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獅子丸の進化 え、それなの? Ⅲ

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 食事を終え、雪野さんが持って来た「マ・ボンヌ ブロック」を切った。
 ルーが切って皿に乗せて配った。
 切り口の美しいクルミの配置が嬉しい。
 ハーがコーヒーを淹れる。
 獅子丸のネコたちがまた俺に集まって来たが、ロボが俺の膝によじ登って遠ざけてくれた。
 仕方なく子どもたちの方へ行き、子どもたちが喜んだ。
 何匹か怜花の所へ行き、怜花が嬉しそうに撫でていた。
 ゴールドは獅子丸の膝の上だ。

 「ところでよ、獅子丸はなんか悩んでんだってな?」
 「はい。元々自分が悪いんですが、自分が弱くてハンターのみなさんの足を引っ張っているのが心苦しく」
 「獅子丸、そんなことはないよ。お前は十分に役立ってる!」
 「そうですよ。獅子丸さんの調査はいつも大変に助かってますから」

 早乙女と雪野さんが言う。
 慰めではなく、本気でそう思っていることも伝わって来る。
 それでも獅子丸は納得していない。

 子どもたちが落ち込む獅子丸を心配そうに見ている怜花と久留守を気に掛け、二人を連れてネコたちと遊んだ。
 ピンポン玉を幾つも転がしてじゃれさせる。
 怜花の所へ玉を持って来る奴もいて、怜花が笑って投げてやる。
 久留守にも寄って行って、何匹もまとわりついていて撫でていた。

 「でも、自分は本当に申し訳なくて。先日も自分が集中を欠いて怪我もしましたし」

 獅子丸の大きな膝の上で、ゴールドが丸くなって寝ている。
 多分、いつもそうしているのが分かる程に、慣れている姿勢だった。
 獅子丸は困った顔をしながらも、怜花たちと遊ぶ自分のネコたちを優しく見ていた。
 
 「まあ、お前の悩みも分かるよ。お前は仲間を大事に思う人間だからな。自分がもっと役立ちたいと考えるのはお前らしいよな」
 「はぁ」

 獅子丸は本当に悩んでいるようで、うつむいている。
 俺は考えていた提案をした。

 「「花岡」を俺たちが直接手ほどきするか。お前なら信用出来るしな、ある程度の威力の技も習得させてやるよ」
 「石神さん、ほんとですか!」
 「お前は肉体を使うタイプだしな。早霧の剣技は難しいだろう。それに葛葉の「爆裂拳」も結構習得には時間が掛かるしな。「花岡」の場合はうちのルーとハーが理論的に解析してるから、習得は早いと思うぞ」
 「そうなんですか! アラスカのソルジャーが増えているのは聞いてますけど、そういうことなんですね」
 「まあな、実を言えばアラスカには特別な教官がいるせいもあるんだけどな」
 「はあ、その方のお陰なんですね」
 「そうだよ。獅子丸も場合によっちゃ、その教官に付けてやる」
 「本当ですか、ありがとうございます!」

 獅子丸がやっと明るく笑った。
 亜紀ちゃんがでかい段ボール箱を出して、ネコたちが興奮して箱の中へ入って行く。
 怜花を中へ入れるとネコ塗れになって、怜花が大喜びだ。
 躾が良いらしく、爪を立てる奴はいない。
 もう一つ段ボール箱を出して、久留守もネコ塗れにした。
 久留守も喜んだ。

 「でもよ、お前の場合、身軽にあちこち行けねぇし、時間もある程度めんどくさいよな」
 「あ、こいつらのことですか!」

 その飼い猫たちだ。
 
 「そうだよ。アラスカなんて難しいだろうよ、どうしたって数週間はかかるしよ」
 「あの、こいつらも一緒にじゃどうですか? 旅費は用意しますし」
 「うーん」

 獅子丸は金に関しては結構稼いでいる。
 「アドヴェロス」のハンターの収入も超多いし、ルーマニア政府からのゴールドの飼育手当で別途収入もある。
 年収数億にもなるだろう。
 まあ、「タイガーファング」で行くので旅費は必要無いのだが。
 
 「ゴールドだけならなぁ。まあ、他のネコたちも何とかなるだろうけどな。でもな、肝心なのはお前のやる気だからな」
 「はい! 一生懸命頑張ります!」
 「おう、ゴールドや他のネコたちのためにも頑張れ」
 「はい!」

