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天丸の再起 Ⅲ
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天丸は恐ろしく強くなった。
外見もまるで変わり、格闘家の頃の逞しく覆っていた巨大な筋肉は消え失せ、その代わりに今度は針金を束ねたような身体になっていった。
格闘家ではなく、戦士の身体になったのだ。
天丸は格闘家としては超一流の人間だった。
格闘家は太い筋肉でパワーが出るが、短期決戦のためのものだ。
相手を強大なパワーで破壊していく。
そこに技が加わり、更に効率よく破壊出来るようになり、尚且つ大きな筋肉で覆われることで自分の防御も出来るようになる。
主に一対一での戦いになるから、相手の動きに合わせた攻防が発展する。
格闘技の多くが体重別であるのは、主に筋肉量の問題だ。
重い体重、即ち筋肉量が大きな身体は大きな破壊力をもち、且つダメージを軽減することが出来る。
体重=筋肉量が階級別にされることで、「試合」が正当性を持つ。
しかし大きな筋肉は破壊力はあるが、エネルギーの消費が激しい。
だから制限時間も設けられ、なるべく安全で公平な環境が整えられる「スポーツ」なのだ。
しかし、戦士は違う。
通常の戦士の破壊力は武器が補ってくれる。
だから武器の習熟が戦士の条件の一つになる。
昔の刀剣の時代ならばともかく、今は銃だ。
撃つだけならば、子どもでも出来る。
肉体のぶつかり合いはそれほどない。
銃は離れて撃ち合うからだ。
それに戦場での移動が加わり、持久力も必要になる。
長く戦うためには、劣悪な環境でも長時間動ける性能が求められていく。
自然にエネルギーを大消費する格闘家の筋肉ではなく、効率よく動く筋肉へ変化する。
その方向へ鍛えて行くと、引き締まった肉体になる。
格闘家のような力任せにねじ伏せる筋肉ではなく、遠くまで動き、いつまでも武器を扱う肉体だ。
特殊部隊では格闘戦も想定されてはいるが、実際の戦場では少ない。
特殊部隊は敵の施設へ忍び込んでの作戦があるので、近接戦闘も必要な技術にはなるわけだが。
そして「花岡」は、銃以上の威力を肉体だけで発揮する特別な拳法だ。
更に近接戦闘も大いに視野に入れ、戦車に近寄って素手で破壊することも出来る。
トラたちが編み出したのは、一層途轍もない威力だ。
実際にトラは、一撃でアメリカの西海岸を破壊した。
もしもあの時にトラが本気になれば、全米が焼け野原になっていただろう。
石神家では刀剣を使うが、とにかくそれを積み上げて来た。
「花岡」や多くの家系で編み出した技をも跳ね返し乗り越えるための修練もある。
そうすることで、人類最高峰の高みにまで到達した。
肉体も改造に近い改革が施され、凡そ格闘家の力や技などが児戯のようになる。
今の天丸の肉体だ。
「花岡」も同じ方向だが、石神家は次元が違う。
花岡家で石神家に届くのは斬だけだろう。
あいつも途轍もない鍛錬を積み上げ、また石神家でも鍛え上げているからだ。
「虎」の軍のソルジャーたちも、基本はその方向だが、多くの者は鍛え上げた肉体に留まる。
ここに来て石神家の鍛錬をしない限り、究極の肉体は手に入らない。
斬のような特別な人間は別にして、やはり方法論があるのだ。
一見無茶苦茶な鍛錬だが、並外れた洞察力で個々の状態を測りながら鍛えて行く。
天丸がここまでの肉体となったのは、やはり虎白さんたちが指導したためだ。
無理をしたがる天丸を見越して、上手く導いて来た。
そういったことにも、虎白さんたちの愛情が伺える。
苦悩する天丸に慰めも力づけの優しさも示さず、ただただ深い愛情で支えて来たのだ。
並大抵の「愛」ではない。
もちろん、トラや俺も究極の肉体を目指している。
まあ、俺はしばらく不摂生で、蓮華の軍団と戦うためにトラに日本へ呼ばれた時には大分たるんでいたが。
トラが親友の子どもたちを引き取ったと聞き、ついにあいつも幸せな日常の中に入って行くのだと思ったのだ。
それで、俺も何だか気が抜けてしまった。
あいつを護って行くつもりはあったが、もうあいつは戦場にも出ない。
もう、それほどの危険はないだろう、と。
日本は戦争には程遠い。
そう思っていた。
ところが、あいつはとんでもない敵と戦うことになっていた。
トラとまた一緒に戦えることで有頂天になっていた俺は、トラと子どもたちの壮絶な力を見て焦った。
そして敵の強さ。
トラと別れてから、また俺は徹底的に鍛え直して行った。
俺の出来る限りの鍛錬をしたが、やはり「花岡」は必須だった。
トラに「花岡」を教わって、俺は必死に覚えた。
トラから頼まれて、俺が自力で「花岡」を習得したと子どもたちには見せていたが、冗談じゃねぇ。
俺も頑張ったのだ。
まあ、亜紀たちが学校へ通っている間も俺は鍛錬し、またそれまでの積み上げもあってあいつらにも負けないようになっていったのだ。
トラは子どもたちに俺のことを天才だからと言いたかったようだ。
そうすることで、子どもたちはずっと先のものを見続けることが出来る。
そしてトラに石神家へ連れて来てもらって、更に分かった。
「花岡」もそうだが、鍛錬ということがどういうことかが理解出来た。
