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堂前家
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奥の座敷に行くと、重蔵さんが座っていた。
「磯良、元気そうだな」
「はい。重蔵さんも」
「まあな。早乙女さんから御堂総理を紹介してもらったからな。今の日本で御堂家の方々とパイプが出来るのは非常にありがたい」
「重蔵さんが真面目にやっているからですよ」
「いや、磯良のお陰だ。本当に感謝している」
俺が警察の対妖魔特殊部隊「アドヴェロス」に関わるようになったのは、5年前のことだ。
突然堂前家を訪ねて来た早乙女さんが、当時小学生だった俺を「アドヴェロス」に誘った。
「まあ、全部龍子さんの縁ですよ」
「そうだな。あの人には足を向けて寝られない」
俺の両親が「業(カルマ)」に襲われ殺された時、命を懸けて俺を助けてくれたのが吉原龍子さんだった。
父の友人であった龍子さんは、その時に俺を逃がすために、自分の眼球を抉り出して特殊な術を使った。
その後俺をこの堂前家に預けてくれた。
「吉原さんが早乙女さんと親しかったなんてな。どうにも世の中は不思議なもんだ」
「はい」
帰蝶さんが茶を淹れてくれた。
久し振りに、堂前家の方々全員と顔を合わせられた。
「「仕事」の方はどうなんだい?」
「はい。昨年の北海道での「無差別憑依」以来、随分と忙しくなりましたね。余りにも混乱していたため、警察の方でも状況を把握するのが遅れて」
「ああ。随分と多くの「化け物」が本土にも入ったようだな」
「「虎」の軍が特殊なレーダーを開発したそうで。二度目は防げそうですが、日本以外はどうなることやら」
「「化け物」は東京に集中しているそうだな」
「そうです。まあ、国家機能が集中してますからね。あとは長野の御堂帝国ですか」
「あそこも日本の要だからなぁ。まあ、「虎」の軍が相当な防備を固めているらしいが」
「御堂総理が「虎」の軍の中枢と親しいらしいですからね」
「まあ、だから日本は安泰だけどな」
重蔵さんは日本を支配したとも言える御堂総理に運送関係の仕事を頼まれた。
ドーゼン運輸がこれまで災害地区に自前で食糧や医療品を輸送して来た実績を買われたのだ。
政治ばかりか日本経済を掌握した御堂財閥に認められるということは、大きなアドバンテージだった。
「もう! そんな暗い話はまた今度! 磯良、今日はうちで夕飯を食べていってね」
「帰蝶さん、俺は帰りますよ」
「ダメ! 胡蝶、ハーレーのガソリンを抜いといて!」
「はーい!」
「胡蝶!」
「磯良、食べてって。みんなあなたがいなくなって寂しかったのよ」
加代さんまで俺に頼んで来た。
「分かりました。じゃあ、久し振りにいただきます」
「「「うん!」」」
豪勢な夕飯だった。
俺が好物だと思っている鯛の塩焼きとクリームシチューだ。
シチューは好きだが、鯛はそうでもない。
もちろん美味いのだが。
前に何かの祝いで出たものを俺が美味いと褒めた。
祝いの席で気の利いたことを言っただけのつもりだ。
堂前家の皆さんが、俺の好物だと勘違いされた。
夕飯を終えると風呂を勧められた。
俺が使っていた離れには、今も浴衣や下着などが置いてある。
いつでも帰って来れるようにと、堂前家の人たちがそうしてくれている。
俺は離れで早乙女さんに電話した。
「磯良か」
「はい。今、堂前家にいまして」
「そうか。久しぶりだろう。ゆっくりするといいよ」
「ありがとうございます。何かあればハーレーに乗って来ているので言って下さいね」
「アハハハハ! 大丈夫だよ。磯良が一番だけど、他にも人間はいるよ」
「そうですね。でも、本当にいつでも呼んで下さい」
「分かった」
「ああ、重蔵さんが早乙女さんに感謝してましたよ」
「え、俺に?」
「御堂総理と繋げてくれて助かったって。俺からも礼を言います」
「ああ、いいんだよ。俺の力じゃない。俺の親友が御堂総理と親しかっただけだ。それに、堂前さんの運送会社もいい会社だからね。俺なんかがいなくたって、いずれは御堂帝国も声を掛けただろうよ」
「そうですか。でも、ありがとうございました」
早乙女さんは電話を切る前に、また自分の家に遊びに来るように言ってくれた。
それ自体は嬉しいのだが、どうにもあの家は……。
中野区にある豪邸というか、もう城だ。
何でもケルン大聖堂というのを模したらしいが、日本であんな家に住んでいる人はいない。
どんな金持ちでも、あんな豪華すぎる家は持っていないだろう。
早乙女さんは真面目な警察官だが、どうも謎も多い。
大きすぎる邸宅に、奥さんの雪野さんと三人のお子さん。
ああ、あとはメイドアンドロイド三体か。
