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プロローグ: 邂逅交錯
File.06 激突
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File.06 激突
*
臨界眼
臨界者が潜在能力を引き出す際に顕現する、発光器官として変化した瞳。その光は、真夜中の暗闇でもハッキリ視認できる。
体術戦技以外のほぼ全ての人能臨界に付随し、動体視力、高速思考、身体強化が据え置きとなる臨界能力。
同じ系統の色の臨界眼は、似通った能力を持つという。
***
横島邸 内廊下 左回廊。
レイカは、目を見開いて息絶えている組員達が転がるその空間の中から、その死体を見つけた。
陥没した壁の傍で、崩れ落ちている灰色のスーツの男。その背中は巌のようで、丸石のような頑強さを視覚化する、両の拳。
壮絶な打撃戦だったのだろう。
最後はお互い傷つきながらの攻防の末。
この、頸部の打撲痕が、致命傷となった。
「…クズは こうなって当然だ」
レイカは、言い聞かせるようにそうつぶやく。
その声は低く、感情など初めからないかのように抑揚がない。
その表情は、怒りでも悲哀でも、軽蔑でもなかった。
無常、虚無。
その吐いた言葉が、彼の者に向ける最後の感情であるように、その死体をただ物言わぬ肉塊として見ている。
彼の名は、鮫島 ユキオ。
黒煙と火花が、レイカの周りを騒ぎ立て始めた。ずっとここには、いられない。
***
戦子は、スローモーションになった世界の中で焦燥していた。
腹に突き刺さる、前蹴り。
自分の体が風船のように吹き飛ばされるあの蹴りが、まともに入ったらどうなるのか。
それが今、実現されようとしている。
“外し”。
インパクトポイント感知。
惰性貫徹深度計測。
威力受容の為の、必要最低限体積。
― 強化 適応者 ―
軽い。
軽い?
この女の、蹴りが?
まさか。
/
そう。この蹴りは、ブラフだ。
何かしらの、打撃の威力を軽減する技術。
さっき戦った感触で、何となく感じたぞ。お前はそれを持っている。
だから、この蹴りを外させたんだ。
―戦技 波紋旋穿脚 ―
“腹に置いた蹴り”を起点に、入れ替えるように叩き込まれる飛び後ろ蹴り。
この感触。
辛うじて、両腕でブロックしたか。
あれが、無銘者ではないリアクターの能力。
確かに反応速度は桁違いだな。
だが。
/
後ろ蹴りをブロックなんか、するものじゃない。腕の骨に、ヒビが入るかと思った。
上半身が仰け反り、背骨ごと衝撃に持っていかれそうになる。
起立制御を諦め、足首、大腿部、腎部と倒して受け身。
世界が一回転し、右手を地面に着いて見上げる。
すぐには動けない。まずは間合いを計らなければ。
…いない。
「…遅い」
起こしかけていた上体を、慌てて引っ込めて前転する。
その冷たい声が、左斜め後ろから聞こえたから。
地面を転がる背中を、蹴り足に伴う生暖かい突風が撫でる。
今度こそ立ち上がり、戦子とレイカは再び互いの臨界眼とまみえた。
―戦技 先駆者 ―
黄金の瞳。
何の能力だろう。
あの瞳が開いてから、私の動きを先回りする攻撃が増えた。
フェイントも、”外し”を読んでのものだった。
なら、思考加速による先読みの能力なのか。
/
ー 強化 適応者 ―
真紅の瞳。
赤系統の色は、無銘者に見られるものだ。基礎の、身体能力と反射神経の引き出しを開ける能力。
だが無銘者は、他の色に変化する前段階。
MISTにも臨界者は多いが、同じ色のまま強くなる、といった例は初めて聞いた。
目立った能力は無銘者と同じ。いや、そのまま順当に強くしたと言った方がいいのか。
だがそれだけとは思えない。証人は、相対している私だ。
こちらに起きている胸に中に太陽が出来たかのような感情の昂りと、異様な身体能力の強化。戦子の瞳を見た途端、胸とこめかみが締め付けられるような圧迫感と不安。そして、急な解放とこの身体の熱。
何故こちらまで強くする必要があるのかは分からない。だが、私の身体はその分急速に消耗している。肺が焼けつくような疲労を感じるのに、身体の節々が軽い。 先駆者の能力が溢れ出して脳に過剰な負荷を感じるのに、思考がクリアなままだ。
身体が壊れそうなのに、防御機制をかけようとしていないのだ。こちらにとっては深刻な問題だ。
「脚速いね…”陸上部”にいたの?」
肩で息をしながら、真紅の臨界眼の少女はこちらから目を離さない。
「お前こそ、軽い身のこなしだな。人能臨界を差し引いても、一般人とは思えない。”どこで訓練を受けた”?」
黄金の瞳でこちらを捉え続けるスーツの女は、鋭い観察眼で触れてほしくない場所を探り当てた。
「…手を引いてくれるなら喋ろうかな」
「ほざけ」
2人の身体が沈み込むのは、全くの同時だった。
その脚には地面への抵抗も反発もなく、前傾姿勢で加速する2人は、拳を繰り出す。
手足の長さは、レイカに理がある。
拳が先に届いたのはレイカだった。
身体操作の技量は、戦子の方が高い。
拳が触れた場所から軸をずらし、そのまま前足に載せた正拳突き。
胸元、胸骨。
拳銃の訓練でも、最も躱しづらい急所として教えられる急所。
肺呼吸を一瞬殴打するその衝撃に、レイカは胸を抑えて膝を着いた。
*
「”ナスティ”、現状を報告しろ」
「MISTの女が、例のJKと交戦中~ 潰し合いを眺めてるとこ 頃合いを見てどっちも潰す♪ … それより”ボイド”。そっちどうなってる?」
ナスティ、と呼ばれた赤いバイザーの女。
黒いマントの光学迷彩と共に、駐車場に停められているキャンプカーの上からその激闘を観察している。
「”トレンチ”が合流地点に現れない。横島邸で黒夜崎 戦子に遭遇したのかもな」
赤いバイザーの女は、左のピントをレイカに合わせながらため息をつく。
「あのダンビラ侍、歳食ってる割にすぐ調子に乗るからなぁ。アタシらは戦闘員じゃなくて、実演販売のセールスマンだっての」
「そう言う君も 鮫島 レイカに執着するあまり 冷静さを失うことが多いのでは?」
ナスティはしばし沈黙する。
どうせこのバイザーからの視界も、”ボイド”にリアルタイムで共有されているのだろう。
反論する前に、回転蹴りを繰り出すレイカの姿を捉え続ける。
「気に入らないんだよ。アイツら共々。だいたい、黒夜崎 戦子を”レフト”に勧誘するだなんて」
「それは決定事項だ」
ピシャリと遮られる。
普段、ゆっくりはっきりと言葉を繋ぐコイツが、冷たく刺すような話し方をしたことにナスティは驚く。
早口ではあったが、そのくぐもった変声機越しからでもその言葉に力が込められていたことがわかった。
ナスティは、これ以上このことに触れないことにした。
「…んじゃ、その勧誘対象は生かさず殺さずってことかよ?無茶言ってくれるよなまったく」
「いいや 本気を出しても構わない 」
はァ?と声を漏らす。
殺さずに連れ帰れ、だが本気で殺しに行け。
