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第一章 可愛い婚約者と結婚式の衣装合わせ
プロローグ3 俺の豊満な婚約者は結婚の背景を知らない
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「こちらを……」
執事は想定外のネリーネの姿に取り乱している俺の事などお構いなしで、縁周りに浮彫細工が施された四角い銀盆を仰々しく掲げて差し出す。
いや……取り乱しているからこその助け舟のつもりだろうか。
銀盆には深緑色の天鵞絨のクッションが敷かれ、アクセサリーが鎮座している。
女性用のネックレスにイヤリング、ブレスレット。男性用のスカーフ留めとカフスボタン……
金細工で作った繊細な七竈の木の葉に、赤い実を模した紅玉が鈴なりについた意匠は服飾品に無頓着な俺が見ても値がつけられないほどの逸品である事がわかる。
俺がメイドにアクセサリーをネリーネに着けるように指示すると、ネリーネは先程まで可愛らしい表情を見せていたのが嘘の様に、眉間にグッと皺が寄り、社交界で周りを慄かせる鋭い目つきに戻ってしまった。
メイド達はそんなネリーネに怯えることもなく俺の指示に粛々とアクセサリーを着けていく。
飾り気のないデザインの花嫁衣装は、絢爛豪華なアクセサリーを引き立たせる。
ドレスに押し込められて窮屈そうな大きな胸の膨らみに沿って輝く鈴なりの赤い実は、ネリーネの呼吸に合わせて揺れている。
ぷるん。ぷるるん。シャラララ。シャラン。
深呼吸したのか深い谷間に燦然と輝く一際大きな赤い実が揺れるのを俺はじっと見つめる。
「……このアクセサリーについて説明してくださらない?」
柔らかく温かそうな白肌と硬く冷たそうな赤い石のコントラストに視線が釘付けになっていると、頭上からドスが効いた声が聞こえた。
「このアクセサリーはマグナレイ一族の家宝だ」
俺は胸元ばかり見ていたのがバレないように、素知らぬ顔をして答える。
「七竈の木をモチーフにしたアクセサリーがマグナレイ家の家宝だなんていうのは、『叡智の神』である初代のマグナレイ当主が王都に七竈の木を植えて悪魔を退治した伝説に慣れ親しんでいるこの国の民であれば誰でも察しがつくわ! わたくしが聞きたいのはそんなことではないの! そんな大切な家宝をどうして貴方が私につけさせるようにメイド達に指示しているのかと言う事よ!」
「俺たちが家宝を引き継ぐからだ」
考えを巡らせるように小首を傾げ顔の中心にどんどん皺が寄っていく姿ですら愛らしく見える。
「……管理をするということ?」
「まぁ、管理もするだろうな。所有者になるのだから」
俺の返事に顔の中心に皺を寄せていたネリーネが今度は目を見開き呆けたように口を開く。
「はぁ……所有者? えっ? と言う事は……えっ? ええぇ! そっそんな事、聞いていないわ!」
真っ青になってネリーネが慌てふためく反応に俺は疑問を覚える。
この結婚の背景を知らない? いや。そんな事はあり得ないはずだ。
俺はネリーネと出会ったあの日に思いを馳せた。
執事は想定外のネリーネの姿に取り乱している俺の事などお構いなしで、縁周りに浮彫細工が施された四角い銀盆を仰々しく掲げて差し出す。
いや……取り乱しているからこその助け舟のつもりだろうか。
銀盆には深緑色の天鵞絨のクッションが敷かれ、アクセサリーが鎮座している。
女性用のネックレスにイヤリング、ブレスレット。男性用のスカーフ留めとカフスボタン……
金細工で作った繊細な七竈の木の葉に、赤い実を模した紅玉が鈴なりについた意匠は服飾品に無頓着な俺が見ても値がつけられないほどの逸品である事がわかる。
俺がメイドにアクセサリーをネリーネに着けるように指示すると、ネリーネは先程まで可愛らしい表情を見せていたのが嘘の様に、眉間にグッと皺が寄り、社交界で周りを慄かせる鋭い目つきに戻ってしまった。
メイド達はそんなネリーネに怯えることもなく俺の指示に粛々とアクセサリーを着けていく。
飾り気のないデザインの花嫁衣装は、絢爛豪華なアクセサリーを引き立たせる。
ドレスに押し込められて窮屈そうな大きな胸の膨らみに沿って輝く鈴なりの赤い実は、ネリーネの呼吸に合わせて揺れている。
ぷるん。ぷるるん。シャラララ。シャラン。
深呼吸したのか深い谷間に燦然と輝く一際大きな赤い実が揺れるのを俺はじっと見つめる。
「……このアクセサリーについて説明してくださらない?」
柔らかく温かそうな白肌と硬く冷たそうな赤い石のコントラストに視線が釘付けになっていると、頭上からドスが効いた声が聞こえた。
「このアクセサリーはマグナレイ一族の家宝だ」
俺は胸元ばかり見ていたのがバレないように、素知らぬ顔をして答える。
「七竈の木をモチーフにしたアクセサリーがマグナレイ家の家宝だなんていうのは、『叡智の神』である初代のマグナレイ当主が王都に七竈の木を植えて悪魔を退治した伝説に慣れ親しんでいるこの国の民であれば誰でも察しがつくわ! わたくしが聞きたいのはそんなことではないの! そんな大切な家宝をどうして貴方が私につけさせるようにメイド達に指示しているのかと言う事よ!」
「俺たちが家宝を引き継ぐからだ」
考えを巡らせるように小首を傾げ顔の中心にどんどん皺が寄っていく姿ですら愛らしく見える。
「……管理をするということ?」
「まぁ、管理もするだろうな。所有者になるのだから」
俺の返事に顔の中心に皺を寄せていたネリーネが今度は目を見開き呆けたように口を開く。
「はぁ……所有者? えっ? と言う事は……えっ? ええぇ! そっそんな事、聞いていないわ!」
真っ青になってネリーネが慌てふためく反応に俺は疑問を覚える。
この結婚の背景を知らない? いや。そんな事はあり得ないはずだ。
俺はネリーネと出会ったあの日に思いを馳せた。
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