 まあ、獅子丸の場合、最も大事なのはネコたちだろう。

 「な、ゴールド! 俺は頑張って強くなるからな!」
 「獅子丸、良かったな!」
 「はい!」

 早乙女も喜んでいた。 
 ゴールドは話し掛ける獅子丸を静かに見ていた。
 やはり、ロボと同じように人間の言葉が分かるのだろう。
 何しろ、なんだっけ、ああ「ルーマニアの猫神」だったな。
 ロボはルーマニア出身のカワイイ猫だ。
 ゴールドが身体を伸ばして獅子丸の首を抱くように甘えていた。
 微笑ましい光景をみんなで眺めていた。


 プス


 「「「「「「「!」」」」」」」

 獅子丸以外の全員が驚いた。
 ゴールドがロボと同様の長い爪を出して、それを獅子丸の頭頂にぶっ刺したのだ。

 「お」

 獅子丸が間抜けな声を出した。
 一瞬白眼を剥いて口を開いたまま気絶し、すぐに目を覚ました。

 「獅子丸、大丈夫か!」
 「え、なんですか?」
 「いや、今、お前さ!」

 早乙女が慌て、俺が止めた。
 ゴールドはもう爪を引っ込めて、自分の毛づくろいを始めていた。
 こいつもやるかー。

 「大丈夫だ、黙ってろ!」
 「でも、石神!」
 「いいから! 獅子丸、大丈夫だよな?」
 「はい。何かありました?」
 「いや、何でもねぇ。俺も何度も見てるから」
 「はい?」

 早乙女が俺を睨んでいる。
 雪野さんは口に手を当てて驚いている。
 手で制して黙らせた。

 「あれ? なんかヘンですよ!」
 「おい、どうした!」
 「なんでしょうか、なんか変わったような感じが」
 「!」

 俺はすぐにルーとハーに言い、庭に案内させた。
 早乙女達も心配して付いて来て、みんなで一緒に移動する。
 獅子丸のネコたちも付いて来ようとするので、亜紀ちゃんと柳にリヴィングに閉じ込めさせた。
 めんどくせぇなぁ。

 「えーと、石神さん、何かするんですか?」
 「おう、取り敢えずよ、葛葉流の技を試してみろよ」
 「え、はい。あんまり葛葉さんの技って難しくって」
 「いいからやれ」
 
 獅子丸が葛葉流の技の型を試した。
 基本の型の演舞をする。

 「あれ! 出来ますよ! なんでだろ?」
 「おう、続けろ」
 
 流れるような動作で型を続けた。
 そして葛葉流の「爆裂拳」を繰り出した。

 「おい!」

 あいつ、何の考えもなく撃ちやがった!
 何かに当たる寸前に、激しい光の爆発があった。

 「お前ぇ! 何をするかぁ!」

 ウッドデッキの脇からタヌ吉が肩を怒らせて出て来た。
 激オコだ。
 うちの連中以外が驚いている。
 ちゃんとウッドデッキを回り込んで登場したのに。

 「テメェ! 主様の庭を壊すつもりかぁ!」
 「え、すみません!」
 「すみませんで済むかぁ!」

 俺がタヌ吉を背中から抱き締めて宥めた。

 「タヌ吉、ありがとうな。お前のお陰で助かったよ」
 「主様! この者は呑み込んでよろしいですか!」
 「まあ待て。こいつも俺のために強くなろうとしてんだ。今日は思わずはっちゃけたけどよ、悪気は無かったんだよ」
 「でも、こいつは主様の!」
 「いや、俺がやれと言ったんだ。俺の考えが足りなかった、お前のお陰で助かったぜ、いつも本当にありがとうな」
 「いえ、わたくしはいつも主様のために」
 「そうだよな。お前は本当にいつも助けてくれてるよな」
 「主様ぁー!」

 俺は亜紀ちゃんに言って3時に喰おうと思っていたお汁粉をウッドデッキに持って来させた。
 タヌ吉と一緒に食べて、タヌ吉の美しさを褒め、いつも助かっていることに何度も感謝した。
 タヌ吉はニコニコして帰って行った。
 他の人間たちは間をもたせるために、獅子丸に双子が「花岡」を教えるのを見ていた。
 獅子丸の吸収が凄まじく、後から双子に驚いたと言われた。
 獅子丸は次々に「花岡」を習得し、上級ソルジャーレベルになった。





 獅子丸は翌週から鍛錬で目覚ましい成長を見せて、他のハンターたちに驚かれ、喜ばれた。
 あんだよ、俺らって必要なかったじゃん。
 一応双子に「花岡」を続けて習得させ、獅子丸には

 「また強くなりたかったら、ゴールドに頼め」

 と伝えた。

 だって、簡単じゃん。
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