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第1章

たゆまぬ努力②

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「ネットで調べるのも良いけど⋯⋯センセーの胃袋を確実に掴む為に、先ずは和食の基礎からマスターしないとだよね」

 うららは書店で悩みに悩んで選んだ本————『初心者の和食と栄養学』というタイトルが書かれた本の表紙を捲る。

「ふ~ん⋯⋯和食の基本は一汁三菜ね。なんか家庭科の授業で聞いたことあるかも」

 うららは朧げな授業の記憶を辿りながら1ページずつじっくりと読み込んでいく。

「!!」

 その中のとあるページが目に留まり手を止める。鮮やかな黄色が一段と目を惹く出汁巻き卵のページだ。

 出汁巻き卵のページの文字を一言一句取り零すまいと集中していると、うららのスマートフォンにピロンと一件の通知を知らせる軽快な電子音が鳴る。


「もうっ! この忙しい時に誰!?」

 若干の苛立ちを覚えながらも、スマートフォンを手に取りLIMEアプリを立ち上げる。
 そこには、ここのところすっかり忘れ去っていた人物からのメッセージが届いていた。


斉藤(パパ2、小太り自営業):ハルカちゃん、久しぶり!いきなりで悪いけど、今夜会えないかな??

 既読がついた事を確認した斉藤は続けざまにメッセージを送ってきた。手の中でスマートフォンがブルブルと震える。

斉藤(パパ2、小太り自営業):ハルカちゃんが前に行きたいって言ってたディナー連れてくよ!
斉藤(パパ2、小太り自営業):おーい^_^; もしかして、忙しいのかな?


「斉藤さんかぁ⋯⋯。結構昔からお世話になってるパパだけど⋯⋯⋯⋯」

 そう言いながらうららは何かを思案するように目を伏せる。
 うららの全身からは先ほどまでの熱がスゥッと引いていくのを感じていた。


「⋯⋯⋯⋯うんっ! あたしには至センセーが居るし、パパ活なんてもう辞め辞めっ!! 無視しよ! ⋯⋯てか、追いLIMEとかマジきもいな⋯⋯⋯⋯」

 これ以上邪魔が入らないようにと、うららはスマートフォンの電源を落としソファに放り投げる。
 先ほどと比べて幾分か落ち込んだ気分を振り落とすように、ふるふると頭を振ってパチンと軽く両頰を叩いた。


「さて、と⋯⋯気を取り直して、和食といえばやっぱり出汁巻き卵かなあ⋯⋯? “卵焼きを食べればその店の良し悪しが分かる”って言うし、あたしの実力を示すにはピッタリかも! それに、卵焼きを嫌いな人は日本にいないでしょっ」

 そうと決まれば、うららの行動は早かった。
 サイドで結んでいた青のリボンをいったん解き、頭の天辺で全ての髪を一つに纏める。そして、水玉のエプロンをつけレシピ本を片手に意気揚々とキッチンに入った。








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