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アスモデウス編
作戦開始
しおりを挟む「アスモデウス、昨日は部屋に戻ってこなかったけれど、何をしていたの?」
「それはもちろん、もっとご主人さまのお役に立つために、セオとノアの監視をしてたんだよっ」
「嘘つけ。どうせコイツのことだ、好みの人間を漁りに行っていたのだろう」
「あ、あさっ⋯⋯漁りに⋯⋯!?」
想像もしなかったサタンの言葉に、マリアンヌは唖然とする。しかし、彼の言ったことは図星だったようで、アスモデウスはぷうっと頬を膨らませてサタンに抗議をしていた。
「もうっ! サタンさま、なんで言っちゃうのーっ!」
「本当なのね⋯⋯⋯⋯アスモデウス⋯⋯お願いだから、問題は起こさないで頂戴ね⋯⋯」
「それはもちろんだよご主人さまっ! ちゃーんとうまくやってるからっ」
「ふん⋯⋯バカめ」
サタンを見ると、アスモデウスの反応に薄ら笑いを浮かべていた。
(サタン様って本当、人をおちょくるのが大好きね⋯⋯⋯⋯困った王様だわ⋯⋯)
✳︎✳︎✳︎
オリヴァーを家庭教師の元まで送り届けたら、本格的に作戦開始である。
「じゃあ、恋愛初心者のご主人さまにはまず、セオから攻略してもらおうかなっ」
「そ、そうね⋯⋯いかにも遊び慣れているノアよりは、セオの方が難易度が低そうだわ⋯⋯」
「セオはきっと今日も書庫に入り浸っているだろうから、今からそこに向かうけれど、その前におさらいだよっ。まず、彼の意見には共感すること! 絶対に否定しちゃダメだからねっ! 従順な女性を演じることで、彼との距離が縮まるはずっ」
「分かったわ⋯⋯! とりあえずやってみるわね」
「僕もご主人さまのそばでサポートするから安心してっ!」
「ありがとう⋯⋯心強いわ!」
✳︎✳︎✳︎
「やっぱりココにいたねっ!」
アスモデウスの言葉に、本棚の陰から様子を伺っていたマリアンヌはコクリと頷く。
「じゃあ、ご主人さまっ! 早速ターゲットに接触しよ!」
マリアンヌは短く息を吐き、呼吸を整えてから一歩踏み出した。
「あら、セオ。またここで会うなんて奇遇ね」
マリアンヌの声に、それまで窓際に置いてある椅子に腰掛けて本を読んでいたセオが顔を上げる。
「ああ、義姉さん⋯⋯」
「何を読んでいるの? 私もお隣、いいかしら?」
マリアンヌはセオの隣を指して聞いた。彼はブラウンの瞳をうろうろと彷徨わせた後、小さな声で「どうぞ」と了承する。
マリアンヌはお礼を言った後、少し間を空けてセオの隣に腰を下ろした。
マリアンヌが座ったことを確認したセオは先ほどの質問に答えるために口を開く。
「今日はシェイクスピアの戯曲、マクベスを読み返してたんだ」
「確か、四大悲劇と呼ばれる作品の一つよね?」
「ああ。魔女の予言によって翻弄されたマクベスが、王を暗殺し、最後には自らが殺されてしまう物語だ」
またもや饒舌に話し始めるセオを、マリアンヌは笑顔を作って静かに聴く。
話も一区切りというところで、そばに控えるアスモデウスから「ご主人さまも読んでみたいって興味を示して」というアドバイスを貰う。
「面白そうな話ね。私も読んでみたいわ!」
「⋯⋯義姉さんは悲劇は苦手なんじゃ⋯⋯?」
「そうだったんだけど、楽しそうに話す貴方の顔を見ていたら興味が湧いてきたの。セオが読み終わってからで良いから貸してもらえないかしら?」
するとセオは、それまで読んでいたマクベスの本をパタンと閉じて、マリアンヌに差し出す。
彼の頬はうっすらと赤く染まっていた。
「俺ならそらんじれるくらい何度も読んでいるから義姉さんに貸すよ」
「⋯⋯いいの?」
「ああ。自分の好きなものに興味をもってもらえて嬉しかったから、ぜひ義姉さんに読んでほしいんだ」
「ありがとう⋯⋯! セオ!」
マリアンヌは笑顔で差し出された本を受け取り、胸元で大切そうに抱える。
マリアンヌの笑顔を見たセオは少し言いづらそうに口を開いた。
「⋯⋯⋯⋯出来れば、その本を読んだ感想を教えてほしい⋯⋯」
「もちろんよ! セオは毎日ここにいるの?」
「一日の大半はここで過ごしているな」
「そうなのね! じゃあ読み終わったらまたここに来るわね」
「⋯⋯ああ。楽しみにしてる」
そう言ってセオはふわりと微笑んだ。
それまで表情の起伏が少なかったセオの変化にマリアンヌは驚愕する。
無事に本日のノルマをクリアしたマリアンヌは書庫に残るというセオに別れを告げて、その場を後にした。
書庫を出るなり、嬉しそうなアスモデウスがマリアンヌに声をかける。
「ご主人さま、好感触だったね!」
「ありがとう、アスモデウスのおかげよ」
マリアンヌは好調な出だしに心を躍らせ、軽い足取りで自室への帰り道を歩いていくのだった。
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