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石神家 Ⅱ
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「ごめんね、僕なんかが相手で」
「いいえ!」
皇紀さんの部屋は、石神姉妹よりも狭い。
そして、一層の「物」があった。
また分からない機械類があり、工学や電子回路の専門書、軍事関連の書籍も多い。
「物が多くてごめんね」
「いいえ! お邪魔します」
あまり見回しては失礼だろうと思い、皇紀さんに話し掛けた。
「皇紀さんは、大学生ですか?」
「いや、僕は違うよ。僕は中卒なんだ」
「え!」
「高校も行って無いんだよ。中学を卒業してから、ずっと「虎」の軍のために働いているんだ」
「そうなんですか!」
驚いたが、皇紀さんには年齢にそぐわないほどの落ち着きがあった。
学校などに通う必要のない人なのだろう。
「じゃあ、普段はここで?」
「うーん、結構あちこちへ出掛けているかなぁ。仕事でね」
「へぇ、スゴイですね!」
「そんなことは。タカさんが今、世界中で拠点を作ろうとしているからね。その防衛システムを僕が作っているんだ」
「そうなんですか! あ! 先日「無差別憑依」を感知するレーダーが出来たって聞きましたけど、あれってもしかして皇紀さんが?」
「うん、基本的な部分はね。妖魔を感知する方法は前に確立していたから。それを応用したものなんだよ」
「スゴイですね!」
「そんなことはないよ」
少し照れたように笑っていた。
優しい人なのがよく分かった。
「ルーやハーがね、よく磯良くんの話をするようになったんだ」
「そうなんですか」
「あの二人はあまり外に友達を作らないんだ。まあ、自分たちに巻き込みたくないっていう理由だけどね。だから君のような人が出来て僕も嬉しいんだ」
「そんな。俺の方こそあのお二人には助けられてます」
「あいつらは強いからなぁ」
「そうですね」
「僕も散々やられたんだ。ああ、肉体的にもそうだけど、精神的にもねぇ」
「はぁ」
「でも、本当に優しい二人だから。これからもよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ」
皇紀さんが深々と頭を下げた。
妹たちのことが大事なのだろう。
俺は困って話題を変えた。
「さっき二人の部屋を見て、皇紀さんのお部屋も見て思ったんですが」
「ああ、いろいろ物が多いよね?」
「はい、でもそのことじゃなくて」
「ん?」
「いえ、家具がとても綺麗になってるなって。雑然と、あ、すいません。いろんなものがあるんですが、家具類はみんなピカピカで大事にされていると感じました」
「ああ!」
皇紀さんが笑顔になった。
「これらは全部タカさんが用意してくれたものだからね。そうだなぁ、もう7年にもなるかな。僕たちがタカさんに引き取られたって話は知っているかな?」
「はい」
「その時に全部タカさんが用意してくれたんだ。いい物だよ。こんな広い家に住まわせてもらって、毎日美味しい物を作ってくれて。それだけじゃない。僕たちのためにいろいろなことを教えてくれて、大事にしてくれて」
「そうなんですね」
「僕たちはみんな、忘れたことはないよ。今でもずっとタカさんに感謝している。だからタカさんのためにみんなが頑張ってるんだ」
「はい、よく分かります」
皇紀さんが写真を見せてくれた。
「僕が機械に興味を持った切っ掛けがね、この「ラムジェットエンジン」なんだ」
「へぇー!」
写真は無残に燃えて千切れた残骸のものだった。
「ああ、その前に作ったロケットかな。でも、思い入れはこれが一番ある。このエンジンを作ろうとして機械工作に習熟するようになったし、専門書の読み方も覚えた」
「スゴイですね!」
皇紀さんが笑った。
「失敗も多かったんだ。でもね、タカさんは全部捨てないで取っておくんだよ」
「そうなんですか」
「うん。あのさ、僕たちの元の家の家具とかも、全部今でも捨てないで取っておいてあるんだよ。タカさんが僕たちの思い出の物だから捨てるなってね」
「へぇ」
石神さんの優しさがよく分かる話だった。
「たまにさ、僕たちも見るんだ。本当なんだよ! 懐かしくてさ! タカさんはやっぱり最高だ」
