アドヴェロスの英雄

青夜

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横須賀 ブラッドバス Ⅲ

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 俺も自分の感覚で米海軍基地の妖魔反応をキャッチしていた。
 これまでに遭遇したことのない、強大なものだ。

 「磯良! 無理するな! あれは水晶騎士だ!」
 
 早乙女さんからインカムに通信が入った。

 「何ですか、それは!」
 「御堂帝国に侵攻したことがある。強大なタイプだ」
 「分かりました」
 「ルーちゃんとハーちゃんに任せろ!」
 「大丈夫なんですか?」
 「あの二人ならな!」

 俺は取り敢えず受け入れ、目の前の敵に集中した。
 自分がレベル5の妖魔とも渡り合えることは分かっている。

 「不味い! 3体いた! 1体がお前に向かっているぞ!」

 早乙女さんの叫ぶような声が響いた。

 「磯良! 逃げろ!」
 「え?」

 自分に向かってくる妖魔が見えた。
 相当移動速度が速い。

 体長10メートルほど。
 馬上の騎士のような姿だ。
 その馬体と人間が融合しているが。
 そして20メートルもの巨大な馬上槍と、10メートルの巨大な剣。
 槍を構えてこちらへ進んで来た。

 俺は「無影斬」で巨体を斬った。

 「!」

 そのまま大きく横へ跳んだ。
 足元を人馬の妖魔が高速で駆け抜けて行った。
 「無影斬」が通じなかった。

 「磯良! 今行くからな! 何とか凌げ!」
 
 早乙女さんの絶叫がインカムに響く。
 俺はインカムを捨てた。

 集中しなければならない。

 人馬の妖魔が遙か彼方で止まり、またこちらへ向いた。
 高速で迫って来る。
 しかし、地面を蹴る音がそれほど無い。
 
 俺は目を閉じて、大日如来の真言を唱えた。

 《ノウマクサマンダボダナンアビラウンケン……》

 俺の中で光が生まれ、それが急速に巨大化していく。

 《ノウマクサマンダボダナンアビラウンケン!》

 「絶火!」

 炎の帯が人馬の妖魔に向かって行く。
 衝突の瞬間、人馬の妖魔は両断され、切り口が激しく燃え上がった。
 人型の方が転がったままで槍を構える。

 「オロチ・ストライク!」

 上空でルーが拳を放ち、その先から三重の螺旋の光が伸びた。
 人馬が完全に吹っ飛んだ。

 ルーが地上に降り、俺に駆け寄った。

 「大丈夫だった!」
 「はい、助かりました」
 「ううん、よく「水晶騎士」と渡り合ったね!」
 「いえ、夢中でしたよ」
 「あれを撃破するなんてスゴイよ! 磯良! 見直した!」
 「え、じゃあ前は」
 「アハハハハハ!」

 ハーも飛んで来た。

 「見てたよ! 凄い技だったよね!」
 「いえ、そんな」

 二人が肩を組んで来た。

 「じゃあ、何か食べに行こうか!」
 「いえ、まだ残った妖魔が」
 「もう終わりだよ! 全部あの「水晶騎士」に吸い取られたから」
 「まさか3体出るとはなー」
 「ちょっと油断しちゃったね」
 「タカさんには黙っとこー!」
 「うん!」

 「いえ、まだやることが」
 
 俺が慌てて言うと、ハーが左手を伸ばした。
 オーガが吹っ飛ぶ。

 「あれ? まだいたか」
 「うーん」

 ハーが目を閉じた。
 ルーに額を付ける。

 「もうちょっと!」
 「すぐに戻るね!」

 二人が飛んで行った。

 「……」

 早乙女さんたちがやって来た。

 「磯良! 無事だったか!」
 「はい、なんとか。ルーさんに助けられましたよ」
 「済まない! 俺が甘かった。「水晶騎士」が3体も現われるとは」
 「どういうことですか?」

 早乙女さんが説明してくれた。

 「恐らく、今回の侵攻は、あの「水晶騎士」を生み出すためだったんだ」
 「え?」
 「「業」の軍団は、人間の命を捧げることで妖魔を呼び出すことも出来るらしい。作戦の途中で「虎の穴」から連絡が来た。この侵攻が人間を膨大に殺すことで、強力な妖魔を呼び出すことが目的だというな。俺はそれが米海軍基地と市民の犠牲だと考えたんだが」
 「そうじゃないんですか?」
 「それも含めてだった。あいつらは、妖魔自体を犠牲にして、3体もの「水晶騎士」を呼び出したんだ。それが今回の侵攻作戦の目的だった。あの「水晶騎士」は、俺たちでは対処できない。「アドヴェロス」の殲滅が目的だったんだよ」
 「それじゃ」
 「うん。ルーちゃんとハーちゃんを呼んでおいて良かったよ。あの二人がいなければやられていたな」
 
 ルーとハーが戻って来た。

 「終わったよー!」
 「もういないよー!」

 「じゃあ、最終確認をして来ますね」
 「いや、磯良、必要無いよ。この二人が索敵して見逃すはずがない」
 「え、でもさっき」

 ハーに頭をはたかれた。

 「早乙女さーん! なんか食べたいー」
 「いいよ! じゃあ帰ろうか!」
 「「うん!」」

 あのクールな石神姉妹が、まるで子どものようににこやかに早乙女さんの両手を握っていた。

 「何が食べたいかな?」
 「「ステーキ!」」
 「アハハハハハ! いつも通りだね」
 「「うん!」」

 目の前には無残に引き裂かれた人体と内臓と膨大な血が流れている。
 愛鈴さんなどは、もう吐きそうだ。
 
 「ステーキすてき! ステーキステキ! ……」
 
 石神姉妹は嬉しそうに歌って、早乙女さんを引っ張って行った。

 「磯良! 早く!」

 俺も一緒に歩いた。
 死骸の無い場所まで、しばらく歩かなければならなかった。
 
 全員がキング・スタリオンに乗り込み、本部に向かった。
 石神姉妹が俺の両脇に座り、どこのステーキにするか相談していた。

 「焼肉もいいね!」
 「じゃあ、新宿のいつもの!」
 「ステーキもあるもんね!」

 「おい、あそこは高いよ」
 「早乙女さん、お金持ちじゃん!」
 「君らに言われてもなぁ」
 「「ワハハハハハハ!」」

 俺にはよく分からない会話だったが、どうやら俺もステーキを喰わなければならないらしい。
 


 野菜サラダはあるだろうか。
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