56 / 105
第五章 毒花令嬢は俺の可愛い婚約者
第五十三話 満ち足りた日々12 毒花令嬢が可愛いのを知っているのは俺だけだ
しおりを挟む
たゆん。たゆん。
視界の端で真っ白な谷間が二つ揺れる。
普段男ばかりの職場で、女官見習いの地味なお仕着せに身を包んだ王太子殿下の婚約者と真紅のドレスに身を包んだネリーネ嬢が来客用のソファに座り意気投合していた。
少女達の発する華やかな雰囲気に、俺の口元はだらしなく緩む。
先日ブローチを渡すついでに、王太子殿下の婚約者様からネリーネ嬢に事業の話をしたいと打診を受けている話を伝えると、デスティモナ伯爵とトワイン侯爵の計らいでこの日の面談が準備された。
トワイン侯爵領に建設する予定の、川の流れを動力にした編立工場への投資話はとっくにまとまっているのに、まだドレスの話で盛り上がっている。
デスティモナ家御用達の服飾店は頼まれたらなんでも作る様な拝金主義の店なのだろう。誰から見ても派手すぎて悪目立ちする装いは、王宮に参じるからとネリーネ嬢の気合が入りまくり、今まで見た中で一番贅を尽くすだけ尽くして目が潰れるほど眩しい。
そんな贅を尽くしたドレスに顔を近づけてじっくり観察した王太子殿下の婚約者様はその無駄に華美な刺繍やレースをうっとりと褒め称え、ネリーネ嬢を質問攻めにしていた。
「ネリーネ様のドレスの刺繍は本当に見事な手仕事だわ。この一着を作るのに何人の針子が関わったのかしら。さすが国内でも有数の資金力があるデスティモナ家ね。こんなに優秀な針子を何人も抱えた服飾店とお付き合いされているなんて」
「あら新市街のメゾン・ド・リュクレールに依頼したものですわ。ご存知ではございませんの? 王都で最高峰のオートクチュール専門の服飾店といえばリュクレールですから、名門トワイン侯爵家のエレナ様ならご存知かと思っておりましたわ」
「まぁ! リュクレールのドレスなのね! 名前は聞いたことがあるわ。でも残念ながら我が家は昔から、自分達に使うお金があるなら領民に使うのが信念なもので、オートクチュールの服飾店とはあまり縁がなくて行ったことがないの」
名前で呼び合い、きゃらきゃらとした笑い声をあげて服飾店の話題に花が咲いている。
「すごい嫌味の応酬だな」
「あんな笑いながら……やっぱり王太子殿下の婚約者様も貴族女性だったんだな」
「え?」
俺の席に近づいて耳打ちしてきたケインとニールスの発言に俺は驚く。
嫌味? どこが?
いつも通りネリーネ嬢は思った事を口に出しているだけだ。
それを証拠に二人ともあんなに嬉しそうに楽しく笑っているじゃないか。
「……ネリーネ嬢は素直な少女だぞ。嫌味でもなんでもなく思った事を言っているだけだ。それに王太子殿下の婚約者様も楽しそうじゃないか」
「本当に重症だな」
そう言ったケインはニールスと顔を見合わせて苦笑いをしている。
腑には落ちないが、まぁ、いい。ネリーネ嬢の可愛いさは俺だけがわかればいいのだから。
俺は優越感に浸りながら二人を眺めた。
視界の端で真っ白な谷間が二つ揺れる。
普段男ばかりの職場で、女官見習いの地味なお仕着せに身を包んだ王太子殿下の婚約者と真紅のドレスに身を包んだネリーネ嬢が来客用のソファに座り意気投合していた。
少女達の発する華やかな雰囲気に、俺の口元はだらしなく緩む。
先日ブローチを渡すついでに、王太子殿下の婚約者様からネリーネ嬢に事業の話をしたいと打診を受けている話を伝えると、デスティモナ伯爵とトワイン侯爵の計らいでこの日の面談が準備された。
トワイン侯爵領に建設する予定の、川の流れを動力にした編立工場への投資話はとっくにまとまっているのに、まだドレスの話で盛り上がっている。
デスティモナ家御用達の服飾店は頼まれたらなんでも作る様な拝金主義の店なのだろう。誰から見ても派手すぎて悪目立ちする装いは、王宮に参じるからとネリーネ嬢の気合が入りまくり、今まで見た中で一番贅を尽くすだけ尽くして目が潰れるほど眩しい。
そんな贅を尽くしたドレスに顔を近づけてじっくり観察した王太子殿下の婚約者様はその無駄に華美な刺繍やレースをうっとりと褒め称え、ネリーネ嬢を質問攻めにしていた。
「ネリーネ様のドレスの刺繍は本当に見事な手仕事だわ。この一着を作るのに何人の針子が関わったのかしら。さすが国内でも有数の資金力があるデスティモナ家ね。こんなに優秀な針子を何人も抱えた服飾店とお付き合いされているなんて」
「あら新市街のメゾン・ド・リュクレールに依頼したものですわ。ご存知ではございませんの? 王都で最高峰のオートクチュール専門の服飾店といえばリュクレールですから、名門トワイン侯爵家のエレナ様ならご存知かと思っておりましたわ」
「まぁ! リュクレールのドレスなのね! 名前は聞いたことがあるわ。でも残念ながら我が家は昔から、自分達に使うお金があるなら領民に使うのが信念なもので、オートクチュールの服飾店とはあまり縁がなくて行ったことがないの」
名前で呼び合い、きゃらきゃらとした笑い声をあげて服飾店の話題に花が咲いている。
「すごい嫌味の応酬だな」
「あんな笑いながら……やっぱり王太子殿下の婚約者様も貴族女性だったんだな」
「え?」
俺の席に近づいて耳打ちしてきたケインとニールスの発言に俺は驚く。
嫌味? どこが?
いつも通りネリーネ嬢は思った事を口に出しているだけだ。
それを証拠に二人ともあんなに嬉しそうに楽しく笑っているじゃないか。
「……ネリーネ嬢は素直な少女だぞ。嫌味でもなんでもなく思った事を言っているだけだ。それに王太子殿下の婚約者様も楽しそうじゃないか」
「本当に重症だな」
そう言ったケインはニールスと顔を見合わせて苦笑いをしている。
腑には落ちないが、まぁ、いい。ネリーネ嬢の可愛いさは俺だけがわかればいいのだから。
俺は優越感に浸りながら二人を眺めた。
0
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
【完結】強制力なんて怖くない!
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。
どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。
そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……?
強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。
短編です。
完結しました。
なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
旦那様に離縁をつきつけたら
cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。
仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。
突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。
我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。
※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。
※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる