アドヴェロスの英雄

青夜

文字の大きさ
上 下
16 / 18

石神家 Ⅱ

しおりを挟む
 「ごめんね、僕なんかが相手で」
 「いいえ!」

 皇紀さんの部屋は、石神姉妹よりも狭い。
 そして、一層の「物」があった。
 また分からない機械類があり、工学や電子回路の専門書、軍事関連の書籍も多い。
 
 「物が多くてごめんね」
 「いいえ! お邪魔します」

 あまり見回しては失礼だろうと思い、皇紀さんに話し掛けた。

 「皇紀さんは、大学生ですか?」
 「いや、僕は違うよ。僕は中卒なんだ」
 「え!」
 「高校も行って無いんだよ。中学を卒業してから、ずっと「虎」の軍のために働いているんだ」
 「そうなんですか!」

 驚いたが、皇紀さんには年齢にそぐわないほどの落ち着きがあった。
 学校などに通う必要のない人なのだろう。

 「じゃあ、普段はここで?」
 「うーん、結構あちこちへ出掛けているかなぁ。仕事でね」
 「へぇ、スゴイですね!」
 「そんなことは。タカさんが今、世界中で拠点を作ろうとしているからね。その防衛システムを僕が作っているんだ」
 「そうなんですか! あ! 先日「無差別憑依」を感知するレーダーが出来たって聞きましたけど、あれってもしかして皇紀さんが?」
 「うん、基本的な部分はね。妖魔を感知する方法は前に確立していたから。それを応用したものなんだよ」
 「スゴイですね!」
 「そんなことはないよ」

 少し照れたように笑っていた。
 優しい人なのがよく分かった。

 「ルーやハーがね、よく磯良くんの話をするようになったんだ」
 「そうなんですか」
 「あの二人はあまり外に友達を作らないんだ。まあ、自分たちに巻き込みたくないっていう理由だけどね。だから君のような人が出来て僕も嬉しいんだ」
 「そんな。俺の方こそあのお二人には助けられてます」
 「あいつらは強いからなぁ」
 「そうですね」
 「僕も散々やられたんだ。ああ、肉体的にもそうだけど、精神的にもねぇ」
 「はぁ」
 「でも、本当に優しい二人だから。これからもよろしくお願いします」
 「いえ、こちらこそ」

 皇紀さんが深々と頭を下げた。
 妹たちのことが大事なのだろう。
 俺は困って話題を変えた。

 「さっき二人の部屋を見て、皇紀さんのお部屋も見て思ったんですが」
 「ああ、いろいろ物が多いよね?」
 「はい、でもそのことじゃなくて」
 「ん?」
 「いえ、家具がとても綺麗になってるなって。雑然と、あ、すいません。いろんなものがあるんですが、家具類はみんなピカピカで大事にされていると感じました」
 「ああ!」

 皇紀さんが笑顔になった。

 「これらは全部タカさんが用意してくれたものだからね。そうだなぁ、もう7年にもなるかな。僕たちがタカさんに引き取られたって話は知っているかな?」
 「はい」
 「その時に全部タカさんが用意してくれたんだ。いい物だよ。こんな広い家に住まわせてもらって、毎日美味しい物を作ってくれて。それだけじゃない。僕たちのためにいろいろなことを教えてくれて、大事にしてくれて」
 「そうなんですね」
 「僕たちはみんな、忘れたことはないよ。今でもずっとタカさんに感謝している。だからタカさんのためにみんなが頑張ってるんだ」
 「はい、よく分かります」
 
 皇紀さんが写真を見せてくれた。

 「僕が機械に興味を持った切っ掛けがね、この「ラムジェットエンジン」なんだ」
 「へぇー!」
 
 写真は無残に燃えて千切れた残骸のものだった。

 「ああ、その前に作ったロケットかな。でも、思い入れはこれが一番ある。このエンジンを作ろうとして機械工作に習熟するようになったし、専門書の読み方も覚えた」
 「スゴイですね!」
 
 皇紀さんが笑った。

 「失敗も多かったんだ。でもね、タカさんは全部捨てないで取っておくんだよ」
 「そうなんですか」
 「うん。あのさ、僕たちの元の家の家具とかも、全部今でも捨てないで取っておいてあるんだよ。タカさんが僕たちの思い出の物だから捨てるなってね」
 「へぇ」
 
 石神さんの優しさがよく分かる話だった。

 「たまにさ、僕たちも見るんだ。本当なんだよ! 懐かしくてさ! タカさんはやっぱり最高だ」
 「アハハハハ」

 「前にね。タカさんが僕のために東京ドームの特別席を作ってくれたんだ」
 「あ! もしかしてあの「KOKI Sheets」ですか!」
 「そうそう、よく知ってるね」
 「いえ! 有名じゃないですか! 謎の最高特別席って!」
 「アハハハハ。そうなんだよ。でもね、そっちじゃないんだ、僕が本当に嬉しかったことは」
 「え?」

 皇紀さんが大事な思い出を話してくれた。

 「僕がね、時々お父さんとキャッチボールをしていたことをタカさんが思い出してね。当時はうちはあんまりお金が無くて、お隣の人にグローブとか借りてたんだよ」
 「はい」
 「タカさんが、その人の家に行ってね。どうか僕たちが使っていたグローブとボールを譲ってもらえないかって頼んでくれて」
 「はい!」
 「まだあったんだ。事情を話して、僕の大事な父親との思い出の品だからって。お隣の人も快く譲ってくれてね」
 「そうだったんですか!」
 「嬉しかったなぁ。ああ、ボールは分からなかったんだ。だからタカさんが全部譲って欲しいって。僕もどれだったか分からないし、使っていたボールじゃないのかもしれない。でもさ、どれも大事なものなんだ」
 「分かりますよ。石神さんが貰って来てくれたものですもんね」
 「そうなんだよ!」