「アハハハハ」
「前にね。タカさんが僕のために東京ドームの特別席を作ってくれたんだ」
「あ! もしかしてあの「KOKI Sheets」ですか!」
「そうそう、よく知ってるね」
「いえ! 有名じゃないですか! 謎の最高特別席って!」
「アハハハハ。そうなんだよ。でもね、そっちじゃないんだ、僕が本当に嬉しかったことは」
「え?」
皇紀さんが大事な思い出を話してくれた。
「僕がね、時々お父さんとキャッチボールをしていたことをタカさんが思い出してね。当時はうちはあんまりお金が無くて、お隣の人にグローブとか借りてたんだよ」
「はい」
「タカさんが、その人の家に行ってね。どうか僕たちが使っていたグローブとボールを譲ってもらえないかって頼んでくれて」
「はい!」
「まだあったんだ。事情を話して、僕の大事な父親との思い出の品だからって。お隣の人も快く譲ってくれてね」
「そうだったんですか!」
「嬉しかったなぁ。ああ、ボールは分からなかったんだ。だからタカさんが全部譲って欲しいって。僕もどれだったか分からないし、使っていたボールじゃないのかもしれない。でもさ、どれも大事なものなんだ」
「分かりますよ。石神さんが貰って来てくれたものですもんね」
「そうなんだよ!」
皇紀さんが嬉しそうに笑った。
「それもさ。僕がある時ちょっと思い出して、ちょっと暗くなってたのかな。それをタカさんが感じて思い出してくれたんだ」
「へぇ」
「僕はタカさんのためなら何でもしたいんだ」
「はい」
「お姉ちゃんも妹たちもね。あと、今は柳さんもいるけど、あの人も。他にもね、大勢いるよ。タカさんのためにって言う人は」
「はい、そうでしょうね」
皇紀さんからまたいろいろな石神さんや兄弟たちの話を聞いた。
大爆笑の話が幾つもあった。
俺もすっかり皇紀さんを大好きになった。
「あれ、皇紀さん、その指輪って?」
「ああ、これ。僕、結婚したんだ」
「エェー!」
驚いた。
まだ皇紀さんは十代のはずだった。
「ちょっと恥ずかしいな。あのね、前からお付き合いしていた女性とね。十八歳になったから、タカさんが結婚しろって。それでね」
「そうなんですか! いや、驚きました」
「うん、そうだろうね。僕も未だに信じられないよ。タカさんが信じられないほど大きな結婚式をしてくれてさ」
「はぁ」
「各国大統領とか来たんだよ! ローマ法王まで!」
「エェェェェェェーーーー!」
「もう、結婚式だか国連総会だか分かんないよ!」
俺は一瞬吞まれたが、大笑いした。
「石神さんですね!」
「そうなんだよ! やり過ぎなんだよ! 僕、中卒だよ?」
「アハハハハハ!」
「どこにも勤めてない、ニートなんだよ?」
「それは違うと思いますが。でも、相手の方は?」
「風花さんだって、普通の人だよ! ああ、同じ中卒だけどね。肉屋さんで働いてる、ごく普通の人なんだ。二人でびっくりしちゃって、本当に気を喪いそうだったよ!」
「アハハハハハ!」
俺は一層笑った。
「国家元首とローマ法王とヤクザの親分さんたちと全米最大マフィアと。その他にも警視総監だとかハリウッドスターとか。無茶苦茶だよ!」
「俺も見たかったですよ」
「見せてあげたいけど、僕はしばらく見れないよ。あのショックを思い出しちゃうからね」
「分かりました、いつかまた」
「うん。ああ、撮影は有名な監督さんが仕切ってくれたから、見ごたえがあるのは保証するよ」
「そうですか。楽しみです」
石神家は本当にぶっとんでいる。
「でも、全部で81時間あるからね」
俺はまた爆笑した。
「あの、奥様は一緒に住んでいらっしゃらないんですか?」
「うん。今も大阪にいるんだ。ちゃんと肉屋さんで働いてるよ」
「そうなんですか!」
「風花さんはそこの社長さんにお世話になったって。だから一生恩を返したいんだ」
「素敵な人ですね!」
「うん!」
皇紀さんが最高の笑顔をした。
俺も嬉しくなった。
ルーが夕飯の支度が出来たと呼びに来た。
皇紀さんと部屋を出る。
「ああ、磯良くん。うちの食事については知っているかな?」
「はい?」
「ああ、知らないか。あのね、ちょっとしたバトルになるから気を付けてね」
「はい?」
「今日は禁断のすき焼き鍋らしいからね。一層だよ」
「はぁ、分かりました」
