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第三章 毒花令嬢にギャフンと言わせたい!

第二十話 職場にて8 ロマングレーと絶世のイケメンが俺の奪い合いだってよ

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「えっと……俺の見合い話ではなくてですか?」

 おずおずと尋ねる俺を王太子殿下は見つめる。その目は驚いた様子で探りを入れている様には見えない。

「見合い? マグナレイ侯爵はステファンを養子にするので貴族院に申請する前に私に打診したいと言っていたが、婿養子になるのか? マグナレイ侯爵家には息子も娘もいなかったと記憶しているが……もしや、最近どこかの女性に産ませた子供でも見つかったのか? その娘は本当にマグナレイ侯爵の子かどうか確認しているのか?」
「いっいえ! そんな事実はございません! 婿養子ではなく養子になる話で間違いないです。殿下のお耳に入るほど話は進んでいないかったもので別の話かと思っておりました。実は養子の話は婚約の話と対になっていまして──」

 誤解を慌てて解き、事情をかいつまんで説明する。なんだか説明しているうちに馬鹿らしくなってきた。

「若き頃の憧れの君に近づくために、跡継ぎだ見合いだとおっしゃっているようでして……侯爵本人も『恋は人を狂わせ愚者にする』などと開き直っている始末です」
「なるほど『恋は人を狂わせ愚者にする』ね……」
「わざわざお忙しい王太子殿下の時間を奪ってまで話す話ではなくお恥ずかしい限りです」

 ため息をつく俺を見て王太子殿下は腕を組む。

「見合い相手はさておき、ステファンを後継者に指名するあたりマグナレイ侯爵はいつも通り至極冷静に感じるな」
「そうでしょうか」
「そうだろう。マグナレイ侯爵家の跡継ぎ問題は貴族院でも懸念事項とされていたのを侯爵の力で黙らせていたにすぎない。ステファンのここ最近の活躍を聞きつけた侯爵が自分の目が黒いうちに相応しい人間として目星をつけたのは頷ける」
「相応しい……ですか」

 小鼻が膨らみそうになり慌てて手で覆う。

「そうさ。優秀なのに御し易いステファンはマグナレイ侯爵にとって願ってもいない跡継ぎだろ?」

 ……褒められていない。
 いたずらっ子の様に笑う王太子殿下は年相応の少年のように見える。

「そうがっかりするな。私もマグナレイ侯爵もステファンの事は買っているのだ。事前に打診だなんていうのは私を重んじているように見せかけているだけで、私にステファンを取られないように牽制したんだ。本当に残念だ。マグナレイ侯爵にステファンを取られてしまった。ステファンがマグナレイ侯爵家の後継者に決まったならば将来は領主としての責務も果たさねばならない様になるだろう。流石にいつまでも私の手元に置き続けられない」

 王太子殿下の真剣な口振りに再び小鼻が膨らんでいくのが自分でもわかる。対面して座っていた王太子殿下は顔を近づける。

「まだしばらくの間は私のために働いてくれないか?」

 見目麗しい王太子殿下に耳元で懇願された俺は、簡単に気圧され頷いた。
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