々16 クソジジイが俺を利用するなら俺もクソジジイを利用してやる
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片眼鏡の老執事が、慇懃にお茶を出す。相変わらず客間ではなく執務室に通された俺は出されたお茶を音を立てて啜る。
俺は朝からマグナレイ侯爵家別邸に呼び出されていた。
今日はせっかくの休みで、昼からネリーネの元を訪ねるはずだったのに。
きっと今日を心待ちにしていたネリーネが、今朝、急に来訪が遅くなる先触れを聞いて悲しんでいるに違いない。
クソジジイの呼び出しで予定が狂ってしまったことに苛立っていた俺の粗暴な振る舞いに、執事の片眉がピクリと動く。一瞬怯んだが、客扱いされていないのだからマナーを守る必要もない。俺はティーカップをガチャリと置きマグナレイ侯爵と向き合った。
「貴族院で養子縁組の書類は受理された。お前は正式にマグナレイ本家の養子となった」
マグナレイ侯爵はたいしたことでもなさそうにいうと、目の前でお茶を飲む。美しい所作に余裕を感じさせる。
「一族への発表はデスティモナ家の娘との結婚の発表と同時にするからな」
まだ発表はしない。
つまりネリーネと結婚するのが公にする条件だというのだろう。
クソジジイはニヤリと笑う。
少し前までは、自分がロザリンド夫人とねんごろになりたいなんて私利私欲のためにと腹立たしかったが、今は違う。
クソジジイが俺を利用するなら、俺だって、ネリーネと結婚するためにクソジジイから少しでもいい条件を引き出してやる。
「発表は閣下のお考えのタイミングで構いません。ただ、伯爵家のお嬢様と結婚するあたり、私一人では満足に準備ができません。今も住んでおりますのは官吏向けの宿舎ですし、そこにお迎えするわけにはいけません。お力添えいただきたいのですが……」
ネリーネと住むためにはそれなりの新居を用意しないわけにはいかない。クソジジイなら市街で売りに出ている没落貴族の屋敷の一つや二つ買うのは造作もないだろう。
「あぁ、そうか。何も言っていなかったな。本邸は私が死んだ後だが、この別邸はいまくれてやる。ここに二人で住めば良い。まぁ、とは言っても王都で仕事をすることも多いからその際は滞在はするがな。おいヨセフ。書類を用意しろ。あと結婚式に必要だからと装飾具もこないだ本邸から取り寄せただろう。後でステファンに見せてやれ。まずはこの屋敷の権利をステファンに譲るための書類を書かないとな」
え? この屋敷……?
呼ばれた老執事は、マグナレイ侯爵のティーカップを下げ書類の準備を始めた。
マグナレイ侯爵は俺の戸惑いをよそに署名した書類を差し出す。
「旦那様。私めのことはヨセフとお呼びください。何なりとお申し付けを」
そう言って老執事は俺に向かって深々と頭を下げた。
もしかして……本当に俺のことを侯爵家の跡取りに考えているのか?
マグナレイ侯爵の顔を見てもいつも通り不敵にニヤニヤと笑うだけで、俺には真意が何一つわからなかった。
俺は朝からマグナレイ侯爵家別邸に呼び出されていた。
今日はせっかくの休みで、昼からネリーネの元を訪ねるはずだったのに。
きっと今日を心待ちにしていたネリーネが、今朝、急に来訪が遅くなる先触れを聞いて悲しんでいるに違いない。
クソジジイの呼び出しで予定が狂ってしまったことに苛立っていた俺の粗暴な振る舞いに、執事の片眉がピクリと動く。一瞬怯んだが、客扱いされていないのだからマナーを守る必要もない。俺はティーカップをガチャリと置きマグナレイ侯爵と向き合った。
「貴族院で養子縁組の書類は受理された。お前は正式にマグナレイ本家の養子となった」
マグナレイ侯爵はたいしたことでもなさそうにいうと、目の前でお茶を飲む。美しい所作に余裕を感じさせる。
「一族への発表はデスティモナ家の娘との結婚の発表と同時にするからな」
まだ発表はしない。
つまりネリーネと結婚するのが公にする条件だというのだろう。
クソジジイはニヤリと笑う。
少し前までは、自分がロザリンド夫人とねんごろになりたいなんて私利私欲のためにと腹立たしかったが、今は違う。
クソジジイが俺を利用するなら、俺だって、ネリーネと結婚するためにクソジジイから少しでもいい条件を引き出してやる。
「発表は閣下のお考えのタイミングで構いません。ただ、伯爵家のお嬢様と結婚するあたり、私一人では満足に準備ができません。今も住んでおりますのは官吏向けの宿舎ですし、そこにお迎えするわけにはいけません。お力添えいただきたいのですが……」
ネリーネと住むためにはそれなりの新居を用意しないわけにはいかない。クソジジイなら市街で売りに出ている没落貴族の屋敷の一つや二つ買うのは造作もないだろう。
「あぁ、そうか。何も言っていなかったな。本邸は私が死んだ後だが、この別邸はいまくれてやる。ここに二人で住めば良い。まぁ、とは言っても王都で仕事をすることも多いからその際は滞在はするがな。おいヨセフ。書類を用意しろ。あと結婚式に必要だからと装飾具もこないだ本邸から取り寄せただろう。後でステファンに見せてやれ。まずはこの屋敷の権利をステファンに譲るための書類を書かないとな」
え? この屋敷……?
呼ばれた老執事は、マグナレイ侯爵のティーカップを下げ書類の準備を始めた。
マグナレイ侯爵は俺の戸惑いをよそに署名した書類を差し出す。
「旦那様。私めのことはヨセフとお呼びください。何なりとお申し付けを」
そう言って老執事は俺に向かって深々と頭を下げた。
もしかして……本当に俺のことを侯爵家の跡取りに考えているのか?
マグナレイ侯爵の顔を見てもいつも通り不敵にニヤニヤと笑うだけで、俺には真意が何一つわからなかった。
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