【中間選考残作品】医大生が聖女として異世界に召喚されましたが、魔力はからっきしなので現代医術の力で治癒魔法を偽装します!【3章終】

みやこ。@他コン2作通過

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王都誘致編

偽物聖女と冤罪王子の結託①

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「ルイス無事か!?」

 話も一区切りというところで息を荒げたミハエルが戻ってきた。泣き腫らした眼は顔を洗ったおかげで幾分かマシになっている。

「偽聖女よ、ルイスに可笑しな事はしていないだろうな!?」
「する訳無いじゃないの⋯⋯」

(あの話を聴いた後だと、此のくらい如何って事無いわね。まあ、多少は憎らしくはあるけれど。⋯⋯でも、それでも真実だけは伝えてあげたい)

 小夜はお節介とは分かっていても言わずにはいれなかった。彼を呪いの子たらしめる要因を、小夜は一目見た時から見抜いていたのだ。

「ねぇ、一つだけ教えてあげる。ヘタレ王子のそれ、呪いなんかじゃないわよ」
「それ、とは?」
「あんたの噂の原因になってる髪と瞳の色よ」
「なんだと⋯⋯?」

 ミハエルは一瞬ぽかんとして、ハッと我に返る。まさに青天の霹靂といった様子だ。
 自分では否定していても、心の奥底では不安を拭いきれなかったのだろう。戸惑いを隠すようにミハエルは掴みかからんばかりの勢いで小夜に詰め寄る。

「呪いじゃないというなら一体何だというんだ! オレ以外に此のような見目の者は居ないのだぞ!?」
「私の居た世界には偶にいたわよ。貴方一人じゃないわ」
「!?」

 ミハエルの表情は更に驚きに満ちる。

「色々な呼び方は有るけれど⋯⋯先天性色素欠乏症——つまりはアルビノね」
「⋯⋯ある、びの?」
「先天的なメラニン色素の欠乏によって起こる症状よ。17,000人に1人くらいの割合で存在する筈だわ」

 小夜は此れに関しては『病気』という言葉を使いたく無かった。あえてそのワードは出さずに話を進める。
 しかし一通り説明を終えても、小夜の予想に反してミハエルの表情が晴れる事は無かった。

「⋯⋯例えオレがお前の言う通りアルビノ、というものだったとしてもオレの此の外見が気味悪いのは変わらないだろう」
「気味が悪いですって? アンタ⋯⋯何言ってンのよ」
「は⋯⋯?」

 小夜が眼光鋭く睨みを効かせると、ミハエルは本日何度目かの呆気に取られた表情になる。

「先ずはアンタのその白い髪! ふわっふわでよく手入れされていて絹糸みたいで綺麗じゃない。それに人の髪は元々白いらしいわ。そこにメラニン色素が入って色がつく。つまり、貴方の白は真っ直ぐで曇り一つ無い純粋な色よ!」
「⋯⋯!」
「それに、未だ何色にも染まって無いという事は、無限の可能性を秘めているって事じゃない?」

 小夜が真っ直ぐにミハエルの瞳を見据えながらそう言うと、彼の目尻にはじわりと涙が滲む。
 すっかり熱が入った小夜はミハエルの胸倉を掴み、強引に引き寄せる。

「次に赤い瞳! 赤と言えば情熱、そして炎の色! まるでその瞳には貴方のルイスさんを想う強い心が現れているようだわ。それに、キラキラと輝いていて貴方の胸に付いている宝石みたいで素敵ね」

 そう言いながらミハエルの胸元で光るルビーが嵌め込まれたダブルピンブローチに目をやる。
 些かこじつけが過ぎる部分もあったが、ミハエルには効果的面だったらしい。彼は耐え切れず、遂にポロポロと涙を流した。
 それを見た小夜はここぞとばかりに畳み掛ける。

「貴方のそれは呪いじゃなく個性よ。恥じる事なんて何も無いわ。貴方は他人には持ち得ない美しいものを持っている。寧ろ恥ずかしいのは何も知らずその美しさに嫉妬してる奴らだわ」
「し、しかし⋯⋯」

 不安げにゆらゆらと揺れる瞳を逸らさせまいと小夜は更に距離を縮める。

「だってもしかしも無いッ! アンタがもし呪われているのだとすれば、その陰気臭い心根だわ! 自分にとって取るに足らない奴の言葉なんて気にしなければ良いじゃない。アンタはアンタを信じてくれる人の言葉だけをひたすらに信じれば良いじゃない!」
「⋯⋯!!」

 ミハエルは何かに気付いたように目を見張る。大きく見開かれた瞳からはぽろりと一筋の涙が溢れ、赤く染まった頬を濡らした。
 殆ど息継ぎも無しに言い切った小夜は、息を切らしながら掴んでいた上着から手を離す。

「私も貧乏で可哀想だと散々言われてきたけれど、努力して努力して⋯⋯それはもう、血反吐を吐く思いで努力してそいつらを捻じ伏せてやったわ! その時の彼奴らの顔といったら⋯⋯思い出すだけでも笑えてくる」

 小夜はその時の光景を思い出し、嘲笑を浮かべる。


「⋯⋯お前、性格悪いな」

 小夜の悪人顔を見たミハエルは思わずといった様子で吹き出した。

「それくらいしないと生き残れなかったのよ」
「流石は聖女を騙る度胸を持ち合わせているだけの事はある」
「仕方ないじゃないの。でも、今私が言った事は嘘偽り無い本心よ。何なら心を読んだって良いわ」

 小夜は自分の言う事が真実であると証明する為に、胸を張り真っ直ぐにミハエルを見つめる。

「⋯⋯」

 すると、不意にミハエルが顔を背ける。
 見るとその顔は真っ赤に染まっており、白い肌の為に尚の事目立つそれは隠し切れていなかった。

「心読んだの?」
「⋯⋯読まなくても分かる」

 チラリと窺うように小夜に目を向けてからふいっと逸らすミハエル。

「ふーん、そうなの。何だかそうしてると兎みたいで可愛らしいわね」
「なっ! 馬鹿にしているのか⋯⋯!?」
「あら、心外だわ。褒めているのに」

 小夜がそう言って笑うとミハエルは顔を両手で覆ってしまう。暫しの沈黙の後、恐る恐る顔を上げた彼は口を開いた。

「⋯⋯ルイスの治療をする代わりにお前の出す条件を呑んでも良い」

 それはそれは油断すれば聴き逃してしまう程のか細い声だった。







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