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聖女爆誕編

憧憬の背中を追いかけて②

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 追い詰められた小夜は落ち着きを取り戻す為、瞳を閉じて暗闇の中、思考に集中する。

(⋯⋯私は一体如何すれば良いの?)


 小夜が迷った時や落ち込んだ時、そして困難に直面した時——。そんな時、思い出すのは決まってエリザベス・ブラックウェルの残したとされる言葉だった。

 小夜はすうっと細く息を吐き出し、ゆっくりと空気を肺に取り込む。酸素が行き渡り幾分か平静を取り戻した小夜の脳内には、まさに今の状況に打ってつけの言葉が浮かんで来た。
 そらんじられる程に幾度も幾度も指先でなぞり読み込んだそれは、まるで直ぐ近くで囁かれていると錯覚する程に音を伴って鮮明に聴こえて来るようだった。


 ——私は嬉しい。他人ではなく、私が開拓者パイオニアとしてこの仕事をするのだという事が。開拓者になるのは簡単な事ではありません。しかし、それはとても魅力的なものです。私は一瞬、最悪の瞬間でさえ、それを世界の全ての富と交換するつもりはありません。


 小夜の心にぽうっと火が灯る。その熱は胸から腹、四肢へと次第に伝播して行き、気付けば全身が熱く漲っていた。

(エリザベスは困難に打つかった時こそ、それを楽しんで乗り越えて来たわ。そうして彼女は未だ誰も成し遂げていなかった女性初の医師という快挙を成し遂げて見せた。先駆者たる彼女のようになりたいのなら私もこんな所で怖気付いている場合では無いわ!)

 気付けば身体の震えは止まっていた。瞳からも怯えはすっかり消え去り、今では確固たる意志を秘めた輝きを放っている。
 心を決めた小夜は椅子から立ち上がった。

(村人達の病状を見るに、残された時間は少ないわ。私は限られた時間、少ない実践の中で最大限の経験値を積まなければならない——)

「故に、私は私自身を実験台モルモットとして使うのよ!!」





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