あれも普通じゃなかった。
今の技術で、どうしてあんな精巧なアンドロイドが創れるのか。
ほとんどの部屋は使われていないそうだが、掃除のためにいるらしい。
それに、一番は邸宅の横に立っている巨大な「モニュメント」だ。
鎧武者のような外見だが、顔は髑髏だ。
どうにも、邸宅にそぐわない。
どういうことだか理解出来ない。
「お守りみたいなものだよ」
そう早乙女さんは言っていたが。
胡蝶が風呂に呼びに来た。
「分かりました」
俺が離れを出ると、胡蝶が自分の浴衣を手に待っていた。
「あの」
「なーに?」
「なんで胡蝶は浴衣を?」
「風呂上がりに着替えるためじゃん」
「……」
「あの」
「なーに?」
「俺、今日は風呂はいいや」
「ダメよ! オチンチンが臭くなっちゃうよ?」
「別に使う宛もないですし」
胡蝶がニヤリと笑った。
「ねえ、今日使おう!」
耳元で小声で囁かれた。
「何言ってんですか。使いませんよ」
「もう!」
強引に脱衣所まで引っ張られた。
「あれ?」
誰かの服がカゴに入れてある。
胡蝶が浴室の扉を開けた。
「磯良? ごめん、知らないで先に入ってたの! もうしょうがないな、一緒に入ろうか!」
「「……」」
帰蝶さんが振り返った。
「胡蝶!」
「お姉ちゃん! 何で入ってんの!」
「あなたこそ! あ、磯良!」
「あの、やっぱり俺」
「「ダメよ!」」
胡蝶に服を脱がされ、帰蝶さんに手を引かれた。
胡蝶もすぐに脱いで入って来る。
「これ、不味いんじゃ」
「大丈夫よ。お父さんもお母さんも承知してるし」
「そうだよ! いずれ磯良は私と結婚するんだから」
「あら、胡蝶ちゃん。磯良は私と結婚することが決まってるのよ?」
兄弟のように育って来た二人だ。
今更裸になっても何のこともないが。
俺が洗い場で身体を洗うと、言い合っていた二人が駆け寄って背中を流してくれた。
「前も洗うから」
「いいです」
二人が俺の前を覗き込んだ。
「やめて下さい」
「いいじゃない」
「散々見てるって」
「ならもういいでしょう」
「磯良のっておっきいの?」
「さあ」
胡蝶が隣で洗い出した。
帰蝶さんは胡蝶の背中を洗っている。
仲のいい姉妹だ。
三人で湯船に浸かった。
「気持ちいいね、磯良」
「もっと気持ちいことする?」
胡蝶が帰蝶さんに頭をはたかれた。
まあ、したい気もあるのだが。
でも俺にはもったいないお二人だ。
俺は平然な顔をして、必死に目を閉じて素数を数えていた。
「磯良、元気そうだな」
「はい。重蔵さんも」
「まあな。早乙女さんから御堂総理を紹介してもらったからな。今の日本で御堂家の方々とパイプが出来るのは非常にありがたい」
「重蔵さんが真面目にやっているからですよ」
「いや、磯良のお陰だ。本当に感謝している」
俺が警察の対妖魔特殊部隊「アドヴェロス」に関わるようになったのは、5年前のことだ。
突然堂前家を訪ねて来た早乙女さんが、当時小学生だった俺を「アドヴェロス」に誘った。
「まあ、全部龍子さんの縁ですよ」
「そうだな。あの人には足を向けて寝られない」
俺の両親が「業(カルマ)」に襲われ殺された時、命を懸けて俺を助けてくれたのが吉原龍子さんだった。
父の友人であった龍子さんは、その時に俺を逃がすために、自分の眼球を抉り出して特殊な術を使った。
その後俺をこの堂前家に預けてくれた。
「吉原さんが早乙女さんと親しかったなんてな。どうにも世の中は不思議なもんだ」
「はい」
帰蝶さんが茶を淹れてくれた。
久し振りに、堂前家の方々全員と顔を合わせられた。
「「仕事」の方はどうなんだい?」
「はい。昨年の北海道での「無差別憑依」以来、随分と忙しくなりましたね。余りにも混乱していたため、警察の方でも状況を把握するのが遅れて」
「ああ。随分と多くの「化け物」が本土にも入ったようだな」
「「虎」の軍が特殊なレーダーを開発したそうで。二度目は防げそうですが、日本以外はどうなることやら」
「「化け物」は東京に集中しているそうだな」
「そうです。まあ、国家機能が集中してますからね。あとは長野の御堂帝国ですか」
「あそこも日本の要だからなぁ。まあ、「虎」の軍が相当な防備を固めているらしいが」
「御堂総理が「虎」の軍の中枢と親しいらしいですからね」
「まあ、だから日本は安泰だけどな」
重蔵さんは日本を支配したとも言える御堂総理に運送関係の仕事を頼まれた。
ドーゼン運輸がこれまで災害地区に自前で食糧や医療品を輸送して来た実績を買われたのだ。
政治ばかりか日本経済を掌握した御堂財閥に認められるということは、大きなアドバンテージだった。
「もう! そんな暗い話はまた今度! 磯良、今日はうちで夕飯を食べていってね」
「帰蝶さん、俺は帰りますよ」