あまりに矛盾した注文だった。
「殺しにかかるくらいが、彼女を連れ帰るにちょうどいいんだ」
「…それ、アタシが新入りだからか アイツを買ってんのかどっちだ」
「もちろん 後者だ」
納得のいく答えではなかったが、黒夜崎 戦子の強さは認めざるを得ない。
アタシだってこの目で見て信じられなかったのだ。
ボイドの鉤爪を臨界眼で躱し、臨界装もなしに格闘戦で引き分け、あまつさえ蹴り飛ばして撤退を余儀なくさせたあの少女の姿が。
画面越しにも、あの真紅の瞳がこちらを向く瞬間は迫力がある。きっと、一人称映像と自分の目で相対するのとでは、緊迫感には雲泥の差があるだろう。
「わかったよ。そろそろ潰しに行く」
「あぁ。油断するなよ」
「当たり前だっての。んじゃ…あ!?オイオイオイ!ウッソだろ!?」
次の瞬間、ナスティは
目をつけていた場所から大きく離れたポイントで映りこんだ光景に、平静では居られなかった。
*
内回し。
腿を内側から取り回し、正拳突きを大きく外に打ち流す。
返す左ストレート。
躱すまでもなく、右の中段蹴りが戦子の背中を打った。
数歩小走りに足を打ち付け、インパクトを逃がす。
風を感じる。
その虫の知らせに、大きく右半身を引いて振り返った。
目にしたのは、0.2秒前の頭位置を通過していく飛び後ろ回し蹴り。
革靴が目の前を掠めた。
自分より背丈の高い、眼光鋭い女が
まるでそこに重力がないかのように跳躍する。
しかしその蹴り足が放つ風圧は、十二分にこちらの首を刈り取る重圧を示唆していた。
着地と同時に、レイカは再び蹴り足を内側に折りたたみ、回転をかけて跳び上がる。
同じ軌道、同じタイミングで繰り出されたその身のこなしは、こちらの予測を直前で飛び越えてきた。
その蹴り足は、顔には届かず、直前で降りる。
その赫い瞳で測っていた距離よりも、手前で
その蹴り足は攻撃役を降りたのだ。
誤算は、胸元に突き刺さる左足。
遅くなった世界の中で、その重圧は
戦子の踵に乗った重心を、いとも容易く地面から引き剥がした。
「うご…ッ」
まともに入った音がした。
不安定な姿勢で蹴り込み、自分も地面に背をつける。
ここで決めなければ。
身体も限界に近い。
打撃の余震に身体を抱え、相手が身動きが取れない今しかない。
レイカは両足を空に振り抜いて飛び起き、5mの間合いを勢いよく詰める。
胸あたりまでリフトした膝を傾けて半回転、繰り出されるは踵。
ー 戦技 波紋旋穿脚 ―
せり上げた後ろ足が、戦子を軽風船のように吹き飛ばす。
跳ね飛ばされた戦子の身体は、駐車場の緑フェンスをなんの抵抗もなく引き剥がし、向こうの暗闇へと消えた。
同時に、胸が焼き付くような体温が消える。
レイカは、目眩の伴う強烈な疲労に襲われた。
あの少女は、気絶したのだろう。もしくは、仕留めたかもしれない。あの瞳は通常の無銘者と違う。一定以上の戦力に対し相手の力を半ば強制的に引き出して体力を奪う能力が付随されていると推測される。
そして、リフレクター本来の反射神経と身体強化は従来のソレより数段高い水準で備わっているとなると、相当厄介な相手だったと言える。
これだけの能力者なら、あの倉庫での凶行を成し遂げたことも納得が行く。
しかし、膝をつくレイカの胸には、ぽっかりと穴が空いたような虚しさがあった。
「…!!!!」
そして、その心の穴に
焼け付くような”熱”が再び戻ってくる。
「まさか…!」
― 強化 適応者 ―
赫い瞳が。
赤い瞳が、糸を引いて揺れている。
身体を抱え、ふらつくような足取りでも。
その瞳の威圧感は、寸分たりとも変わっていない。
倦怠感と乳酸に支配されていたレイカの手足に、熱が戻る。
節々が、骨肉が悲鳴をあげても
身体が「動け」と囃し立てるのだ。
「もう やめよう」
戦子は、訴えかけるように言葉を投げかける。
あの臨界眼に突き動かされているのは、彼女も同じであるようだ。
お互いに、この赤い瞳の力でようやく立っている状態であるようだ。
「命乞いの…つもりか…?」
「あんた今 体ボロボロなのに楽しいんでしょ 最悪死ぬよ、それ」
楽しい...?
そういえば、私がここまで心身が燃えるような想いをしたのは、いつぶりだろうか。
そもそも、私は 戦いに意義を見出したことなどあっただろうか。
結局のところ、八つ当たりだった気さえする。
「そうだな。そうかもしれない だが死んでもやるべきことはある」
「…不穏分子を消す?」
「そうだ。…そうだッ!それだけを信じて殺してきたッ」
― 一型β トゥースマチェット ―
懐から、柄を横に引き抜いて刃を投影する。
それを見た、戦子は、驚いたように固まる。
しかし、それは 初めて臨界装を見た反応ではなかった。
直ぐに見開いた目は吊り上がり、
「…なんで、あんたが”ソレ”を持ってるの 」
瞬間、目の前の戦子という少女から
初めて、明確な激昂と敵意を感じ取った。
「あんた達 どこで”ソレ”を知ったの」
その声は低く、身体の芯が震えるような静かな怒気を孕んでいる。
「答 え ろ ッ ! ! ! 」
その怒声と同時に、こちらの身体の熱が更に燃え上がる。
私の身体は、彼女の怒りに共鳴しているのか。
「さぁなッ! 大人しく殺されたら、教えてやるッ 」
「———ふぅざけぇんなぁぁぁぁぁッ!!! 」
間合いの不利など知らないとばかりに、戦子は突貫してくる。
迎え撃つように、ラリアットの要領で頚部に振り下ろす。
そんなものは見え透いている、と言わんばかりに
振り始めの足の出を察知し、前転。
振り返る間に、戦子は立ち上がっている。
体と頭を傾けて、踏み込んだローキック。
咄嗟に上げた膝を身代わりにする。
手前ではなく、まともに受け止めたために、
ほんの0.3秒、2人の脚は競り合いは膠着する。
***
問.
膂力において不利。この競り合いでは力負けし、体勢を崩される。この状況における最適解を求めよ。
*
蹴りを振り抜かれ、重心が傾いて宙に浮く。
身体が崩されていく。
*
解答.
崩されるなら崩されるまま、________
***
______後ろ回転し、マチェットを振り抜く。
間違いなく、最適解であった。
誤算は、戦子には未だに余力があるということ。
目を一直線に切り裂くはずだった太刀筋を、きりもみ回転でいなし、間合いは振り出しへと戻った。
しかし、やはり消耗はしているようだな。息が上がっている。
さっきまでなら、着地と同時に詰めてきただろう。だがやはり、この女も 身体がボロボロでもムチを打てる類らしい。だからこそ、この能力か。
このままいけば、戦子を倒せる。
そう確信したところで1つ、疑問がある。
何故、私は最初からマチェットを使わなかったのだろうか。
銃を避けられたとしても、素手同士に応じる必要はなかった。相手は暴力団と戦い、疲弊している。
距離を取り、引きながら
この刃で捌いていけば、もっと早くコイツを倒せていたのでは。
*
…モッタイナイ
*
最初から武器を使っていれば
*
ソレジャイミガナイ…!
