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第四章 毒花令嬢にズキュンするわけなんてない!
第三十四話 生まれてはじめてのデート5 可愛いなんて思ってしまったら俺の負けだ
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「ほら、カフェに行って感想を話すんだろう」
チケットを手に入れた俺たちは劇場通りを後にして街の中心に移動する。
貴族や富裕層だらけの劇場でも目立つ毒花が、市井の人々で溢れる街中で目立たない訳がない。早くカフェに入り馬車が来るまでの時間を潰さなくては。
俺は慌てて街を見回しカフェを探す。
今はカフェで過ごすのにもってこいの昼下がりの穏やかな時間だ。どこもかしこも賑わっている。
「ねぇ、さっきからたどり着く気配がありませんけど行くあてはありますの?」
俺の服を掴み顔の中心に皺を寄せて不満げな表情を隠さない毒花に聞かれる。普段職場と宿舎の往復で、朝昼晩ともに官吏向けの食堂ですませている俺にもちろん行くあてなんてない。
「どこかは空いているだろう」
「貴方はモテたことがないからご存知ないでしょうけど、休日の昼間なんてどこのカフェも賑わっているのよ。あてもなく歩いて、空いている店なんてあるわけないし、もし空いているカフェがあったとしても誰も入りたがらないようなろくでもない店よ。そういう店は噂が立って誰も近づかないわ」
毒花のいう通り簡単にカフェは見つからない。
「ねぇ、どうせ空いているカフェなんてないのだから、他のお店を見てもいいかしら?」
「感想を言い合うのが醍醐味なんじゃないのか」
余計な寄り道なんてしたくない。なんなら誰も入りたがらないカフェに入って毒花の感想を聞いて終わらせたい。
「でも、貴方感想を言い合えるほど観てらして? ずっと寝ていらしたじゃない。素晴らしいお芝居もろくに見ずに寝てしまうなんてよっぽどお疲れだったのね。お兄様は王太子殿下のからお仕事のご褒美として長期の休みをいただけてるというのに、貴方はまだ仕事をしてらっしゃるのね。効率的に仕事を終わらせることはできないのかしら。二十日も先にならないとまともに休めないなんて」
「貴女の兄上とは別の職務をしている。私は貴女の兄がやり遂げた仕事を引き継ぐ職務を担っているのだから、貴女の兄が休めるようになったからとすぐ休めるわけではないのだ。それに二十日後まで働き詰めな訳ではない。今日だって休みだから貴女を芝居に連れてこれたのだし、先程だってもっと前の休みにチケットをとろうとしただろう」
声が大きくなった自覚をしてパッと周りを見渡す。俺たちは悪目立ちしてヒソヒソ陰口をたたかれていた。
どこでもいい。早くこの場から立ち去らなくては。
「そうでしたわ。心配だったもので、つい……」
「あ、いや、こちらこそ大きな声を出して申し訳なかった」
「あっあの店に行きたいと思っていたの。うちの使用人達がここで恋人に買ってもらったブローチを付けていたのだけど、流行っているらしいの」
恋人にもらったブローチ?
もしかして、コイツは俺の事を恋人だと思っているのか?
えっ? だから、あんなに可愛い仕草で俺のこと……
って、違う。可愛いなんて気のせいだった。落ち着け。
「行きませんの?」
毒花が掴んでいた俺の服を引っ張り小首を傾げる。
ヒュッ。
心臓が喉から飛び出るかと思うほど跳ね、一瞬呼吸ができなくなる。
「いっ行こうか」
俺は再び可愛いなんて思ってしまったことを頭の中で必死に打ち消し、毒花の目指す店に向かうことにした。
チケットを手に入れた俺たちは劇場通りを後にして街の中心に移動する。
貴族や富裕層だらけの劇場でも目立つ毒花が、市井の人々で溢れる街中で目立たない訳がない。早くカフェに入り馬車が来るまでの時間を潰さなくては。
俺は慌てて街を見回しカフェを探す。
今はカフェで過ごすのにもってこいの昼下がりの穏やかな時間だ。どこもかしこも賑わっている。
「ねぇ、さっきからたどり着く気配がありませんけど行くあてはありますの?」
俺の服を掴み顔の中心に皺を寄せて不満げな表情を隠さない毒花に聞かれる。普段職場と宿舎の往復で、朝昼晩ともに官吏向けの食堂ですませている俺にもちろん行くあてなんてない。
「どこかは空いているだろう」
「貴方はモテたことがないからご存知ないでしょうけど、休日の昼間なんてどこのカフェも賑わっているのよ。あてもなく歩いて、空いている店なんてあるわけないし、もし空いているカフェがあったとしても誰も入りたがらないようなろくでもない店よ。そういう店は噂が立って誰も近づかないわ」
毒花のいう通り簡単にカフェは見つからない。
「ねぇ、どうせ空いているカフェなんてないのだから、他のお店を見てもいいかしら?」
「感想を言い合うのが醍醐味なんじゃないのか」
余計な寄り道なんてしたくない。なんなら誰も入りたがらないカフェに入って毒花の感想を聞いて終わらせたい。
「でも、貴方感想を言い合えるほど観てらして? ずっと寝ていらしたじゃない。素晴らしいお芝居もろくに見ずに寝てしまうなんてよっぽどお疲れだったのね。お兄様は王太子殿下のからお仕事のご褒美として長期の休みをいただけてるというのに、貴方はまだ仕事をしてらっしゃるのね。効率的に仕事を終わらせることはできないのかしら。二十日も先にならないとまともに休めないなんて」
「貴女の兄上とは別の職務をしている。私は貴女の兄がやり遂げた仕事を引き継ぐ職務を担っているのだから、貴女の兄が休めるようになったからとすぐ休めるわけではないのだ。それに二十日後まで働き詰めな訳ではない。今日だって休みだから貴女を芝居に連れてこれたのだし、先程だってもっと前の休みにチケットをとろうとしただろう」
声が大きくなった自覚をしてパッと周りを見渡す。俺たちは悪目立ちしてヒソヒソ陰口をたたかれていた。
どこでもいい。早くこの場から立ち去らなくては。
「そうでしたわ。心配だったもので、つい……」
「あ、いや、こちらこそ大きな声を出して申し訳なかった」
「あっあの店に行きたいと思っていたの。うちの使用人達がここで恋人に買ってもらったブローチを付けていたのだけど、流行っているらしいの」
恋人にもらったブローチ?
もしかして、コイツは俺の事を恋人だと思っているのか?
えっ? だから、あんなに可愛い仕草で俺のこと……
って、違う。可愛いなんて気のせいだった。落ち着け。
「行きませんの?」
毒花が掴んでいた俺の服を引っ張り小首を傾げる。
ヒュッ。
心臓が喉から飛び出るかと思うほど跳ね、一瞬呼吸ができなくなる。
「いっ行こうか」
俺は再び可愛いなんて思ってしまったことを頭の中で必死に打ち消し、毒花の目指す店に向かうことにした。
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