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異世界転移編
小夜、召喚。①
しおりを挟む東京の医科大学に特待生として通うごくごく普通の大学生、黒宮小夜はある日突然、異世界へと召喚された——。
それも、Tシャツにジーンズ、スニーカーという軽装で。
冒頭ではごく普通と言ったものの、黒宮家は一般家庭に比べると大分貧しかった。家族構成は母、小夜、そして食べ盛りの弟が3人でそれなりの大所帯だ。
母の花枝は看護師をしており、子ども達に苦労をさせまいと休む間も無く働きに出ている。
そんな母親の姿を見て長子である小夜は少しでも家計を助けようと最近アルバイトを始めた。授業終わり、週に3日3時間程を全国的にチェーン展開されているコンビニエンスストアでの就労に費やしている。
未だ陽の高いうちに本日分の授業を全て終えた小夜は、いつものように大学から歩いて10分程の職場へと向かう。
しかし、その日はいつもとは違うところがあった——。
人も疎らな横断歩道、視覚障害者用付加装置から流れるカッコウの囀りを聴き流しながら縞模様の路面標示を見下ろし足早に歩を進める。提出期限が来週に迫るレポートの構成を考えながら歩いていると、不意に視界がぐにゃりと歪んだ。
(⋯⋯勉強のし過ぎ? 疲れが溜まっているのかも)
そう思った小夜は、揺らぐ視界と傾く頭を支える為に頬に手を当てる。
しかし、小夜の願いとは裏腹に一向に症状は改善しない。それどころか益々酷くなる有り様だ。
極め付けにはキーンと耳鳴りもする始末で、若さと元気だけが取り柄の自分の身体にもとうとうガタがきたかと自嘲の笑みを洩らす。
「っ⋯⋯うぅ⋯⋯⋯⋯」
足元が揺れ、天地の境界が曖昧になる。自分が立っているのか、はたまた座っているのかすらも怪しくなってきた。
(倒れるにしても流石に道路のど真ん中は不味い⋯⋯っ!!)
アルバイト先はもう目と鼻の先だというのに如何したものか。困り果てた小夜は込み上げる吐き気にギュッと目を瞑る。
瞬間、ふわふわと身体が浮いているような感覚に襲われた。
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