*
素手とのリーチ差で、追い詰めていれば良かったのに。
*
ソンナノ
ゼンゼン タノシクナイ!!!!
*
う る さ い ! ! !
半ば八つ当たりのように、手にした刃物を戦子に振りかざした。
戦子は、倒れ込むような前転で、やっとのことでその太刀筋を躱す。
「…戦いが楽しいなんて!幻想だッ!」
追撃の切り払いを地面から押さえ込み、マチェットを握る親指を取り外しにかかった。
嗚呼、序盤は素手で正解だった。
思えば、ファーストコンタクトではいとも簡単に銃をこちらから奪い去っていた。もし最初からマチェットを出していれば、武器を奪い取られて余計なリスクを負っただろう。
ダメージも消耗も、幸いあちらの方が大きい。
取られる手首を肘で回すように押し出し、ディザームを回避する。
「正義も悪も!結局殺し合いだ!!!そこにそんなおめでたいものは!」
足刀で蹴り離し、腕と肩を引き絞る。
「ないッ!!!!」
刃を振り抜き、それは戦子の目前を通過する。
「あっやば……っ」
反射的に避けれたが、この間合いに次はない。
思考が終わる前に、外れたマチェットはまた振り下ろされる。
と、同時に
軽快な足音が、こちらに駆け寄ってくるのに気づいた。
*
……抜刀というものに、100kgのバーベルを跳ねあげるような力は要らない。
刀を抜く際、親指で鍔を押し、右腕と腰で懐を広げるように引くだけ。
普通の刀なら軽い動作だろう。
必要な動作は2つだけなのだから。
だがこいつにとっては、その簡単な動作がその限りでなく重かった 。
真剣を抜いてしまっては相手を本気にさせてしまう。覚悟がないなら真剣は抜くな。
爺ちゃんには、そう言われてきた。
覚悟ならある。
目の前の友達を、守るくらいの覚悟なら。
自分の使い慣れた刀ではないが、懐深く抜刀する。
太刀とはあまり大差ない。すこし前が重いだけだとわかる。抜く感覚自体はあまり変わらない。
使い慣れている木刀と同じく、柄はシンプルな木製だ。
いつもの木刀とは勝手が違うが感じる。
真剣を抜くこの感じ。腰に多少の重量が残る感覚。
些細なことだが抜刀した実感を得る。
やはり若干フロントヘビーだな。問題ない。
振り下ろされるマチェットの前に刀を差し込み、引き寄せて受け止める。
手ごたえが、重い。
「何…ッ」
「重っ。やっぱ慣れるのは時間かかるかなァ」
目の前の女からは動揺が見て取れる。
まあ、こんな機敏に動けて驚いてるのはこっちもだけどな。
だが、女の黄金の瞳———臨界眼は、まもなく殺気の色を取り戻した。
「....空翔 陽貴……!」
いや、
怖ぇ~~~~~~~~~!?
爺ちゃんよ!これが”本身の怖さ”なのか!?
金属バットを振りかざされようが短刀を握りしめて突貫されようが、黒に睨まれるよりは怖くないと思っていた。
だけどなんだこれは。この女と目を合わせるだけで!ちびりそうだ!!!!
負けてはいけない。声が出せるうちに、伝えなければ。
「黒ォ!今んうちにベルトに差してる”コレ”取れ!この姉ちゃん押し込み強くていつ斬られるかわかんねェ!!!」
空翔 陽貴。
遼の持ってきたデータの中に含まれていた。
剣術道場の息子。戦子の活動に同行しているとあった。
実戦で剣を持ったことがなく、臨界眼もない。素手で不良程度をいなす腕はあるが、脅威としてはノーマークでよい。
と、小鷹狩のレポートの中にあった。
問題は
今この少年に、臨界眼が備わっていることである。
まさか、戦子と共にいると
臨界眼の自然開眼を促すというのか?
だとしたら、黒夜崎 戦子は。
戦闘麻薬以上の、脅威になるのではないのか。
「やはりお前達は危険だ。ここで始末する!」
「黒ォ!早くッ!」
打撲の痛みが支配しつつあった戦子の身体は、その一声で再びアドレナリンに主導権を手渡した。
陽貴の腰に差し込まれているのは、釵。
琉球武術の中で、最もアーミーナイフと徒手空拳に扱いが近い武器。防刃性能がトンファーに並んで高い。
流石は結子と言った所。対1の斬り合いを考慮すれば、最も戦子に相応しい武器だった。
「センキュー!」
「ノープロブレム!」
示し合わせて、陽貴が左に逸れながら抑え込むタイミングで、釵を右に引き抜く。
― 戦技 先駆者 ―
*
引き抜く瞬間、レイカには見えた。
黄金の視界の中で、描写されていく戦子の姿。
ストップモーションのように絞り、構え、見据え、打ち出してくる。
2対の釵を、斜めに振り下ろしてくる。
続いて、陽貴が詰め寄ってくる。
手にしているのは、刀身の太い段平刀。
重さに慣れていないのか、大袈裟でバッサリと振り下ろしてくる。
計測 完了。
*
次の瞬間、その軌道は現実のものとなる。
左側に抑え込まれたところから、ショートタックルで突き放される。間髪入れず、横から戦子が脇構えで詰め寄ってきた。
タイミング、間合い、リーチ。
寸分の誤差もなかった。
上へと斬りあげる刃を囮に、後方きりもみ回転。金属が擦れる音を聞きながら、蝶のように舞い降りる。
振りかぶってきた段平刀を、靴底で柄を蹴りあげて止めた。
次に同時にかかろうと足が動いた瞬間。
後ろ回転で大きく後退しながら切り払う。
2人の赤い瞳が、その太刀筋を寸前で見切った。
刃を斜に流し、霞の構え。
右の釵を順手に持ち替えた、切っ先を正中線に添える後屈立ち。
肘と腕で頚部を保護したエルボーガードスタンスの奥に鎮座する、脇構えのマチェット。
それぞれ、”強敵”を想定した”距離”と”防御”の構え。
間合いの離れた、膠着状態へと移行した。
「…黒 この人プロなんだろ どうすんだ」
「 悪い人じゃないから 殺したくない 」
「_____今更甘ったれたことを言うなァッ!」
咆哮と共に、間合いは一瞬のものとなりて。
甘い侮辱に憤怒する、鋼鉄の牙が襲い来る。
その女、目は釣り上がり 怒り狂う虎のごとき威容を纏う。
その凶暴な気迫を纏った刃には
膂力、踏み込み、重心落下。
全ての攻撃力を、その刃を抑え込むことに費やすことでしか、その牙を止めることは出来なかった。
「やっべ…この人黒よりおっかねぇ…!!!」
「だけど…そこがいいんだよね!」
「相変わらず何言ってっかわかんねぇけど…2人なら、殺さずに止められるかもなァ!」
鮫島レイカという女は、そこまで戦子や陽貴よりも力が強いようには見えない。
膂力だけで言えば、1人ずつ相手でも少しだけ劣るかもしれない。
しかし、鍔迫り越しに伝わるこの刃の圧は
ひとえにこの女の “怒り” が後押ししているように思えてならない。
となると、その消耗は 彼女のキャパをとっくに超えていることは想像に難くない。
「レイカが過労死する前に 決着をつける」
「その前に お前らを殺す」
圧力が、さらに強くなる。
2人の膂力が強かろうと、レイカの175センチの体格はなお大きなアドバンテージである。
足を踏み出し、ギリギリと2人は下の方へ押さえ込まれていく。
「やべ…ッ」
「今ッ!」
門を開くように、2人は内側へその剣圧を流す。
バランスを崩し、もんどり打ちそうになる。
が、レイカは 地面に背中を付けることはなく
前方宙返り捻り。頭をしっかりとこちらに向け、アスファルトの上に着地した。
当然、ここには踏み台もクッションもない。
「どういう運動神経だよ……ははっ…」
「あれも人能臨界のひとつだよ。 ぼさっとしない!」
戦子は陽貴の左肩を叩き、脇を駆け抜けていく。
束ねていた釵を再び両腕にピタリと付け、構え直したレイカに肉薄する。
*
Q.
