上 下
2,794 / 2,808

寮歌祭 準備

しおりを挟む
 少し遡った頃のこと。
 私と柳さんがまだアフリカで戦っていた時。
 一時的に帰国してタカさんと会った。
 私ももちろんだけど、柳さんが嬉しそうだった。
 その時にタカさんから、今年も寮歌祭へ出掛けると聞いた!
 楽しみだなぁー。
 それに、タカさんがさらに嬉しいことを言ってくれた!

 「おい、良かったら真夜と真昼も誘ってみろよ」
 「え! いいんですか!」
 「もちろんだ。あいつら、鍛錬も頑張ってるしよ。たまには息抜きもさせてやれ」
 「はい! 喜びますよー!」
 「おいおい、寮歌祭が何なのかも知らないだろう」

 タカさんが笑って言ったけど、あんなに楽しい集まりは滅多に無い。
 みなさん教養が高く、お話しをすれば勉強になることばかりだ。
 すぐに真夜に電話すると、すぐに真昼と来ると言った。
 しばらく顔を見ていないので、是非会いたいと。
 嬉しいことを言ってくれる!
 すぐにうちに来て、寮歌祭のことを話すと真夜たちは即決で行くと言ってくれた。

 「じゃあ、何を着て行きましょうかねー」
 「何でもいいんだよ。でも、なるべく清楚な恰好がいいかな」
 「そうなんですか、亜紀さんはどんな?」
 「私は着物で行く! 着る機会はなるべく着物で行きたいから」
 「いいですね! じゃあ私も着物がいいなぁ」
 「真夜持ってるの!」
 「え、いいえ、持ってません。でも、着物っていいですよね。成人式ではレンタルでしたけど、あれは良かったですよ」
 「じゃあ、作れば?」
 「え?」
 「今からなら間に合うよ。あ、私、いいお店知ってる!」

 着物と言えば、タカさんの御友人の亀さんのお店だぁ!

 「そうなんですか!」
 「お姉ちゃん、私も作っていい?」
 「もちろんだよ!」

 着物は高価なものだけど、まー、真夜は超お金持ちだぁ。
 レッドダイヤモンドとかの代金で、数百億は余裕で持ってる。

 「真夜は分かるけどさ」
 「はい?」
 「真昼はルーとハーと、ケダモノ・マイクロビキニじゃないの?」
 「え! ひどいですよ!」
 「そう?」

 散々アレで近所を走ってるくせに。
 まあ、いいけど。

 「あー、私はちょっと一緒に行けないかぁー」
 「まだお忙しいんですね」
 「うん。でも電話しておくよ!」
 「ほんとですか! じゃあ、真昼と一緒に行って来ます!」
 「分かった!」

 私は柳さんと散々海外の戦場にいた時だったので、日本橋のタカさんの御友人、亀さんの呉服屋さんを教えて、二人に出掛けさせることにした。
 タカさんがすぐに亀さんに連絡して頼んでくれた。
 亀さんは喜んでくれ、真夜と真昼を歓迎してくれると言ってくれた。
 タカさんが私にも話せと、電話を寄越した。

 「あの、お金は持ってるんで、いいものをお願いします」
 「はい、分かりました。亜紀さんのお友達ですもんね、大歓迎ですよ」
 「ありがとうございます!」

 私と柳さんはまたアフリカ戦線に戻り、真夜たちはその間に亀さんのお店「亀井呉服店」へ出掛けて行った。






 9月の半ば。
 私はもうアフリカ戦線を終えて、日本でのんびりしていた。
 今日は真夜と真昼の出来上がった着物を一緒に引き取りに行く。
 一緒に出掛けるのも久しぶりなので、前にタカさんと行った日本橋の懐石料理の美味しいお店を予約した。
 もちろん「特別メニュー」だ!
 私がデモちゃん(ダッジ・チャレンジャー SRT デーモン 170/超改造スペシャルモデル)を出した。
 私のデモちゃんは、以前はメーカーの硬いベンチシートだったが、タカさんに紹介された改造屋さんにお願いして、前は赤のバケットシートにクロスハーネス、後部も柔らかいシートに交換した。
 だって、お友達も乗っけるじゃん!
 まあ、真夜が一番多く4回、兄弟たちで何回か。
 エンジン回りやサスペンション、足回りなどもいじった。
 そのお陰で80馬力も上がったよ!
 外装も結構いじって、フロントのデーモンのでかいプリントが盛り上がったものになって目立つ。
 エアスポイラーも凶悪なものが換装された。
 見た目で大きく変わったのはフロントグリルだ。
 カッチョイイ形にしてくれ、お気に入りです!
 ちょっとシャコタン。

