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第1章
古典の王子様との再会①
しおりを挟む都内では珍しく、学校の敷地を雄大な自然に囲まれた私立四季ヶ丘高校。
普通科と特進科の2学科制で、勉学以外にも運動部や文化部の部活動が盛んで全国大会常連校でもある。学内は主に生徒会が取り仕切っており、年間行事も全て生徒主導で行っている。
そして、校則は社会一般の常識さえ守っていれば問題ないというくらい緩めで生徒の自主性を重んじる自由な校風だ。成績さえ良ければたとえ制服を着崩してもメイクをしていても大抵の事はお咎め無しという、オシャレを楽しみたい盛りの女子高校生にとっては願ってもない環境であった。
四季ヶ丘高校の制服は可愛いと評判で、うららはそれを目当てに必死に勉強してこの高校に入学した。
濃紺のブレザーにブルーのタータンチェックのスカート、同色同柄のネクタイまたはリボン。この制服は何処ぞの有名なデザイナーが監修したものらしく、女子に人気な事にも頷ける。
うららは1サイズ大きな淡いピンクのカーディガンを羽織り、膝上15㎝の太ももが露わになるまでに折ったスカートを揺らして意気揚々と桜並木の通学路を歩く。
木々を揺さぶり頰を撫でるそよ風が気持ちの良い日であった。
(昨日はご飯ばかりか連絡先の交換まで断られちゃったけど、これから距離を縮めて聞き出せば問題ナシ! 寧ろ、恋に障害が有れば有るほど燃えるってモンよ⋯⋯! 今日からは学校でガンガンアピールして行くっきゃないっ!)
グッと拳を握り締め闘志みなぎるうららは、普段は夜更かしと低血圧が祟り昼過ぎの登校(そのお陰で単位はいつもギリギリだ)であったが、久しぶりに早起きして一限目の授業に余裕で間に合う時間に登校する事が出来た。
辺りを見れば友達や恋人とともにお喋りしながら学校に向かう生徒たち。こんなにも賑わっている通学路は久しぶりだ。
(これが、恋のパワー⋯⋯⋯⋯)
しみじみと感じ入りながら下駄箱で靴を履き替え、一階にあるうららの教室————3年A組の扉を開ける。
「おはよ~うらら! 今日早いじゃん」
「おはよ、ももちぃ」
うららの姿を見るなり、真っ先に声をかけて来たのは親友の海堂百香だ。
彼女とは一年生の時に仲良くなり、昨年だけで無く今年も同じクラスになったある意味運命の女性だ。明るい性格の小柄で可愛らしい見た目の彼女はクラスでも一二を争う人気者である。
(⋯⋯といっても仲の良い友達は最低でも二割り増しで可愛く見えるんだけどね。でもそれを抜きにしても、ももちぃはあたしには持ってないものをたくさん持ってる尊敬できる友達だ)
「なんかあった?」
たまに朝から来たとしても、すぐさま机に突っ伏すうららが起きているところを見た百香はボブカットの栗色の髪を揺らして不思議そうにうららの顔を覗き込む。
普段から気を許した相手には極端なほどにパーソナルスペースが狭い百香。余りにも近付きすぎてバシバシにマツエクした睫毛が顔に刺さりそうだった。
しかし、誰かに話したくて堪らなかったうららは待ってましたとばかりにニンマリと口角を上げる。
「うふっ♡実はね⋯⋯⋯⋯聴いて驚け、ももちぃ! なんと、あたしは恋をしたのだっ!!」
「え⋯⋯!? マ!? ちょ、授業なんて出てる場合じゃないじゃんっ!!」
そう言ったかと思えば2人分のスクールバッグを掴み取り、小さな身体で力いっぱいにうららの背中を押して教室を出ようとする百香。
女子高校生の主食は甘いお菓子に噂話、そして何より恋バナだ。この食い付きっぷりも納得である。
いつもならば嬉々として百香の提案に乗るところであったが、今日のうららは昨日までとは違った。
「⋯⋯いや。あたしは出るよ、授業」
うららはそう言って、態とらしいほどに真面目な顔を作って立ち止まる。
すると、途端に見る見る驚愕の色に染まる百香の表情。
「は!? なんでよ! ホントどした、うらら!! てか、あんたホントにうららか⋯⋯!?」
散々な言いようである。
うららはゴホンと一つ咳払いをしてから神妙な顔つきになり、口を開いた。
「あたし、真っ当な人間になるって決めたんだ。何故なら————」
「はいはーい、詳しい事は後で聴くから~。取り敢えず移動するよ」
「ちょっと、ももちぃ! 最後まで言わせてよっ!!」
その間にも、一体この小さな身体の何処からそんな力が出るのかというくらいのものすごい勢いでうららを教室の外へ出そうとする百香。
余りにも強引すぎる行動に、コイツはただ単に授業を受けたくないだけではないかとうららは悟った。
うららは百香に気を取られるばかりに前方への注意が疎かになっていた。そして「ぶっ!?」と情けない声を出して硬い何かにぶつかってしまう。
「授業が始まりますが、何処に行くんですか? 常春さん、海堂さん」
「⋯⋯⋯⋯っ!!」
うららが激突したのは意中の男性————冬木至だった。
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