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異世界転移編

自称、王国一の魔女。①

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「⋯⋯此処にお婆さんが居るのね」

 小夜はルッツに教えられた納屋を見上げる。広さは12畳ほど、大きさも色も微妙に異なる木をおざなりに打ち付けた三角屋根の建物。
 門口は力の入れ方を見誤れば小夜の拳が扉を突き破ってしまいそうな程に薄く、所々が腐食していた。

 緩く拳を握って扉を3回ノックする。

「お婆さん、居るんでしょ⋯⋯? 入るわよ」

 暫く待っても返事が無かったので、一言声を掛けてから横開きの扉を開く。ガタガタと悲鳴を上げる扉は相当に建て付けが悪かった。

 小夜は恐る恐る薄暗い室内に足を踏み入れる。
 壁には農具が立て掛けられ、床には干し草が敷き詰められていた。そこに、老婆は小さな身体を更に縮こませて座っている。

「ねぇ、ちょっと⋯⋯」

 小夜は身をかがめて声を掛ける。
 目深く被ったローブから僅かに見える顔は青白く、まるで生気が無い。皺々な顔には所々にシミが点在しており、小さな顔にはそぐわない大きな鉤鼻という小夜が想像する魔女像そのものであった。


「お前さんは——」

 小夜の顔を見るなり老婆はハッとした表情になる。

「お婆さん、私の事を知ってるの?」

 小夜は期待を込めた瞳でジッと老婆を見つめた。しかし、老婆はううんと唸り声を上げ
たかと思えばすっかり黙り込んでしまう。

「⋯⋯」
「⋯⋯」

 しばらくの間、納屋の中に静寂が流れる。


「はて⋯⋯? 誰じゃったかのう⋯⋯」
「!!」

 漸く口を開いたと思えば期待外れの返答に、小夜はガックリと肩を落とす。そして、思わず突っ込まずにはいられなかった。

「貴女が呼んだ聖女なんですけどっ!?」













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