 「亜紀さん、今日はすみません」
 「いいってことよ! 真夜と真昼の晴れ姿のためだもんね!」
 「亜紀さん、ありがとうございます!」

 後ろで真昼も喜んでいた。
 「虎」の軍ナンバーなので、ガンガン飛ばしていく。

 日本橋の高島屋の駐車場にデモちゃんを入れ、亀さんの呉服屋に向かった。
 私も、真夜と真昼がどんな着物にしたのかは知らない。
 今日の楽しみにして、何も聞いていなかった。
 小物や着物用のハンガーの衣紋掛けなどは、先に届けてもらっている。
 だから今日は着物と帯を頂くだけになっている。
 お店に入ると亀さんが待っていてくれた。

 「ようこそ。お待ちしてましたよ」
 「亀さん! お久し振りです!」
 「亜紀ちゃん、今日も綺麗だね! 真夜さんと真昼さんもお待ちしてました。どうぞ、出来てますよ」
 「「ありがとうございます!」」

 畳の上に上がって、二人の着物を見る。
 素敵だ!

 真夜は淡い綺麗な水色の地に、美しい孔雀が羽を拡げている柄だった。
 背中の首の下には満月がある。
 私の着物の一枚が大きな月の絵柄なので、合わせたのだろうか。
 真昼の着物はベージュの地に色とりどりの美しい海辺の街が描かれていた。
 変わった絵柄だが、街並みの美しさが素晴らしかった。

 「亜紀さん、どうですか?」
 「二人とも素晴らしいよ! 亀さん、素敵ですよね!」
 「ええ、本当に。若い作家さんのデザインなんですが、どちらもいいものですよねぇ」
 「はい!」

 なんでも、美大出身の方のデザインらしい。
 着物の世界も、新しい風が吹いている。
 真夜も真昼も嬉しそうに見ていた。
 反物で選んだらしいが、いい趣味だ。
 二人が手伝われて、羽織って見せた。
 やっぱり素敵だ。
 着物を畳んでもらっている間に、お茶をいただいて亀さんとお話しした。

 「デザインは若い作家さんなんですけどね。織も染めも刺繍も縫製も、ベテランの職人がやったものです」
 「そうなんですか!」
 「亜紀さんがあちこちで着物を着て歩いてくれているでしょう?」
 「え? ええ、好きですから」
 「それをね、結構な人が見てくれててね。着物を欲しがる人が増えて来ているんです」
 「そうなんですか?」

 意識したことはないが、確かにいろいろなイベントで着物を着て出ていた。
 御堂さん関連の行事も多く、そういえばマスコミに映っているかもしれない。
 「RHU=HER」のイベントなんかでも着て行った。
 大評判の「ミート・デビル」にも何度も着て出かけた。
 そういうことが、着物の評判をちょっとだけ広めたのかもしれない。
 亀さんが、幾つかの記事やネットのスクショなんかを閉じたスクラップブックを見せてくれた。
 他の人のものもあるが、私の写真が一杯あった。

 「ね? 亜紀さんのお陰ですって」
 「全然、そんなこと! 私はただ好きで着てるだけですよ!」
 「それがいいんでしょう。見せびらかすわけではなく、好きで着ているのがみなさんに伝わっているんですよ」
 「あ! あの着物ですよ! 本当に最高の着物ですから!」
 「そうですね、そういうものもあるでしょう。でも、着物が喜んでいるのが分かります。そういうことですよ」
 「そうなんですか!」

 着物が喜んでくれているというのが、嬉しかった。
 亀さんがそう言ってくれるなら、本当にそうなんだろうと思った。
 本当に素晴らしい物が世の中に浸透していく。
 私はそのことが本当に嬉しかった。
 
 「亀さん、お世話になりました!」
 「着物、大切にしますね!」
 「はい、どうぞよろしくお願いします」

 手提げのケースに入れてもらい、真夜と真昼がニコニコしてそれを持ち、お礼を言ってお店を出た。
 お店の出口で、亀さんたちが頭を下げ続けて見送ってくれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺の幼馴染がエロ可愛すぎてヤバい。

ゆきゆめ
キャラ文芸
「お〇ん〇ん様、今日もお元気ですね♡」  俺・浅間紘(あさまひろ)の朝は幼馴染の藤咲雪(ふじさきゆき)が俺の朝〇ちしたムスコとお喋りをしているのを目撃することから始まる。  何を言っているか分からないと思うが安心してくれ。俺も全くもってわからない。  わかることと言えばただひとつ。  それは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いってこと。  毎日毎日、雪(ゆき)にあれやこれやと弄られまくるのは疲れるけれど、なんやかんや楽しくもあって。  そしてやっぱり思うことは、俺の幼馴染は最高にエロ可愛いということ。  これはたぶん、ツッコミ待ちで弄りたがりやの幼馴染と、そんな彼女に振り回されまくりでツッコミまくりな俺の、青春やラブがあったりなかったりもする感じの日常コメディだ。(ツッコミはえっちな言葉ではないです)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...