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聖女爆誕編
聖女の魔法(嘘)②
しおりを挟む小夜が考えに耽っていると、突然背後から声を掛けられる。
「なぁ、これから聖女様の魔法を使うんだろ? 呪文とかは無いのか?」
「えっ!?」
小夜は跳び上がった。それはもう、文字通りにピョンッと勢い良く。
「ああ、じゅもん⋯⋯呪文ね。もちろん有るわよ!?」
(ま、不味い、何も考えて無かったわ! でも咄嗟に有ると言ってしまった手前、今更引き下がれない!!)
小夜は内心激しく狼狽えながらもそれを表情には出さず、自称世界に誇るべき輝かしい頭脳をフル回転させ、この場で取るべき行動の最適解を模索する。
そして、一つの答えが導き出された。それは、体感では十数分程、時間にしてみれば僅か数秒程の事だった。
(こうなったら自棄よッ!)
小夜は羞恥心を押し殺し、すうっと大きく息を吸い込むと声と共に勢い良く吐き出す。
「あっ、あぶらかたぶら~! 呪いよ治れ~!!」
僅かに震える薄い唇からぎこちなく発せられる古より伝わる擦り切れる程に使い古された呪文。長考の末、導き出された答えは何とも間抜けなものであった。
顔を真っ赤にしてそれを唱える小夜の事を、ルッツはポカンと大口を開けて見ていた。
(嗚呼、何故私がこんな事を⋯⋯! それもこれも全てはあの男の所為よ!!)
小夜はその後も思い付く限りの知っているそれらしい呪文を並べ立てたが、当然ながら何も起こらない。何故なら、小夜は魔力を持たない一般人なのだから。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
詠唱が終れば、その場には静寂が流れる。
ズシンと身体にのし掛かるような重苦しい空気に耐え切れなくなった小夜は我慢ならず声を上げた。
「ちょっとッ! 何とか言いなさいよっ!!」
「あ、ああ。お疲れ様⋯⋯?」
「そっ、それだけ!? 私があんなに恥ずかしい思いをしてまで頑張ったのに⋯⋯!?」
「っても、何も起こらないしな。実感が無いから何とも言えねぇよ」
「⋯⋯っ!」
図星を突かれた小夜はグッと押し黙る。
この一件により、新たな課題が浮き彫りとなった。
(どうやら聖女は何らかの呪文を唱えて傷付いた人々を癒すという認識のようね。次までに如何にかしてそれっぽい演出を考えなければならないわ⋯⋯)
聖女としての体裁も有るが、それ以上に今回のような公開処刑とも呼べる辱めを受けるのはこれきりで充分である。
(⋯⋯この場に居たのがルッツだけで良かった)
此の難局を如何にかして乗り切った小夜はホッと息を吐き出した。
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