全然分かって無かった。
俺は石神家の底知れぬものを肌で感じることになった。
「いいえ!」
皇紀さんの部屋は、石神姉妹よりも狭い。
そして、一層の「物」があった。
また分からない機械類があり、工学や電子回路の専門書、軍事関連の書籍も多い。
「物が多くてごめんね」
「いいえ! お邪魔します」
あまり見回しては失礼だろうと思い、皇紀さんに話し掛けた。
「皇紀さんは、大学生ですか?」
「いや、僕は違うよ。僕は中卒なんだ」
「え!」
「高校も行って無いんだよ。中学を卒業してから、ずっと「虎」の軍のために働いているんだ」
「そうなんですか!」
驚いたが、皇紀さんには年齢にそぐわないほどの落ち着きがあった。
学校などに通う必要のない人なのだろう。
「じゃあ、普段はここで?」
「うーん、結構あちこちへ出掛けているかなぁ。仕事でね」
「へぇ、スゴイですね!」
「そんなことは。タカさんが今、世界中で拠点を作ろうとしているからね。その防衛システムを僕が作っているんだ」
「そうなんですか! あ! 先日「無差別憑依」を感知するレーダーが出来たって聞きましたけど、あれってもしかして皇紀さんが?」
「うん、基本的な部分はね。妖魔を感知する方法は前に確立していたから。それを応用したものなんだよ」
「スゴイですね!」
「そんなことはないよ」
少し照れたように笑っていた。
優しい人なのがよく分かった。
「ルーやハーがね、よく磯良くんの話をするようになったんだ」
「そうなんですか」
「あの二人はあまり外に友達を作らないんだ。まあ、自分たちに巻き込みたくないっていう理由だけどね。だから君のような人が出来て僕も嬉しいんだ」
「そんな。俺の方こそあのお二人には助けられてます」
「あいつらは強いからなぁ」
「そうですね」
「僕も散々やられたんだ。ああ、肉体的にもそうだけど、精神的にもねぇ」
「はぁ」
「でも、本当に優しい二人だから。これからもよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ」
皇紀さんが深々と頭を下げた。
妹たちのことが大事なのだろう。
俺は困って話題を変えた。
「さっき二人の部屋を見て、皇紀さんのお部屋も見て思ったんですが」
「ああ、いろいろ物が多いよね?」
「はい、でもそのことじゃなくて」
「ん?」
「いえ、家具がとても綺麗になってるなって。雑然と、あ、すいません。いろんなものがあるんですが、家具類はみんなピカピカで大事にされていると感じました」
「ああ!」
皇紀さんが笑顔になった。
「これらは全部タカさんが用意してくれたものだからね。そうだなぁ、もう7年にもなるかな。僕たちがタカさんに引き取られたって話は知っているかな?」
「はい」
「その時に全部タカさんが用意してくれたんだ。いい物だよ。こんな広い家に住まわせてもらって、毎日美味しい物を作ってくれて。それだけじゃない。僕たちのためにいろいろなことを教えてくれて、大事にしてくれて」
「そうなんですね」
「僕たちはみんな、忘れたことはないよ。今でもずっとタカさんに感謝している。だからタカさんのためにみんなが頑張ってるんだ」
「はい、よく分かります」
皇紀さんが写真を見せてくれた。
「僕が機械に興味を持った切っ掛けがね、この「ラムジェットエンジン」なんだ」
「へぇー!」
写真は無残に燃えて千切れた残骸のものだった。
「ああ、その前に作ったロケットかな。でも、思い入れはこれが一番ある。このエンジンを作ろうとして機械工作に習熟するようになったし、専門書の読み方も覚えた」
「スゴイですね!」
皇紀さんが笑った。
「失敗も多かったんだ。でもね、タカさんは全部捨てないで取っておくんだよ」
「そうなんですか」
「うん。あのさ、僕たちの元の家の家具とかも、全部今でも捨てないで取っておいてあるんだよ。タカさんが僕たちの思い出の物だから捨てるなってね」
「へぇ」
石神さんの優しさがよく分かる話だった。
「たまにさ、僕たちも見るんだ。本当なんだよ! 懐かしくてさ! タカさんはやっぱり最高だ」
「アハハハハ」
「前にね。タカさんが僕のために東京ドームの特別席を作ってくれたんだ」
「あ! もしかしてあの「KOKI Sheets」ですか!」
「そうそう、よく知ってるね」