 皇紀さんが嬉しそうに笑った。

 「それもさ。僕がある時ちょっと思い出して、ちょっと暗くなってたのかな。それをタカさんが感じて思い出してくれたんだ」
 「へぇ」
 「僕はタカさんのためなら何でもしたいんだ」
 「はい」
 「お姉ちゃんも妹たちもね。あと、今は柳さんもいるけど、あの人も。他にもね、大勢いるよ。タカさんのためにって言う人は」
 「はい、そうでしょうね」

 皇紀さんからまたいろいろな石神さんや兄弟たちの話を聞いた。
 大爆笑の話が幾つもあった。
 俺もすっかり皇紀さんを大好きになった。

 「あれ、皇紀さん、その指輪って?」
 「ああ、これ。僕、結婚したんだ」
 「エェー!」

 驚いた。
 まだ皇紀さんは十代のはずだった。

 「ちょっと恥ずかしいな。あのね、前からお付き合いしていた女性とね。十八歳になったから、タカさんが結婚しろって。それでね」
 「そうなんですか! いや、驚きました」
 「うん、そうだろうね。僕も未だに信じられないよ。タカさんが信じられないほど大きな結婚式をしてくれてさ」
 「はぁ」
 「各国大統領とか来たんだよ! ローマ法王まで!」
 「エェェェェェェーーーー!」

 「もう、結婚式だか国連総会だか分かんないよ!」
 
 俺は一瞬吞まれたが、大笑いした。

 「石神さんですね!」
 「そうなんだよ! やり過ぎなんだよ! 僕、中卒だよ?」
 「アハハハハハ!」
 「どこにも勤めてない、ニートなんだよ?」
 「それは違うと思いますが。でも、相手の方は?」
 「風花さんだって、普通の人だよ! ああ、同じ中卒だけどね。肉屋さんで働いてる、ごく普通の人なんだ。二人でびっくりしちゃって、本当に気を喪いそうだったよ!」
 「アハハハハハ!」

 俺は一層笑った。

 「国家元首とローマ法王とヤクザの親分さんたちと全米最大マフィアと。その他にも警視総監だとかハリウッドスターとか。無茶苦茶だよ!」
 「俺も見たかったですよ」
 「見せてあげたいけど、僕はしばらく見れないよ。あのショックを思い出しちゃうからね」
 「分かりました、いつかまた」
 「うん。ああ、撮影は有名な監督さんが仕切ってくれたから、見ごたえがあるのは保証するよ」
 「そうですか。楽しみです」

 石神家は本当にぶっとんでいる。

 「でも、全部で81時間あるからね」

 俺はまた爆笑した。

 「あの、奥様は一緒に住んでいらっしゃらないんですか?」
 「うん。今も大阪にいるんだ。ちゃんと肉屋さんで働いてるよ」
 「そうなんですか!」
 「風花さんはそこの社長さんにお世話になったって。だから一生恩を返したいんだ」
 「素敵な人ですね!」
 「うん!」

 皇紀さんが最高の笑顔をした。
 俺も嬉しくなった。




 ルーが夕飯の支度が出来たと呼びに来た。
 皇紀さんと部屋を出る。

 「ああ、磯良くん。うちの食事については知っているかな?」
 「はい?」
 「ああ、知らないか。あのね、ちょっとしたバトルになるから気を付けてね」
 「はい?」
 「今日は禁断のすき焼き鍋らしいからね。一層だよ」
 「はぁ、分かりました」




 全然分かって無かった。
 俺は石神家の底知れぬものを肌で感じることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

呂色高校対ゾン部!

益巣ハリ
キャラ文芸
この物語の主人公、風綿絹人は平凡な高校生。だが彼の片思いの相手、梔倉天は何もかも異次元なチート美少女だ。ある日2人は高校で、顔を失くした化け物たちに襲われる。逃げる2人の前に国語教師が現れ、告げる。「あいつらは、ゾンビだ」 その日から絹人の日常は一変する。実は中二病すぎる梔倉、多重人格メルヘン少女、ストーカー美少女に謎のおっさんまで、ありとあらゆる奇人変人が絹人の常識をぶち壊していく。 常識外れ、なんでもありの異能力バトル、ここに開幕!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

望月何某の憂鬱(完結)

有住葉月
キャラ文芸
今連載中の夢は職業婦人のスピンオフです。望月が執筆と戦う姿を描く、大正ロマンのお話です。少し、個性派の小説家を遊ばせてみます。

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

天鬼ざくろのフリースタイル

ふみのあや
キャラ文芸
かつてディスで一世を風靡した元ラッパーの独身教師、小鳥遊空。 ヒップホップと決別してしまったその男がディスをこよなく愛するJKラッパー天鬼ざくろと出会った時、止まっていたビートが彼の人生に再び鳴り響き始めた──。 ※カクヨムの方に新キャラと設定を追加して微調整した加筆修正版を掲載しています。 もし宜しければそちらも是非。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

処理中です...