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亜紀ちゃんたち、石神家へ Ⅱ

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 翌朝はもう痛くて身体を動かしたくなかった。
 隣で寝ていた真夜と真昼も同じ状態のようだ。

 「真夜、真昼、起きるよ」
 「「はい」」

 それでも何とか起き上がる。
 お布団を畳む余裕はない。
 襖が開いた。

 「あら、自分で起きたんだ?」
 「「「おはようございます!」」」

 虎蘭さんだ。
 浴衣姿で、お化粧はないけど本当に綺麗だ。
 左の頬に大きな切り傷があるけど、それさえも美しい。

 「ごはん食べれる?」
 「「「はい!」」」

 良かった、真夜も真昼も今朝は食事が出来そうだった。
 ご飯は大事だもんなー!
 朝食は目玉焼き(私は5枚)とハムの焼物(私は1キロ)、ご飯と味噌汁は豆腐だ。
 それにゴボウの漬物(絶品! これで何杯でも食べれるよ!)。
 お、大食いでごめんなさい……
 
 「ゴボウが美味しいですね!」
 「そう、それ私が漬けてるの」

 虎水さんが言った。

 「そうなんですか!」
 「わ、私もちょっと手伝ったよ」
 「あんたは畑から運んだだけでしょう!」
 「今度手伝うよ」
 「絶対やめて!」

 みんなで笑った。

 朝食を食べてから、山へ上がった。
 まだ身体は全身が痛いけど、何とか走れる。
 虎蘭さんも虎水さんも、そんな私たちに気を遣うことなくどんどん先を走って行った。
 途中で大勢の剣士さんたちが私たちを追い抜きながら、挨拶をかわしていく。

 「真夜、真昼、がんばろう!」
 「「はい!」」

 やっと頂上に着いて、虎白さんに挨拶した。

 「「「宜しくお願いします!」」」
 「おう、どうやら動けるようだな」
 「はい、まだ痛いですけど」
 「まあ、そんなもんだ」

 虎白さんが笑った。
 ここじゃ、痛いなんてどうでもいいことなんだとすぐに分かった。
 他の剣士のみなさんはもう鍛錬を始める。

 「ほい、おはようさん!」
 「「「!」」」

 真白さんがいたぁ!
 戸板も敷いてあるよぉー!

 「ほら、さっさと寝な」
 「あ、あの、今日も鍼を?」
 「だからあたしがいるんだろう! 早くおし!」

 仕方ないんで三人で戸板の上にうつぶせになった。

 「やさしくしてくださぁーい!」
 「はいよ」

 真白さんが腰にまたがって、私の首筋に鍼を打った。
 一瞬で頭が真っ白になって気絶した。

 全身が熱くて目が覚めた。
 昨日のような激痛は無かったが、やけに身体が燃えるように熱い。
 タカさんがクロピョンの試練の時には、これ以上の熱さを感じていたんだろうと思うと全然平気だった。
 気が付くと、大勢の剣士たちが私たちを見ている。
 虎蘭さんや虎水さん、聖さんもいた。

 虎白さんが私の前に立って、刀を振り下ろした。
 咄嗟のことで、この私がまったく身体が反応できなかった。
 流石は虎白さんだ!
 私は自分が斬られたと思った。

 その時、身体の奥底から噴き上がって来るものを感じた。
 なんだ!

 「おう、やっぱこいつも「虎相」が出たかよ」
 「まったくなぁ。全然石神家の血って関係ねぇじゃん」
 「まあ、俺らみたいな日常の連中ってなかなかいねぇからな」
 「おう、こいつ結構でかくねぇか?」
 「高虎の見ちゃうとどうもなぁ」
 「違ぇねぇ!」

 みんなが笑っていた。
 真夜と真昼もやられた。

 「おう、こいつらもか」
 「バーゲンセールだな」
 「まあ、高虎の周りは覚悟決めてる奴ばっかだからな」
 「そういうこった」

 虎白さんが「虎眼」を教えてくれた。
 自分と真夜、真昼の火柱が見えた。

 「おう、出し方は覚えたな」
 「「「はい!」」」
 「今日から剣技を教えて行く。しっかり身に着けろ!」
 「「「はい!」」」

 その日は剣技の型を教わり、ひたすらにそれを練習した。
 もう虎白さんは付ききりではなく、他の剣士の人たちに指導いただいた。
 今日はもうブスブス刺されることもなく、身体も次第に熱が退き、それと同時に激痛も薄れて行った。
 剣技を覚えるのが俄然楽しくなり、真夜たちと懸命に覚えて行った。
 