上段を無防備にしたまま突貫してくる。意図は不明。
A.
ヤケになったと推測。適応者の能力もあるが、頚部への素早い攻撃が最適解。
*
― 戦技 先駆者 ―
—————違う。やめろ。こいつは簡単に自棄を起こすタマじゃない。こちらの初動をあの赫い臨界眼で捉える為に、わざと急所を晒したのだ。その必殺の隙を、絶対に見逃さないためにだ。
臨界眼の繰り出した予測に、異を唱えるが遅かった。
右から、最短距離。マチェットを、振り出してしまう。
答えが出てきた時には、もう足腰が肩と手先に連動していた。
行動と判断が早いのは、私の長所であり短所だ。
彼女はただ、
― 強化 適応者 ―
視ている。
そう、其の赫い瞳で こちらの軸を見据えている。
最初からわかっていたはずなのに。
振り出す瞬間。
もとい、足が動く瞬間。
戦子は始動していた。
頭と軸が 股関節の沈みで傾き、腰先から潜り込むように半身になっていく。
同時にせりあがってきた肘が。前腕にぴったりとつけられた、釵の本身が。
この 最短距離の剣先を、最大の力が加わる前に抑え、擦り上げた。
*
Q.上段受け。最速の太刀筋が破られた。予測される追撃。
A.喉元に一突き。石突の部分で、喉を粉砕。重心は受けられたマチェットにかかり、次の手は出せない。なすすべは無い。
やられる。
*
「——————!!!!」
身体全体の熱が、さぁっと引いていく。
思考が、全て 目前の”死”を結論づけていく。
あまりに等身大で、あまりに急速な恐怖は、自分自身が誰であったかも一瞬忘れ去らせた。
しかし、次に映し出された光景は”死”ではなかった。
真っ直ぐ突いてくるはずの釵は、親指の操作で順手に持ち替えられ、肩に抱えた射線から一気に振り下ろして腿を打ち据えた。
「_________ッ!!!」
そう。
私はこの人を殺したくない。
生きるためなら、殺す。殺す。殺す。
形はどうあれ、人が何度も繰り返してきたこと。
その行為には、居場所に踏み入れられた不愉快さ以外、なんの感情も存在しえない。
でも、私はこの戦いが楽しかった。
適応者が戦って楽しい相手とは、真っ直ぐな強さを持つということ。
理不尽で、凶暴だけど。
私の心は、貴女の真っ直ぐな強さを悪く思えない。
「……!?」
私は、その瞬間。
戦子の、戦いの虚しさを憂うようで、それでいて慈悲に満ちた穏やかで悲しげな赫目を見ていた。
驚愕したのを覚えている。臨界装を見た時の、敵意に満ちた臨界眼とはまるで違っていた。
半グレ組織や暴力団と単身で抗争を起こし
殺戮と陵辱を繰り返す、凶悪な人物像とは、かけ離れた 彼女の素顔。
そして、私は その瞳を見つめた時。
一瞬、胸で渦巻く黒い憎悪が、霧散していくのを感じたのだ。
「がっ……!!!」
次の瞬間、釵はめり込んだ腿からS字を遡って前腕髐骨を打ち砕いた。
受けた左の釵が支点となり、鉄塊がもたらす破壊には一切の緩和がない。
右腕の握力は失われ、中で血肉が抉り裂かれたような拡散熱と思考を奪う激痛。
レイカはそれ以上は立つことも出来ず、膝をついて無力化された。
奥歯が砕けそうになるほど歯を食いしばりながら、激痛に大粒の涙を流す。
「……完全には砕いてない。治ったらまた戦えるよ」
「私に情けをかけると……後悔するぞ……ッ」
「しない。言ったでしょ 殺したくないって」
半身で見下ろす姿勢から、レイカの頭の位置まで膝をついて目線を合わせた。
「私は……何度でも来るぞ……」
「来ればいい 何度でも来れば」
……何だと?
「私、あなたとのこと納得してない。臨界装が実戦投入されてるのも腸が煮えくり返りそうだし、それを持った人に好き勝手言われてモヤモヤする。あなた達に狙われる理由も納得行かない。」
その瞳は、先程までと変わらず、慈悲の色を宿していた。
「だから私 またレイカと戦いたい」
レイカは、もう何も言わない。
ただ、こちらを見上げている。
ただ、その瞳は
敵を睨みつける、憎悪でも。
異分子を蔑む、冷酷でもなかった。
人間が、人間を見つめる。
真っ直ぐで、澄み切った瞳だった。
「なぁ黒 俺必要だったか?」
「うん 来てくれなかったら、私死んでたかも」
決着は一瞬だった。呆気ないほどに。
威勢よく女の子の前に援護にきたはいいものの、目の前の相手に、鍔迫り合いの気迫で押された。そして、助けに来ておいて結局助けを求めた。
黒夜崎 戦子は、今の陽貴の心情を汲み取れないような薄情な女ではない。
でも、あなたが来てくれなかったら、私は素手であの刃物と相対することになってた。レイカの気迫を前にして、あなたは圧されながらも諦めなかった。私に釵を渡してくれた。
私のために。
だから。
「ありがとねっ」
ニッコリと、満面の笑みをこちらに向ける。
夜の電灯に照らされているので、その頬の紅みは夕焼けのせいなどではないだろう。
陽貴は、いつも見ているはずの彼女の笑顔と、目を合わせるのがなんだか照れくさくなってきた。
「やだなぁ、俺は……」
「たぁのしくおしゃべりしてるとこ悪いんだけどぉ」
気づかなかった。
連戦で鈍っていたのか、私の臨界眼は。
否、さっきレイカに銃を向けられた時点で、かなり鈍っていたはずだ。
それは、臨界眼を開眼して間もない陽貴は尚更だった。
煙とともに現れたバイザーの女は、銀色の注射器を陽貴の頚部に突き刺した。
まもなく、陽貴の薄紅色の臨界眼は大きく見開かれ、血管がどす黒く染まっていくのが見えた。
「——————————陽貴!!!!!!!」
To be continued….
