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空に咲く花 Ⅱ

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 石神様と蓮花様が私を美しい容姿にして下さったお陰で、デュールゲリエに多少の違和感、抵抗感のある方々も、私を受け入れて下さるようになった。
 私が話し掛けると顔を赤くされる方もいる。
 優しい方々が多い。
 時折、私などをお誘い下さる方もいる。

 「《無量》、今度の休みに一緒に買い物に付き合ってくれないか?」
 「申し訳ありません。プライベートはお付き合い出来ないことになっていますので」
 「そうなんだ! そっかぁ、じゃあしょうがねぇな」
 「本当に申し訳ありません」
 「いいって」

 そういう遣り取りが何度もあった。
 食事やお酒にお誘い下さる方までいるのだが、私たちは飲食が出来ない。
 私の見た目でそう考えられているようで、デュールゲリエであることを失念なさっている。
 飲食が出来ないことをお伝えすると慌てて謝って来られるのだが、純粋な方々なのだと感じていた。
 私などを個人的にお誘いして下さるのは有難いのだが、軍の規定ではデュールゲリエをプライベートで誘うことは禁じられていた。
 それは万が一にも私たちを道具として扱わないためだ。
 命令に従うロボットとは違うことを、石神様が私たちのために周知しようとして下さっているのだ。
 石神様は、私たちデュールゲリエを戦う戦友として位置づけて下さっている。
 だから私たちがプライベートに応じてしまえば、必ず歪みが生まれる。
 次に応じなければ、どうしてだと言い出す方が出て来る。
 どこまで応じるのかの問題も出るだろう。
 私たちを機械人形だと思う方であれば、平等に応じなければおかしいと考えるのだ。
 だから石神様は、戦闘に関してだけ私たちと関わるようにして下さっている。

 私をお誘い下さる方々の中には好ましく思う方も多いのだが、私たちもその規律に従っている。
 但し、私に関しては実はその規定は適用されていない。
 私は「デート」というものを許されている。
 この先、私がパートナーを選んだ時に、それが公表されることになっていた。
 これまではまだ、私自身が自分のパートナーとして考えられる方がいなかったということだ。
 このことに関しては、私自身がこの先見つけることが出来るのかという不安でもあった。
 「桜隊」に配属されて数年が経過しても、私には「この方」という感覚が抱けなかった。
 折角石神様や蓮花様が期待して私を創り上げて下さったのに、申し訳なく思っていた。
 何度か蓮花様にご相談したが、その度に「焦る必要は無い」と言われた。

 ある日、森本少尉が「桜隊」に編入された。
 鍛え上げられた強靭な肉体で、意志力の強い眼光が目立つ方だった。
 身長173センチで体重72キロ。
 髪を伸ばし放題にして手入れの無い蓬髪。
 無精ひげだが、時々は剃っているようだ。
 人から好かれることを捨てて、戦うことだけに向けられている方、そう私には感じられた。

 私も森本少尉を取り巻く噂を耳にしている。
 技能は優れた方ではあったが、協調性が無く、喧嘩を中心とした不祥事の多い方だと。
 「命令が無い限り、危険を冒して仲間を救うことはしない」と明言されて、多くのソルジャーから嫌われている方だ。
 私も申し訳ないが、そういう方は好まない。
 実際に、マクレガー大佐の隊で大佐の救出命令に反抗して軍事裁判まで開かれた。
 石神様が裁判に乗り出して、一応の決着は付き、処罰を受けた後に「桜隊」に編入された。
 恐らく、もう森本少尉を受け入れる隊は無いだろう。
 桜大佐は人情に篤く、多くの部下からも慕われている方だ。
 だから石神様が問題の多い森本少尉を桜大佐の下で何とか導かれるようにお考えでいらっしゃる。
 私は、そう考えていた。

 だから私も、一緒の隊になったのであれば、仲間として大切にしなければと考えていた。
 それが石神様のお考えに沿うことになるだろう。
 「桜隊」でも、多くの方々が森本少尉を嫌っていることは分かっていた。
 反対に、この大隊では桜大佐を中心に、石神様を信奉している方ばかりだった。
 だから仲間同士の結束も他の部隊以上に強い。
 私は森本少尉が他の方々と衝突しないように立ち回ろうと思った。
 「桜隊」の中では、仲間を拒絶する森本少尉は特に嫌われると思ったのだ。
 嫌われる感情は、私にもよく理解出来た。
 私たちは「業」と戦うという目的で集まった仲間なのだ。
 だから助け合い、支え合って行かなければならない。
 森本少尉はそのようなお考えではないようだ。
 だから森本少尉が問題を起こさないように、出来るだけ振る舞いたいと私は考えていた。
 私はそれ以来、森本少尉を常に見るようにしていた。

 森本少尉が入って来て、訓練を共にするようになった。
 桜大佐が全員に通達し、森本少尉が大隊の一員であることを強調された。
 そのお陰で、あからさまな森本少尉に対する嫌がらせのようなことは無かった。
 それでも、口も利かない方が多くいらした。
 冷たい目線を向けている方も多い。
 陰では森本少尉のことを悪く言われている方もいる。
 森本少尉は上級ソルジャーであったので、本来であれば自分の小隊か中隊なりを持つはずだった。
 でも、森本少尉への周囲の偏見を考慮し、桜大佐は森本少尉に自分の部下を持たせなかった。
 だから最初は森本少尉は大隊の中でも孤立していた。

 でも一緒に訓練をするようになり、森本少尉が誰よりも真面目な方だと全員が知るようになっていった。
 また整備や手入れ、掃除や食事当番などの雑用を率先してやり、他のソルジャーの方々にアドバイスもされる。
 最初は雑用を当番でもなくやろうとする森本少尉のことを、媚を得ようとしているのだと皆さんが思っていらした。
 訓練中に話しかけられると態度を硬化したり、拒絶される方も多かった。
 しかしそのうちに、媚を売ってもおらず、心底から大隊の底上げをなさろうとしていることを全員が知って行った。

 最初にそれに気付いたのは川尻軍曹だった。
 川尻軍曹は気さくな性格で、上官にも遠慮なく物言いをする方だった。
 ある休憩中に、川尻軍曹が森本少尉に話しかけるのを聞いていた。

 「森本少尉、どうして嫌がられても自分らに技のアドバイスなんかされるんですか?」
 「自分は大隊の戦力の底上げがしたいだけです。そうすればもっと多くの敵を殺せる」
 「まあ、そうでしょうけどね。でも、あんなに嫌われてるじゃないですか」
 「自分のことなんか。自分は嫌われて当然の人間です。川尻さんも自分などに話しかけると、皆さんから嫌われてしまうかもしれませんよ?」
 「そんなこと! 俺たちは仲間じゃないですか!」
 「……」

 森本少尉はほんの少し微笑んでいた。
 川尻軍曹は度々森本少尉に話しかけるようになり、そのうちに軍曹の部下の方々も時折森本少尉と話し、時には食堂で一緒に座られているのを見掛けた。
 私は森本少尉が問題を起こさないようにと注意して見ていたのだが、ここではそういうことは無さそうだった。
 それでも、私は森本少尉を見ていた。
 私は、いつの間にか森本少尉を注視するのではなく、興味を持って観ている自分に気付いた。
 その自分の気持ちを理解出来ず、持て余していた。
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