図書と保健の秘密きち

梅のお酒

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19 幽霊 (草餅)

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「もっちーって幽霊ってほんとにいると思う?」
「いるんじゃないですかね。優しい幽霊なら会ってみたいです。殺しに来るようなのは勘弁ですけど」
「へー以外かも。草餅さんってなんかいろんなことに興味なさそうな感じに見えたから」
先輩にそう言われてはっとした。どんなことにもあまり興味を見いだせないのは自分でもわかっているし、今まで一つのことに熱中したこともない。そんな自分が長すぎて、いつの間にか周りにもそれがばれるほどに表に出てきているのではないか?
そんな冷めた私を周りの人はさらに冷めた目線で見ているのではないか?と少し怖くなる。
「そんな感じですか私」
「うん」
「つまらない人間ですいません」
「いやそうじゃなくて、えっと、なんか大人っぽくて、クールで、あとなんだろ、とにかくいい意味でね」
必死でフォローしてくれる先輩の言葉が少しつらい。
「そうですか。ところで先輩は幽霊苦手なんですよね?」
「私は幽霊ほんと無理。だから正直今回の依頼は受けたくなかったんだ」
「そうでしたか。なんかすいません」
「いやいやこれを機に克服して見せますよっと」

2年の教室がある3階に着くと、すでに下校時刻は過ぎているので人はあまりいない。
「まだいますかね」
「んーどうだろ」
2-B組に行くとすでに人は誰一人いなかった。普段から教室には多くの生徒がいる光景しか見ないためか、誰もいない教室はどこか寂しい印象を受ける。
「やはりいないか」
教室の時計を見るとすでに17時を回っていた。しかし、外からはまだ運動部が活動している声が聞こえる。
「どうしましょうか」
「山田さんの席に明日の放課後に保健室に来ておらうように書置きをしておこう」
「そうですね」
先輩がクラスの座席表を見に教卓へ行く。そしてしばらく探した後、血の気が引いた表情で私のほうを見てくる。
「どうしました」
「ない」
「え?」
「名簿に山田さんの名前がない」
私も一応座席表を確認しに行くがそこに山田花子の名前はなかった。
「クラス間違えて書いたとか?きっとそうですよ」
「そうね、一応ほかのクラスも確認してみましょう」
AからEまで確認し、それぞれのクラスの担任にも聞いてみたが、山田花子という人物は存在しないことが分かった。
「誰かのいたずらですよ、きっと」
「だよね。保健室戻ろ」
口ではそう言うものの、さっきまで幽霊の話をしていたためかか、心のどこかで不吉なことが起きているのではと考えがよぎる。

ただのいたずらだったとはかせに報告するため保健室へ向かう。
先輩もどこか不安なのかずっと私の手を握っている。そんな先輩の手からは震えを感じて思わず強く握る。
その時何やら人の声とは思えない不気味な声が静かに聞こえてきた。これ以上耐えられなくなった立花先輩が私に抱き着いてくる。私もさっきは幽霊にあってみたいなんて言ってしまったが、実際に出てきそうになるとやはり怖い。
この声はどこから聞こえているのか。山田さんの捜索にかなり時間がかかっていたようで、あたりには誰もいない。外は太陽が落ちて薄暗くなってきていた。そんな状況だからか、何となく発生源はなく空気中に発生してそのまま脳内に入ってくるような感覚を覚える。本当に幽霊が発している声のように感じてしまう。
先輩の私に抱き着く力が一層強くなり、涙と鼻水が私のセーターを濡らす。
ついにその声がはっきりと聞こえた。
『保健保健委員の代表者一人が今日の夜21時に2-Bの教室に来い。来なければ保健委員全員を呪いにかける』
最後にそれが聞こえたのち、声はぱったりとやんだ。
それからしばらく私と先輩は腰を抜かし、立ち上がることができなかった。
「先輩、大丈夫ですか?」
「だいじょうぶじゃない。もう少しだけこのままにして」
「わかりました」
それからしばらく先輩は私のお腹に顔をうずめていた。
これではどちらが先輩だかわからないではないか。まあ周りにはだれもいないんだけど。

ようやく先輩は体を起こし、立ち上がる。目元は涙で赤くはれていて、頬には涙が伝った跡がある。そうとう怖かったようだ。
そんな私も先輩がそばにいたから取り乱すことはなかったが、一人でこの出来事を体験したら今の先輩のように泣き崩れていたかもしれない。
「それじゃあ、保健室に戻ってはかせに報告しましょうか」
「うん」
来る時とは逆で私が先を歩く。保健室に着くまで先輩はずっと私の手を握っていた。
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