*
臨界眼
臨界者が潜在能力を引き出す際に顕現する、発光器官として変化した瞳。その光は、真夜中の暗闇でもハッキリ視認できる。
体術戦技以外のほぼ全ての人能臨界に付随し、動体視力、高速思考、身体強化が据え置きとなる臨界能力。
同じ系統の色の臨界眼は、似通った能力を持つという。
***
横島邸 内廊下 左回廊。
レイカは、目を見開いて息絶えている組員達が転がるその空間の中から、その死体を見つけた。
陥没した壁の傍で、崩れ落ちている灰色のスーツの男。その背中は巌のようで、丸石のような頑強さを視覚化する、両の拳。
壮絶な打撃戦だったのだろう。
最後はお互い傷つきながらの攻防の末。
この、頸部の打撲痕が、致命傷となった。
「…クズは こうなって当然だ」
レイカは、言い聞かせるようにそうつぶやく。
その声は低く、感情など初めからないかのように抑揚がない。
その表情は、怒りでも悲哀でも、軽蔑でもなかった。
無常、虚無。
その吐いた言葉が、彼の者に向ける最後の感情であるように、その死体をただ物言わぬ肉塊として見ている。
彼の名は、鮫島 ユキオ。
黒煙と火花が、レイカの周りを騒ぎ立て始めた。ずっとここには、いられない。
***
戦子は、スローモーションになった世界の中で焦燥していた。
腹に突き刺さる、前蹴り。
自分の体が風船のように吹き飛ばされるあの蹴りが、まともに入ったらどうなるのか。
それが今、実現されようとしている。
“外し”。
インパクトポイント感知。
惰性貫徹深度計測。
威力受容の為の、必要最低限体積。
― 強化 適応者 ―
軽い。
軽い?
この女の、蹴りが?
まさか。
/
そう。この蹴りは、ブラフだ。
何かしらの、打撃の威力を軽減する技術。
さっき戦った感触で、何となく感じたぞ。お前はそれを持っている。
だから、この蹴りを外させたんだ。
―戦技 波紋旋穿脚 ―
“腹に置いた蹴り”を起点に、入れ替えるように叩き込まれる飛び後ろ蹴り。
この感触。
辛うじて、両腕でブロックしたか。
あれが、無銘者ではないリアクターの能力。
確かに反応速度は桁違いだな。
だが。
/
後ろ蹴りをブロックなんか、するものじゃない。腕の骨に、ヒビが入るかと思った。
上半身が仰け反り、背骨ごと衝撃に持っていかれそうになる。
起立制御を諦め、足首、大腿部、腎部と倒して受け身。
世界が一回転し、右手を地面に着いて見上げる。
すぐには動けない。まずは間合いを計らなければ。
…いない。
「…遅い」
起こしかけていた上体を、慌てて引っ込めて前転する。
その冷たい声が、左斜め後ろから聞こえたから。
地面を転がる背中を、蹴り足に伴う生暖かい突風が撫でる。
今度こそ立ち上がり、戦子とレイカは再び互いの臨界眼とまみえた。
―戦技 先駆者 ―
黄金の瞳。
何の能力だろう。
あの瞳が開いてから、私の動きを先回りする攻撃が増えた。
フェイントも、”外し”を読んでのものだった。
なら、思考加速による先読みの能力なのか。
/
ー 強化 適応者 ―
真紅の瞳。
赤系統の色は、無銘者に見られるものだ。基礎の、身体能力と反射神経の引き出しを開ける能力。
だが無銘者は、他の色に変化する前段階。
MISTにも臨界者は多いが、同じ色のまま強くなる、といった例は初めて聞いた。
目立った能力は無銘者と同じ。いや、そのまま順当に強くしたと言った方がいいのか。
だがそれだけとは思えない。証人は、相対している私だ。
こちらに起きている胸に中に太陽が出来たかのような感情の昂りと、異様な身体能力の強化。戦子の瞳を見た途端、胸とこめかみが締め付けられるような圧迫感と不安。そして、急な解放とこの身体の熱。
何故こちらまで強くする必要があるのかは分からない。だが、私の身体はその分急速に消耗している。肺が焼けつくような疲労を感じるのに、身体の節々が軽い。 先駆者の能力が溢れ出して脳に過剰な負荷を感じるのに、思考がクリアなままだ。
身体が壊れそうなのに、防御機制をかけようとしていないのだ。こちらにとっては深刻な問題だ。
「脚速いね…”陸上部”にいたの?」
肩で息をしながら、真紅の臨界眼の少女はこちらから目を離さない。
「お前こそ、軽い身のこなしだな。人能臨界を差し引いても、一般人とは思えない。”どこで訓練を受けた”?」
黄金の瞳でこちらを捉え続けるスーツの女は、鋭い観察眼で触れてほしくない場所を探り当てた。
「…手を引いてくれるなら喋ろうかな」
「ほざけ」
2人の身体が沈み込むのは、全くの同時だった。
その脚には地面への抵抗も反発もなく、前傾姿勢で加速する2人は、拳を繰り出す。
手足の長さは、レイカに理がある。
拳が先に届いたのはレイカだった。
身体操作の技量は、戦子の方が高い。
拳が触れた場所から軸をずらし、そのまま前足に載せた正拳突き。
胸元、胸骨。
拳銃の訓練でも、最も躱しづらい急所として教えられる急所。
肺呼吸を一瞬殴打するその衝撃に、レイカは胸を抑えて膝を着いた。
*
「”ナスティ”、現状を報告しろ」
「MISTの女が、例のJKと交戦中~ 潰し合いを眺めてるとこ 頃合いを見てどっちも潰す♪ … それより”ボイド”。そっちどうなってる?」
ナスティ、と呼ばれた赤いバイザーの女。
黒いマントの光学迷彩と共に、駐車場に停められているキャンプカーの上からその激闘を観察している。
「”トレンチ”が合流地点に現れない。横島邸で黒夜崎 戦子に遭遇したのかもな」
赤いバイザーの女は、左のピントをレイカに合わせながらため息をつく。
「あのダンビラ侍、歳食ってる割にすぐ調子に乗るからなぁ。アタシらは戦闘員じゃなくて、実演販売のセールスマンだっての」
「そう言う君も 鮫島 レイカに執着するあまり 冷静さを失うことが多いのでは?」
ナスティはしばし沈黙する。
どうせこのバイザーからの視界も、”ボイド”にリアルタイムで共有されているのだろう。
反論する前に、回転蹴りを繰り出すレイカの姿を捉え続ける。
「気に入らないんだよ。アイツら共々。だいたい、黒夜崎 戦子を”レフト”に勧誘するだなんて」
「それは決定事項だ」
ピシャリと遮られる。
普段、ゆっくりはっきりと言葉を繋ぐコイツが、冷たく刺すような話し方をしたことにナスティは驚く。
早口ではあったが、そのくぐもった変声機越しからでもその言葉に力が込められていたことがわかった。
