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第1章
恋の心得其の一、ターゲットの胃袋を掴むべし!①
しおりを挟むうららは昼休みを告げるチャイムが鳴るなり、勢い良く廊下に飛び出す。そして、3階にある国語準備室目掛けて一直線に走り出した。
途中、何故かうららを目の敵にしている数学の斉藤先生に注意を受けるが、そんな事はお構いなしに階段を駆け上がる。
50分間という短い昼休み、一分一秒たりとも無駄にする訳にはいかないのだ。
国語準備室の前でブレザーのポケットからコンパクトミラーを取り出し、乱れたピンクの前髪を念入りに直してから扉をノックする。
「至センセー! 今日も来ちゃった♡」
「⋯⋯どうぞ」
昨日よりも幾分か早く部屋の中から至の声が返ってくる。
「失礼しまーす!」
「今日も君が来るんじゃないかと思っていました」
「それなら話は早いねっ! お昼一緒に食べよっ」
「⋯⋯⋯⋯目的が変わっているように思えるのですが⋯⋯常春さんは僕に勉強を教わりたいのでしょう?」
「あっ⋯⋯あーーーー! そうだった!! べんきょう、勉強ねっ! 勉強のついでのご飯だから! 勘違いしないでよねっ!?」
ついつい本音が漏れてしまったうららは慌てて取り繕う。取り乱すあまり、ツンデレのテンプレートのような台詞を口走ってしまった。
「それなら良いでしょう。⋯⋯それでは、早く食べてしまいましょうか」
「⋯⋯うんっ!!」
(昨日は今回だけって言ってたのに、今日も一緒に食べてくれるんだ⋯⋯やっぱり至センセーって優しい!)
うららは長椅子に腰掛け、今日も変わらずビニール袋からおにぎりを2個(梅と鮭)と豆腐とわかめのインスタント味噌汁、500mlのペットボトル緑茶を取り出す至を見つめる。
「どうしたんです? 食べないのですか?」
うららの視線に気が付いた至は手を止めて顔を上げた。
「あ、あのね、センセー。コレ⋯⋯作って来ちゃった」
うららはそう言って巾着に入った弁当箱を掲げて見せる。
(受け取ってくれるかな⋯⋯。ううん、何としても受け取らせる!!)
うららは心の内の不安を悟られないようにニッと笑ってみせた。
「ぶ、分量を見誤ってね、作り過ぎちゃったの。⋯⋯でね、仕方なくあたしの幼なじみ⋯⋯呉羽にあげようと思ったんだけど、要らないって言われちゃってこのままじゃ捨てなきゃいけなくて⋯⋯だからね、勿体ないしセンセーが貰ってくれない?」
困ったような顔をする至に、うららの心臓はバクンバクンと早鐘を打つ。激しい心臓の鼓動に比例して、否定の言葉を聴きたくないうららはどんどん早口になっていく。
「で、でもねでもねっ⋯⋯ご飯は入ってないから! おかずだけだから、センセーでも食べれると思う⋯⋯!」
「⋯⋯⋯⋯昨日、分かったと言ってくれたじゃないですか」
至は小さくため息を吐いて言った。
「分かったけど、やらないとは言ってない」
うららは真顔でそう言い放つ。そんな今のうららには何を言っても引かないと悟ったのだろう、至はやれやれと首を振った。
「⋯⋯仕方ないですね。今回だけありがたくいただきます」
「やった!!」
(センセーを困らせてるのは分かってる⋯⋯でも⋯⋯それでも、あたしにだって譲れないものがあるっ!!)
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