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異世界転移編
魔法のアプリ①
しおりを挟む一人その場に取り残された小夜は、暫くの間呆然としていた。
「⋯⋯そうだ、あの男が言っていた魔法の板!!」
突然ハッと正気を取り戻した小夜はジーンズのポケットを弄る。
殆ど身一つでこの世界に来た小夜の所持品といえばスマートフォンと財布くらいだった。
(板ってスマホの事? でも、この世界でも使えるのかしら⋯⋯?)
小夜は半信半疑でスマートフォンの電源を入れる。
パッと薄暗い室内に明かりが灯る。小夜は直ぐに左上にある電波状況を確認した。
「——って! 圏外じゃない。やっぱりあの男、信用ならないわ!」
再び揶揄われたのだと嘆く小夜は、突然の別れとなってしまった家族の写真を求めてスマートフォンを操作する。
「!?」
ハッと息を呑んだ小夜は目にも留まらぬ速さでホーム画面をスライドさせる。
デフォルトのシンプルな壁紙の上には数々の便利なアプリケーションが並んでいる筈だった。筈だったのだが——
「⋯⋯ない。何処にも無いわ!!」
小夜は思わず大声を上げ頭を抱える。
ホーム画面にはたった一つのアプリケーションを残すのみで、それ以外は全て跡形も無く消えていた。
おまけに、唯一残っているアプリケーションをインストールした記憶も無い。
「ちょっとしたプレゼントって⋯⋯こんなの一種のウイルスじゃないっ! よく分からない男の持ってきた病原菌に侵されてしまったんだわ! 嗚呼、なんて憐れなのかしら、私のスマートフォン!!」
どうにも怒りが収まらない小夜は、20年間培って来た持ち得る幾多もの語彙を以って罵詈讒謗の限りを尽くした。
「次会ったら覚えておきなさいよ⋯⋯!」
最後に悪役が放つ捨て台詞のようにそう吐き捨てると、何時迄も現実から目を逸らす訳にはいかないと再びスマートフォンに向き直る。
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