「ダメ! 胡蝶、ハーレーのガソリンを抜いといて!」
「はーい!」
「胡蝶!」
「磯良、食べてって。みんなあなたがいなくなって寂しかったのよ」
加代さんまで俺に頼んで来た。
「分かりました。じゃあ、久し振りにいただきます」
「「「うん!」」」
豪勢な夕飯だった。
俺が好物だと思っている鯛の塩焼きとクリームシチューだ。
シチューは好きだが、鯛はそうでもない。
もちろん美味いのだが。
前に何かの祝いで出たものを俺が美味いと褒めた。
祝いの席で気の利いたことを言っただけのつもりだ。
堂前家の皆さんが、俺の好物だと勘違いされた。
夕飯を終えると風呂を勧められた。
俺が使っていた離れには、今も浴衣や下着などが置いてある。
いつでも帰って来れるようにと、堂前家の人たちがそうしてくれている。
俺は離れで早乙女さんに電話した。
「磯良か」
「はい。今、堂前家にいまして」
「そうか。久しぶりだろう。ゆっくりするといいよ」
「ありがとうございます。何かあればハーレーに乗って来ているので言って下さいね」
「アハハハハ! 大丈夫だよ。磯良が一番だけど、他にも人間はいるよ」
「そうですね。でも、本当にいつでも呼んで下さい」
「分かった」
「ああ、重蔵さんが早乙女さんに感謝してましたよ」
「え、俺に?」
「御堂総理と繋げてくれて助かったって。俺からも礼を言います」
「ああ、いいんだよ。俺の力じゃない。俺の親友が御堂総理と親しかっただけだ。それに、堂前さんの運送会社もいい会社だからね。俺なんかがいなくたって、いずれは御堂帝国も声を掛けただろうよ」
「そうですか。でも、ありがとうございました」
早乙女さんは電話を切る前に、また自分の家に遊びに来るように言ってくれた。
それ自体は嬉しいのだが、どうにもあの家は……。
中野区にある豪邸というか、もう城だ。
何でもケルン大聖堂というのを模したらしいが、日本であんな家に住んでいる人はいない。
どんな金持ちでも、あんな豪華すぎる家は持っていないだろう。
早乙女さんは真面目な警察官だが、どうも謎も多い。
大きすぎる邸宅に、奥さんの雪野さんと三人のお子さん。
ああ、あとはメイドアンドロイド三体か。
あれも普通じゃなかった。
今の技術で、どうしてあんな精巧なアンドロイドが創れるのか。
ほとんどの部屋は使われていないそうだが、掃除のためにいるらしい。
それに、一番は邸宅の横に立っている巨大な「モニュメント」だ。
鎧武者のような外見だが、顔は髑髏だ。
どうにも、邸宅にそぐわない。
どういうことだか理解出来ない。
「お守りみたいなものだよ」
そう早乙女さんは言っていたが。
胡蝶が風呂に呼びに来た。
「分かりました」
俺が離れを出ると、胡蝶が自分の浴衣を手に待っていた。
「あの」
「なーに?」
「なんで胡蝶は浴衣を?」
「風呂上がりに着替えるためじゃん」
「……」
「あの」
「なーに?」
「俺、今日は風呂はいいや」
「ダメよ! オチンチンが臭くなっちゃうよ?」
「別に使う宛もないですし」
胡蝶がニヤリと笑った。
「ねえ、今日使おう!」
耳元で小声で囁かれた。
「何言ってんですか。使いませんよ」
「もう!」
強引に脱衣所まで引っ張られた。
「あれ?」
誰かの服がカゴに入れてある。
胡蝶が浴室の扉を開けた。
「磯良? ごめん、知らないで先に入ってたの! もうしょうがないな、一緒に入ろうか!」
「「……」」
帰蝶さんが振り返った。
「胡蝶!」
「お姉ちゃん! 何で入ってんの!」
「あなたこそ! あ、磯良!」
「あの、やっぱり俺」
「「ダメよ!」」
胡蝶に服を脱がされ、帰蝶さんに手を引かれた。
胡蝶もすぐに脱いで入って来る。
「これ、不味いんじゃ」
「大丈夫よ。お父さんもお母さんも承知してるし」
「そうだよ! いずれ磯良は私と結婚するんだから」
「あら、胡蝶ちゃん。磯良は私と結婚することが決まってるのよ?」
兄弟のように育って来た二人だ。
今更裸になっても何のこともないが。
俺が洗い場で身体を洗うと、言い合っていた二人が駆け寄って背中を流してくれた。
「前も洗うから」
「いいです」
二人が俺の前を覗き込んだ。
「やめて下さい」
「いいじゃない」
「散々見てるって」
「ならもういいでしょう」
「磯良のっておっきいの?」
「さあ」
胡蝶が隣で洗い出した。
帰蝶さんは胡蝶の背中を洗っている。
仲のいい姉妹だ。
三人で湯船に浸かった。
「気持ちいいね、磯良」
「もっと気持ちいことする?」
胡蝶が帰蝶さんに頭をはたかれた。
まあ、したい気もあるのだが。
でも俺にはもったいないお二人だ。
俺は平然な顔をして、必死に目を閉じて素数を数えていた。
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