「いえ! 有名じゃないですか! 謎の最高特別席って!」
「アハハハハ。そうなんだよ。でもね、そっちじゃないんだ、僕が本当に嬉しかったことは」
「え?」
皇紀さんが大事な思い出を話してくれた。
「僕がね、時々お父さんとキャッチボールをしていたことをタカさんが思い出してね。当時はうちはあんまりお金が無くて、お隣の人にグローブとか借りてたんだよ」
「はい」
「タカさんが、その人の家に行ってね。どうか僕たちが使っていたグローブとボールを譲ってもらえないかって頼んでくれて」
「はい!」
「まだあったんだ。事情を話して、僕の大事な父親との思い出の品だからって。お隣の人も快く譲ってくれてね」
「そうだったんですか!」
「嬉しかったなぁ。ああ、ボールは分からなかったんだ。だからタカさんが全部譲って欲しいって。僕もどれだったか分からないし、使っていたボールじゃないのかもしれない。でもさ、どれも大事なものなんだ」
「分かりますよ。石神さんが貰って来てくれたものですもんね」
「そうなんだよ!」
皇紀さんが嬉しそうに笑った。
「それもさ。僕がある時ちょっと思い出して、ちょっと暗くなってたのかな。それをタカさんが感じて思い出してくれたんだ」
「へぇ」
「僕はタカさんのためなら何でもしたいんだ」
「はい」
「お姉ちゃんも妹たちもね。あと、今は柳さんもいるけど、あの人も。他にもね、大勢いるよ。タカさんのためにって言う人は」
「はい、そうでしょうね」
皇紀さんからまたいろいろな石神さんや兄弟たちの話を聞いた。
大爆笑の話が幾つもあった。
俺もすっかり皇紀さんを大好きになった。
「あれ、皇紀さん、その指輪って?」
「ああ、これ。僕、結婚したんだ」
「エェー!」
驚いた。
まだ皇紀さんは十代のはずだった。
「ちょっと恥ずかしいな。あのね、前からお付き合いしていた女性とね。十八歳になったから、タカさんが結婚しろって。それでね」
「そうなんですか! いや、驚きました」
「うん、そうだろうね。僕も未だに信じられないよ。タカさんが信じられないほど大きな結婚式をしてくれてさ」
「はぁ」
「各国大統領とか来たんだよ! ローマ法王まで!」
「エェェェェェェーーーー!」
「もう、結婚式だか国連総会だか分かんないよ!」
俺は一瞬吞まれたが、大笑いした。
「石神さんですね!」
「そうなんだよ! やり過ぎなんだよ! 僕、中卒だよ?」
「アハハハハハ!」
「どこにも勤めてない、ニートなんだよ?」
「それは違うと思いますが。でも、相手の方は?」
「風花さんだって、普通の人だよ! ああ、同じ中卒だけどね。肉屋さんで働いてる、ごく普通の人なんだ。二人でびっくりしちゃって、本当に気を喪いそうだったよ!」
「アハハハハハ!」
俺は一層笑った。
「国家元首とローマ法王とヤクザの親分さんたちと全米最大マフィアと。その他にも警視総監だとかハリウッドスターとか。無茶苦茶だよ!」
「俺も見たかったですよ」
「見せてあげたいけど、僕はしばらく見れないよ。あのショックを思い出しちゃうからね」
「分かりました、いつかまた」
「うん。ああ、撮影は有名な監督さんが仕切ってくれたから、見ごたえがあるのは保証するよ」
「そうですか。楽しみです」
石神家は本当にぶっとんでいる。
「でも、全部で81時間あるからね」
俺はまた爆笑した。
「あの、奥様は一緒に住んでいらっしゃらないんですか?」
「うん。今も大阪にいるんだ。ちゃんと肉屋さんで働いてるよ」
「そうなんですか!」
「風花さんはそこの社長さんにお世話になったって。だから一生恩を返したいんだ」
「素敵な人ですね!」
「うん!」
皇紀さんが最高の笑顔をした。
俺も嬉しくなった。
ルーが夕飯の支度が出来たと呼びに来た。
皇紀さんと部屋を出る。
「ああ、磯良くん。うちの食事については知っているかな?」
「はい?」
「ああ、知らないか。あのね、ちょっとしたバトルになるから気を付けてね」
「はい?」
「今日は禁断のすき焼き鍋らしいからね。一層だよ」
「はぁ、分かりました」
全然分かって無かった。
俺は石神家の底知れぬものを肌で感じることになった。
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