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第五章 毒花令嬢は俺の可愛い婚約者

第四十二話 満ち足りた日々1 暇潰しの話題にされるほど残念ながら暇じゃない

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「ねぇねぇ。デートどうだったの?」

 寝れない夜を過ごしてしまったせいで、重たい頭を抱えて仕事場に着くや否や、暢気な声が響いた。王太子殿下腹心のトワイン侯爵家のお坊っちゃまだ。無駄に通る声が頭に響く。
 王太子殿下が留守なのをいいことに王太子殿下の席に堂々と座り周りと雑談しているのを一瞥し、自分の席に座った。

「もう! ステファンったら、無視しないでよ」
「……私なんぞにご用でしたか。失礼しました。名を呼ばれなかったもので私にお声がけいただいたとは思いも致しませんでした」

 嫌味で返す。
 だいたいなんで俺が昨日ネリーネ嬢とデートをしたなんてコイツが知ってるんだ。
 俺はお坊っちゃまと雑談していた、ケインとニールスを睨みつける。

「今入り口から入ってきたのはステファンだけなんだから、ステファンに声をかけたに決まってるでしょ」
「さようでしたか。それはそれは大変失礼しました。エリオット様のような高貴な方が私に用があると思わなかったもので」
「まぁ確かに僕はステファンに用はないんだけどさ。興味本位で聞きたいだけのただの暇つぶしだし」
「暇潰しにお答えするほど暇じゃありません」

 俺はお前たち高位貴族のおもちゃじゃない。
 ムッとしたまま机の上の書類を手に取る。

「えぇー。僕が手伝いに来なくても済むくらいにはステファンも暇になったでしょ」
「エリオット様にお手伝いいただかなくても官吏だけでこなせる業務量になっただけで、通常の業務量には戻っていません。だいたいエリオット様は何しにきたんですか。こないだハロルドが法規集を翻訳し終えたのを確認して『これでも僕の役割は終わりだね』なんて言って晴れやかに帰ったじゃないですか」
「僕は王宮に用事なんてこれっぽっちもないんだけど、うちの妹の付き添いでこなくちゃいけなくてさ。王太子妃教育じゃなくて女官見習いなんてするために通うのに付き合わなきゃいけないとか意味わからないよね。待ってる間暇でしょうがない」
「じゃあ、手伝ってくださいよ」
「僕はまだ官吏じゃないからなぁ。お給金だって出ないんだよ。慈善活動じゃないんだから」
「慈善活動は身分の高いものの果たすべき義務です。うちの実家ですら行ってました」
「慈善活動は領地でたっぷりしてるよ。いい? 僕が慈善の精神でいまステファン達が責任と誇りを持って行っている仕事をタダでやるべきではないでしょ」

 なぜこんな食えない男を王太子殿下は重用するのだろうか。
 ……そりゃ食えないからにきまってるんだけど。
 俺はため息をつく。

「あ、あと僕は用はないけどマグナレイ侯爵は用があるみたいだよ」
「は?」
「さっき貴族院の会合のためにいらしたみたいで、朝から見つかって捕まっちゃってさ。ステファンに会ったら『王宮内の執務室にいるから、何よりも先に来いって伝えろ』だって。そんなの伝令係にやらせればいいのにねぇ」
「なんでそんな重要なこと! そういうことは早く言ってください!」
「だってステファンは僕と話したくなさそうだからさぁ」

 肩をすくめるお坊っちゃまを睨みつけて、俺はマグナレイ侯爵の執務室に向かった。
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