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聖女爆誕編

治療は消毒に始まり、消毒に終わる。①

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 小夜の指示を受けたルッツは、早々に村人達に薬や衛生用品を配り終えた。
 そして、次に小夜が取った行動は更なるペストの蔓延を防ぐ為、罹患者を一箇所に集める事だった。

(此処でこれ以上の感染拡大を食い止めるのよ⋯⋯!)

 村で一番の広さを誇る寄合所だったその建物は、さながら小さな病院に様変わりする。一通りの準備を終え、一息ついた頃には既に空が白み始めていた。

「なあ聖女様、次はどうすンだ?」

 助手の証として小夜から与えられた白のケーシー(半袖の医療用ユニフォーム)に袖を通したルッツは期待を込めた視線で小夜を見つめる。火急の事態の為に徹夜を強いてしまったが、どうやら彼の元気は有り余っているようだ。

「次は⋯⋯いよいよ杖を使うわ!」
「!!」

 小夜の言葉を聴いたルッツは途端にさあっと青ざめる。恐らく、練習と称して小夜に杖を刺された時の事を思い出しているのだろう。

「ほ、本当にアレをやるのか⋯⋯?」
「当たり前じゃないの。本番では杖に聖薬を入れて身体に注入するのよ」
「!?」

 あまりの衝撃にルッツは言葉が出ないようだった。

「練習と違って杖だけ刺しても意味が無いのよ。ルッツ、貴方にも手伝って貰うから覚悟してね」
「おっ、俺にはそんなむごい事出来ねぇよ⋯⋯! 呪いよりも先に刺されたショックで死んじまう⋯⋯」
「私達の手には人命がかかっているの。出来る出来ないじゃない、やるのよ!!」
「⋯⋯わ、分かった」

 小夜の気迫に押され気味のルッツ。彼は可哀想な程に血の気を失った顔で紫色の唇を開き、緩慢な動作で頷いた。まるでチアノーゼの症状のようである。

(まさか此処まで怯えるとは思っていなかったわ⋯⋯もしかしたらトラウマを植え付けてしまったのかも)

 ルッツの病的なまでの反応を見た小夜は反省する。しかし、ルッツには申し訳ないが今は彼の心のケアまでしている余裕は無かった。

(この世界の人達にとっては注射器なんて未知の物だものね。本番では出来るだけ注射から気を逸らすようにルッツに協力して貰おう)

 ただでさえ異世界人として遠巻きにされているのだ。これ以上、村人達に小夜への恐怖心を煽る訳にはいかないとひっそりと決意を固める。

「さあ、急いで! 何としても一度目の投薬を今日中に終わらせる必要があるわ!」

 小夜はルッツの手を取り歩き出す。
 陽が登ったばかりとはいえ、小夜自身初めての処置にどれだけ時間がかかるか予想出来なかった。そのため、一刻も早く取り掛かりたい小夜は早足で1人目の患者の元へと向かうのであった。
 






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