ナスティは、これ以上このことに触れないことにした。
「…んじゃ、その勧誘対象は生かさず殺さずってことかよ?無茶言ってくれるよなまったく」
「いいや 本気を出しても構わない 」
はァ?と声を漏らす。
殺さずに連れ帰れ、だが本気で殺しに行け。
あまりに矛盾した注文だった。
「殺しにかかるくらいが、彼女を連れ帰るにちょうどいいんだ」
「…それ、アタシが新入りだからか アイツを買ってんのかどっちだ」
「もちろん 後者だ」
納得のいく答えではなかったが、黒夜崎 戦子の強さは認めざるを得ない。
アタシだってこの目で見て信じられなかったのだ。
ボイドの鉤爪を臨界眼で躱し、臨界装もなしに格闘戦で引き分け、あまつさえ蹴り飛ばして撤退を余儀なくさせたあの少女の姿が。
画面越しにも、あの真紅の瞳がこちらを向く瞬間は迫力がある。きっと、一人称映像と自分の目で相対するのとでは、緊迫感には雲泥の差があるだろう。
「わかったよ。そろそろ潰しに行く」
「あぁ。油断するなよ」
「当たり前だっての。んじゃ…あ!?オイオイオイ!ウッソだろ!?」
次の瞬間、ナスティは
目をつけていた場所から大きく離れたポイントで映りこんだ光景に、平静では居られなかった。
*
内回し。
腿を内側から取り回し、正拳突きを大きく外に打ち流す。
返す左ストレート。
躱すまでもなく、右の中段蹴りが戦子の背中を打った。
数歩小走りに足を打ち付け、インパクトを逃がす。
風を感じる。
その虫の知らせに、大きく右半身を引いて振り返った。
目にしたのは、0.2秒前の頭位置を通過していく飛び後ろ回し蹴り。
革靴が目の前を掠めた。
自分より背丈の高い、眼光鋭い女が
まるでそこに重力がないかのように跳躍する。
しかしその蹴り足が放つ風圧は、十二分にこちらの首を刈り取る重圧を示唆していた。
着地と同時に、レイカは再び蹴り足を内側に折りたたみ、回転をかけて跳び上がる。
同じ軌道、同じタイミングで繰り出されたその身のこなしは、こちらの予測を直前で飛び越えてきた。
その蹴り足は、顔には届かず、直前で降りる。
その赫い瞳で測っていた距離よりも、手前で
その蹴り足は攻撃役を降りたのだ。
誤算は、胸元に突き刺さる左足。
遅くなった世界の中で、その重圧は
戦子の踵に乗った重心を、いとも容易く地面から引き剥がした。
「うご…ッ」
まともに入った音がした。
不安定な姿勢で蹴り込み、自分も地面に背をつける。
ここで決めなければ。
身体も限界に近い。
打撃の余震に身体を抱え、相手が身動きが取れない今しかない。
レイカは両足を空に振り抜いて飛び起き、5mの間合いを勢いよく詰める。
胸あたりまでリフトした膝を傾けて半回転、繰り出されるは踵。
ー 戦技 波紋旋穿脚 ―
せり上げた後ろ足が、戦子を軽風船のように吹き飛ばす。
跳ね飛ばされた戦子の身体は、駐車場の緑フェンスをなんの抵抗もなく引き剥がし、向こうの暗闇へと消えた。
同時に、胸が焼き付くような体温が消える。
レイカは、目眩の伴う強烈な疲労に襲われた。
あの少女は、気絶したのだろう。もしくは、仕留めたかもしれない。あの瞳は通常の無銘者と違う。一定以上の戦力に対し相手の力を半ば強制的に引き出して体力を奪う能力が付随されていると推測される。
そして、リフレクター本来の反射神経と身体強化は従来のソレより数段高い水準で備わっているとなると、相当厄介な相手だったと言える。
これだけの能力者なら、あの倉庫での凶行を成し遂げたことも納得が行く。
しかし、膝をつくレイカの胸には、ぽっかりと穴が空いたような虚しさがあった。
「…!!!!」
そして、その心の穴に
焼け付くような”熱”が再び戻ってくる。
「まさか…!」
― 強化 適応者 ―
赫い瞳が。
赤い瞳が、糸を引いて揺れている。
身体を抱え、ふらつくような足取りでも。
その瞳の威圧感は、寸分たりとも変わっていない。
倦怠感と乳酸に支配されていたレイカの手足に、熱が戻る。
節々が、骨肉が悲鳴をあげても
身体が「動け」と囃し立てるのだ。
「もう やめよう」
戦子は、訴えかけるように言葉を投げかける。
あの臨界眼に突き動かされているのは、彼女も同じであるようだ。
お互いに、この赤い瞳の力でようやく立っている状態であるようだ。
「命乞いの…つもりか…?」
「あんた今 体ボロボロなのに楽しいんでしょ 最悪死ぬよ、それ」
楽しい...?
そういえば、私がここまで心身が燃えるような想いをしたのは、いつぶりだろうか。
そもそも、私は 戦いに意義を見出したことなどあっただろうか。
結局のところ、八つ当たりだった気さえする。
「そうだな。そうかもしれない だが死んでもやるべきことはある」
「…不穏分子を消す?」
「そうだ。…そうだッ!それだけを信じて殺してきたッ」
― 一型β トゥースマチェット ―
懐から、柄を横に引き抜いて刃を投影する。
それを見た、戦子は、驚いたように固まる。
しかし、それは 初めて臨界装を見た反応ではなかった。
直ぐに見開いた目は吊り上がり、
「…なんで、あんたが”ソレ”を持ってるの 」
瞬間、目の前の戦子という少女から
初めて、明確な激昂と敵意を感じ取った。
「あんた達 どこで”ソレ”を知ったの」
その声は低く、身体の芯が震えるような静かな怒気を孕んでいる。
「答 え ろ ッ ! ! ! 」
その怒声と同時に、こちらの身体の熱が更に燃え上がる。
私の身体は、彼女の怒りに共鳴しているのか。
「さぁなッ! 大人しく殺されたら、教えてやるッ 」
「———ふぅざけぇんなぁぁぁぁぁッ!!! 」
間合いの不利など知らないとばかりに、戦子は突貫してくる。
迎え撃つように、ラリアットの要領で頚部に振り下ろす。
そんなものは見え透いている、と言わんばかりに
振り始めの足の出を察知し、前転。
振り返る間に、戦子は立ち上がっている。
体と頭を傾けて、踏み込んだローキック。
咄嗟に上げた膝を身代わりにする。
手前ではなく、まともに受け止めたために、
ほんの0.3秒、2人の脚は競り合いは膠着する。
***
問.
膂力において不利。この競り合いでは力負けし、体勢を崩される。この状況における最適解を求めよ。
*
蹴りを振り抜かれ、重心が傾いて宙に浮く。
身体が崩されていく。
*
解答.