 お昼だぁー!
 今日は肉団子鍋とご飯とホウレン草のおひたし!
 またどれも美味しくて、普段はそんなに食べないホウレン草も一杯いただいた。 
 虎蘭さん、虎水さん、それに聖さんと天丸さんが一緒に食べてくれた。

 「亜紀、いつもみたく喰えよ。幾らでもあるからな」
 「いいですよ!」
 「だってお前、10人前しか喰ってねぇじゃん」
 「そうですよ、亜紀さん! まだどこか痛いですか?」
 「そうじゃなくてね。ほんとにこれで十分だから」
 「まあ、普通は喰い過ぎだけどなぁ」
 「聖さん!」
 「ワハハハハハハハ!」
 「もう!」

 でも、本当に充分だった。
 美味しいことが大きいのだろうが、不思議に食欲が納まっている。
 体調が悪いわけではなく、十分に食べたという感じだ。

 「真白さんの鍼のせいもあるんでしょう」
 「そうなのかよ、虎蘭?」
 「はい。身体のバランスが取れているんで、余計なものは欲しがらなくなるんです」
 「まあ、こいつはいつも喰い過ぎだからなぁ」
 「やめてください!」
 
 知ってるけどー。
 真夜と真昼も笑っていた。
 心配いらないと分かって嬉しそうにしてくれている。
 大好きだそー!

 午後からも剣技を覚えさせられた。
 夕飯は聖さんたちの家に呼ばれた。
 大量のステーキがあったぁ!

 「聖さん、これ!」
 「今日はもう喰えるだろう?」
 「そうですけど! こんなの!」
 「いいから喰えよ。いつもってわけには行かないけどな」
 「でも、どうしたんですか!」

 聖さんが一瞬困った顔をした。

 「あ、ああ。話すなって言われたんだけどよ、虎白さんだよ」
 「「「えぇ!」」」
 「そういう人なんだ。物騒な人に見られてぇらしいけどな、ほんとは優しくてしょうがねぇ人なんだよ」
 「虎白さーん!」
 「バカ! 静かに喰え! 折角の心遣いだ!」
 「聖さんがそんなこと言うなんて!」
 「お前! 俺のことどう思ってんだよ!」
 「優しい人!」
 「バカヤロウ!」

 みんなで笑った。

 「聖さん、今日は有難く頂きますけどね。でも私もここに来た限りはみなさんと一緒の食事がいいです!」

 聖さんと天丸さんが大笑いした。

 「みんな同じこと言うんだよなぁ」
 「そうだよな」
 「ん?」

 聖さんも天丸さんも、虎白さんが気を遣って洋食だのを出してくれた時に、私と同じことを言ったそうだ。

 「まあ、喰えよ。明日からも鍛錬は厳しいからな」
 「「「はい!」」」
 「トラから聞いてるよ。まあ、トラはそのうちに亜紀をここに寄越すつもりだったようだけどな」
 「そうなんですか?」
 「ここは最高だ。自分の想像以上に強くしてもらえる。虎白さんたちは本当にすげぇよ」
 「そうですね!」
 「なんたって優しいしな」
 「はい!」
 「トラがどうしてあんなに優しいのかよく分かったぜ」
 「「「はい!」」」

 そうだ、私は今タカさんの源流にいるんだぁ!

 「真夜と真昼もよく来たな。お前ら、亜紀が大好きか」
 「「はい!」」
 「俺たちはみんなそんなだよな。誰かが好きでしょうがなくて何でも頑張る。絶対に諦めねぇ」
 「「はい!」」
 「トラはよ、そんな俺たちをまた大事にしてくれる。俺たちはそういうんだ」
 「「「はい!」」」

 「トラの親父さんに会ったことがあるんだ」
 「え?」

 聖さんが話し出した。
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