崩されるなら崩されるまま、________
***
______後ろ回転し、マチェットを振り抜く。
間違いなく、最適解であった。
誤算は、戦子には未だに余力があるということ。
目を一直線に切り裂くはずだった太刀筋を、きりもみ回転でいなし、間合いは振り出しへと戻った。
しかし、やはり消耗はしているようだな。息が上がっている。
さっきまでなら、着地と同時に詰めてきただろう。だがやはり、この女も 身体がボロボロでもムチを打てる類らしい。だからこそ、この能力か。
このままいけば、戦子を倒せる。
そう確信したところで1つ、疑問がある。
何故、私は最初からマチェットを使わなかったのだろうか。
銃を避けられたとしても、素手同士に応じる必要はなかった。相手は暴力団と戦い、疲弊している。
距離を取り、引きながら
この刃で捌いていけば、もっと早くコイツを倒せていたのでは。
*
…モッタイナイ
*
最初から武器を使っていれば
*
ソレジャイミガナイ…!
*
素手とのリーチ差で、追い詰めていれば良かったのに。
*
ソンナノ
ゼンゼン タノシクナイ!!!!
*
う る さ い ! ! !
半ば八つ当たりのように、手にした刃物を戦子に振りかざした。
戦子は、倒れ込むような前転で、やっとのことでその太刀筋を躱す。
「…戦いが楽しいなんて!幻想だッ!」
追撃の切り払いを地面から押さえ込み、マチェットを握る親指を取り外しにかかった。
嗚呼、序盤は素手で正解だった。
思えば、ファーストコンタクトではいとも簡単に銃をこちらから奪い去っていた。もし最初からマチェットを出していれば、武器を奪い取られて余計なリスクを負っただろう。
ダメージも消耗も、幸いあちらの方が大きい。
取られる手首を肘で回すように押し出し、ディザームを回避する。
「正義も悪も!結局殺し合いだ!!!そこにそんなおめでたいものは!」
足刀で蹴り離し、腕と肩を引き絞る。
「ないッ!!!!」
刃を振り抜き、それは戦子の目前を通過する。
「あっやば……っ」
反射的に避けれたが、この間合いに次はない。
思考が終わる前に、外れたマチェットはまた振り下ろされる。
と、同時に
軽快な足音が、こちらに駆け寄ってくるのに気づいた。
*
……抜刀というものに、100kgのバーベルを跳ねあげるような力は要らない。
刀を抜く際、親指で鍔を押し、右腕と腰で懐を広げるように引くだけ。
普通の刀なら軽い動作だろう。
必要な動作は2つだけなのだから。
だがこいつにとっては、その簡単な動作がその限りでなく重かった 。
真剣を抜いてしまっては相手を本気にさせてしまう。覚悟がないなら真剣は抜くな。
爺ちゃんには、そう言われてきた。
覚悟ならある。
目の前の友達を、守るくらいの覚悟なら。
自分の使い慣れた刀ではないが、懐深く抜刀する。
太刀とはあまり大差ない。すこし前が重いだけだとわかる。抜く感覚自体はあまり変わらない。
使い慣れている木刀と同じく、柄はシンプルな木製だ。
いつもの木刀とは勝手が違うが感じる。
真剣を抜くこの感じ。腰に多少の重量が残る感覚。
些細なことだが抜刀した実感を得る。
やはり若干フロントヘビーだな。問題ない。
振り下ろされるマチェットの前に刀を差し込み、引き寄せて受け止める。
手ごたえが、重い。
「何…ッ」
「重っ。やっぱ慣れるのは時間かかるかなァ」
目の前の女からは動揺が見て取れる。
まあ、こんな機敏に動けて驚いてるのはこっちもだけどな。
だが、女の黄金の瞳———臨界眼は、まもなく殺気の色を取り戻した。
「....空翔 陽貴……!」
いや、
怖ぇ~~~~~~~~~!?
爺ちゃんよ!これが”本身の怖さ”なのか!?
金属バットを振りかざされようが短刀を握りしめて突貫されようが、黒に睨まれるよりは怖くないと思っていた。
だけどなんだこれは。この女と目を合わせるだけで!ちびりそうだ!!!!
負けてはいけない。声が出せるうちに、伝えなければ。
「黒ォ!今んうちにベルトに差してる”コレ”取れ!この姉ちゃん押し込み強くていつ斬られるかわかんねェ!!!」
空翔 陽貴。
遼の持ってきたデータの中に含まれていた。
剣術道場の息子。戦子の活動に同行しているとあった。
実戦で剣を持ったことがなく、臨界眼もない。素手で不良程度をいなす腕はあるが、脅威としてはノーマークでよい。
と、小鷹狩のレポートの中にあった。
問題は
今この少年に、臨界眼が備わっていることである。
まさか、戦子と共にいると
臨界眼の自然開眼を促すというのか?
だとしたら、黒夜崎 戦子は。
戦闘麻薬以上の、脅威になるのではないのか。
「やはりお前達は危険だ。ここで始末する!」
「黒ォ!早くッ!」
打撲の痛みが支配しつつあった戦子の身体は、その一声で再びアドレナリンに主導権を手渡した。
陽貴の腰に差し込まれているのは、釵。
琉球武術の中で、最もアーミーナイフと徒手空拳に扱いが近い武器。防刃性能がトンファーに並んで高い。
流石は結子と言った所。対1の斬り合いを考慮すれば、最も戦子に相応しい武器だった。
「センキュー!」
「ノープロブレム!」
示し合わせて、陽貴が左に逸れながら抑え込むタイミングで、釵を右に引き抜く。
― 戦技 先駆者 ―
*
引き抜く瞬間、レイカには見えた。
黄金の視界の中で、描写されていく戦子の姿。
ストップモーションのように絞り、構え、見据え、打ち出してくる。
2対の釵を、斜めに振り下ろしてくる。
続いて、陽貴が詰め寄ってくる。
手にしているのは、刀身の太い段平刀。
重さに慣れていないのか、大袈裟でバッサリと振り下ろしてくる。
計測 完了。
*
次の瞬間、その軌道は現実のものとなる。
左側に抑え込まれたところから、ショートタックルで突き放される。間髪入れず、横から戦子が脇構えで詰め寄ってきた。
タイミング、間合い、リーチ。
寸分の誤差もなかった。
上へと斬りあげる刃を囮に、後方きりもみ回転。金属が擦れる音を聞きながら、蝶のように舞い降りる。
振りかぶってきた段平刀を、靴底で柄を蹴りあげて止めた。
次に同時にかかろうと足が動いた瞬間。
後ろ回転で大きく後退しながら切り払う。
2人の赤い瞳が、その太刀筋を寸前で見切った。
刃を斜に流し、霞の構え。
右の釵を順手に持ち替えた、切っ先を正中線に添える後屈立ち。
肘と腕で頚部を保護したエルボーガードスタンスの奥に鎮座する、脇構えのマチェット。
それぞれ、”強敵”を想定した”距離”と”防御”の構え。
間合いの離れた、膠着状態へと移行した。
「…黒 この人プロなんだろ どうすんだ」
「 悪い人じゃないから 殺したくない 」
「_____今更甘ったれたことを言うなァッ!」
咆哮と共に、間合いは一瞬のものとなりて。
甘い侮辱に憤怒する、鋼鉄の牙が襲い来る。
その女、目は釣り上がり 怒り狂う虎のごとき威容を纏う。
その凶暴な気迫を纏った刃には
膂力、踏み込み、重心落下。
全ての攻撃力を、その刃を抑え込むことに費やすことでしか、その牙を止めることは出来なかった。
「やっべ…この人黒よりおっかねぇ…!!!」
「だけど…そこがいいんだよね!」
「相変わらず何言ってっかわかんねぇけど…2人なら、殺さずに止められるかもなァ!」
鮫島レイカという女は、そこまで戦子や陽貴よりも力が強いようには見えない。
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しかし、鍔迫り越しに伝わるこの刃の圧は
ひとえにこの女の “怒り” が後押ししているように思えてならない。
となると、その消耗は 彼女のキャパをとっくに超えていることは想像に難くない。
「レイカが過労死する前に 決着をつける」
「その前に お前らを殺す」
圧力が、さらに強くなる。
2人の膂力が強かろうと、レイカの175センチの体格はなお大きなアドバンテージである。
足を踏み出し、ギリギリと2人は下の方へ押さえ込まれていく。
「やべ…ッ」
「今ッ!」
門を開くように、2人は内側へその剣圧を流す。
バランスを崩し、もんどり打ちそうになる。
が、レイカは 地面に背中を付けることはなく
前方宙返り捻り。頭をしっかりとこちらに向け、アスファルトの上に着地した。
当然、ここには踏み台もクッションもない。
「どういう運動神経だよ……ははっ…」
「あれも人能臨界のひとつだよ。 ぼさっとしない!」
戦子は陽貴の左肩を叩き、脇を駆け抜けていく。
束ねていた釵を再び両腕にピタリと付け、構え直したレイカに肉薄する。
*
Q.
上段を無防備にしたまま突貫してくる。意図は不明。
A.
ヤケになったと推測。適応者の能力もあるが、頚部への素早い攻撃が最適解。
*
― 戦技 先駆者 ―
—————違う。やめろ。こいつは簡単に自棄を起こすタマじゃない。こちらの初動をあの赫い臨界眼で捉える為に、わざと急所を晒したのだ。その必殺の隙を、絶対に見逃さないためにだ。
臨界眼の繰り出した予測に、異を唱えるが遅かった。
右から、最短距離。マチェットを、振り出してしまう。
答えが出てきた時には、もう足腰が肩と手先に連動していた。
行動と判断が早いのは、私の長所であり短所だ。
彼女はただ、
― 強化 適応者 ―
視ている。
そう、其の赫い瞳で こちらの軸を見据えている。
最初からわかっていたはずなのに。
振り出す瞬間。
もとい、足が動く瞬間。
戦子は始動していた。
頭と軸が 股関節の沈みで傾き、腰先から潜り込むように半身になっていく。
同時にせりあがってきた肘が。前腕にぴったりとつけられた、釵の本身が。
この 最短距離の剣先を、最大の力が加わる前に抑え、擦り上げた。
*
Q.上段受け。最速の太刀筋が破られた。予測される追撃。
A.喉元に一突き。石突の部分で、喉を粉砕。重心は受けられたマチェットにかかり、次の手は出せない。なすすべは無い。
やられる。
*
「——————!!!!」
身体全体の熱が、さぁっと引いていく。
思考が、全て 目前の”死”を結論づけていく。
あまりに等身大で、あまりに急速な恐怖は、自分自身が誰であったかも一瞬忘れ去らせた。
しかし、次に映し出された光景は”死”ではなかった。
真っ直ぐ突いてくるはずの釵は、親指の操作で順手に持ち替えられ、肩に抱えた射線から一気に振り下ろして腿を打ち据えた。
「_________ッ!!!」
そう。
私はこの人を殺したくない。
生きるためなら、殺す。殺す。殺す。
形はどうあれ、人が何度も繰り返してきたこと。
その行為には、居場所に踏み入れられた不愉快さ以外、なんの感情も存在しえない。
でも、私はこの戦いが楽しかった。
適応者が戦って楽しい相手とは、真っ直ぐな強さを持つということ。
理不尽で、凶暴だけど。
私の心は、貴女の真っ直ぐな強さを悪く思えない。
「……!?」
私は、その瞬間。
戦子の、戦いの虚しさを憂うようで、それでいて慈悲に満ちた穏やかで悲しげな赫目を見ていた。
驚愕したのを覚えている。臨界装を見た時の、敵意に満ちた臨界眼とはまるで違っていた。
半グレ組織や暴力団と単身で抗争を起こし
殺戮と陵辱を繰り返す、凶悪な人物像とは、かけ離れた 彼女の素顔。
そして、私は その瞳を見つめた時。
一瞬、胸で渦巻く黒い憎悪が、霧散していくのを感じたのだ。
「がっ……!!!」
次の瞬間、釵はめり込んだ腿からS字を遡って前腕髐骨を打ち砕いた。
受けた左の釵が支点となり、鉄塊がもたらす破壊には一切の緩和がない。
右腕の握力は失われ、中で血肉が抉り裂かれたような拡散熱と思考を奪う激痛。
レイカはそれ以上は立つことも出来ず、膝をついて無力化された。
奥歯が砕けそうになるほど歯を食いしばりながら、激痛に大粒の涙を流す。
「……完全には砕いてない。治ったらまた戦えるよ」
「私に情けをかけると……後悔するぞ……ッ」
「しない。言ったでしょ 殺したくないって」
半身で見下ろす姿勢から、レイカの頭の位置まで膝をついて目線を合わせた。
「私は……何度でも来るぞ……」
「来ればいい 何度でも来れば」
……何だと?
「私、あなたとのこと納得してない。臨界装が実戦投入されてるのも腸が煮えくり返りそうだし、それを持った人に好き勝手言われてモヤモヤする。あなた達に狙われる理由も納得行かない。」
その瞳は、先程までと変わらず、慈悲の色を宿していた。
「だから私 またレイカと戦いたい」
レイカは、もう何も言わない。
ただ、こちらを見上げている。
ただ、その瞳は
敵を睨みつける、憎悪でも。
異分子を蔑む、冷酷でもなかった。
人間が、人間を見つめる。
真っ直ぐで、澄み切った瞳だった。
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「うん 来てくれなかったら、私死んでたかも」
決着は一瞬だった。呆気ないほどに。
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黒夜崎 戦子は、今の陽貴の心情を汲み取れないような薄情な女ではない。
でも、あなたが来てくれなかったら、私は素手であの刃物と相対することになってた。レイカの気迫を前にして、あなたは圧されながらも諦めなかった。私に釵を渡してくれた。
私のために。
だから。
「ありがとねっ」
ニッコリと、満面の笑みをこちらに向ける。
夜の電灯に照らされているので、その頬の紅みは夕焼けのせいなどではないだろう。
陽貴は、いつも見ているはずの彼女の笑顔と、目を合わせるのがなんだか照れくさくなってきた。
「やだなぁ、俺は……」
「たぁのしくおしゃべりしてるとこ悪いんだけどぉ」
気づかなかった。
連戦で鈍っていたのか、私の臨界眼は。
否、さっきレイカに銃を向けられた時点で、かなり鈍っていたはずだ。
それは、臨界眼を開眼して間もない陽貴は尚更だった。
煙とともに現れたバイザーの女は、銀色の注射器を陽貴の頚部に突き刺した。
まもなく、陽貴の薄紅色の臨界眼は大きく見開かれ、血管がどす黒く染まっていくのが見えた。
「——————————陽貴!!!!!!!」
To be continued….
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