石神家のみなさんは剣技の熟練者だが、石神家の剣技や「花岡」が最強なのではない。
そこから更に先へ行こうとする心が重要なのだ。
トラはそうやって強くなって来たのだ。
天丸とは、そういう話もした。
天丸自身も、こうやって石神家の鍛錬の日々を過ごして来たので、俺の言っていることはよく分かってくれた。
格闘家として大した鍛え方もして来たのだろうし、血反吐を吐くこともあっただろう。
しかし、根本が違った。
ルールも時間制限も戦場には無い。
万一の場合にタオルも投げられないし、降参して許してもらえるわけでも無い。
傷ついてもドクターが控えているわけでも無い。
負ければ死ぬのだ。
そういう戦場で、どのように戦って行くのか。
その答えが石神家にはあった。
まあ、トラに声を掛けた時点で、天丸にも死ぬ覚悟はあっただろう。
戦場が格闘技とは違うことはもちろん理解していた。
でも、死ぬ覚悟だけでは不十分だ。
戦って勝つ覚悟が必用なのだ。
死ぬのはオマケだ。
交通事故で死ぬのと同じことが戦場で起きるだけだ。
天丸は死にたがっていたが、虎白さんたちはそこに「戦う覚悟」を刻み込んでくれた。
俺はほんのちょっと一緒にいただけだ。
「聖、今日もやるぞ!」
「ああ」
天丸が明るく笑い、俺も笑った。
それでいい。
天丸、やるぞ。
外見もまるで変わり、格闘家の頃の逞しく覆っていた巨大な筋肉は消え失せ、その代わりに今度は針金を束ねたような身体になっていった。
格闘家ではなく、戦士の身体になったのだ。
天丸は格闘家としては超一流の人間だった。
格闘家は太い筋肉でパワーが出るが、短期決戦のためのものだ。
相手を強大なパワーで破壊していく。
そこに技が加わり、更に効率よく破壊出来るようになり、尚且つ大きな筋肉で覆われることで自分の防御も出来るようになる。
主に一対一での戦いになるから、相手の動きに合わせた攻防が発展する。
格闘技の多くが体重別であるのは、主に筋肉量の問題だ。
重い体重、即ち筋肉量が大きな身体は大きな破壊力をもち、且つダメージを軽減することが出来る。
体重=筋肉量が階級別にされることで、「試合」が正当性を持つ。
しかし大きな筋肉は破壊力はあるが、エネルギーの消費が激しい。
だから制限時間も設けられ、なるべく安全で公平な環境が整えられる「スポーツ」なのだ。
しかし、戦士は違う。
通常の戦士の破壊力は武器が補ってくれる。
だから武器の習熟が戦士の条件の一つになる。
昔の刀剣の時代ならばともかく、今は銃だ。
撃つだけならば、子どもでも出来る。
肉体のぶつかり合いはそれほどない。
銃は離れて撃ち合うからだ。
それに戦場での移動が加わり、持久力も必要になる。
長く戦うためには、劣悪な環境でも長時間動ける性能が求められていく。
自然にエネルギーを大消費する格闘家の筋肉ではなく、効率よく動く筋肉へ変化する。
その方向へ鍛えて行くと、引き締まった肉体になる。
格闘家のような力任せにねじ伏せる筋肉ではなく、遠くまで動き、いつまでも武器を扱う肉体だ。
特殊部隊では格闘戦も想定されてはいるが、実際の戦場では少ない。
特殊部隊は敵の施設へ忍び込んでの作戦があるので、近接戦闘も必要な技術にはなるわけだが。
そして「花岡」は、銃以上の威力を肉体だけで発揮する特別な拳法だ。
更に近接戦闘も大いに視野に入れ、戦車に近寄って素手で破壊することも出来る。
トラたちが編み出したのは、一層途轍もない威力だ。
実際にトラは、一撃でアメリカの西海岸を破壊した。
もしもあの時にトラが本気になれば、全米が焼け野原になっていただろう。
石神家では刀剣を使うが、とにかくそれを積み上げて来た。
「花岡」や多くの家系で編み出した技をも跳ね返し乗り越えるための修練もある。
そうすることで、人類最高峰の高みにまで到達した。
肉体も改造に近い改革が施され、凡そ格闘家の力や技などが児戯のようになる。
今の天丸の肉体だ。
「花岡」も同じ方向だが、石神家は次元が違う。
花岡家で石神家に届くのは斬だけだろう。
あいつも途轍もない鍛錬を積み上げ、また石神家でも鍛え上げているからだ。
「虎」の軍のソルジャーたちも、基本はその方向だが、多くの者は鍛え上げた肉体に留まる。
ここに来て石神家の鍛錬をしない限り、究極の肉体は手に入らない。
斬のような特別な人間は別にして、やはり方法論があるのだ。
一見無茶苦茶な鍛錬だが、並外れた洞察力で個々の状態を測りながら鍛えて行く。
天丸がここまでの肉体となったのは、やはり虎白さんたちが指導したためだ。
無理をしたがる天丸を見越して、上手く導いて来た。
そういったことにも、虎白さんたちの愛情が伺える。
苦悩する天丸に慰めも力づけの優しさも示さず、ただただ深い愛情で支えて来たのだ。
並大抵の「愛」ではない。
もちろん、トラや俺も究極の肉体を目指している。
まあ、俺はしばらく不摂生で、蓮華の軍団と戦うためにトラに日本へ呼ばれた時には大分たるんでいたが。
トラが親友の子どもたちを引き取ったと聞き、ついにあいつも幸せな日常の中に入って行くのだと思ったのだ。
それで、俺も何だか気が抜けてしまった。
あいつを護って行くつもりはあったが、もうあいつは戦場にも出ない。
もう、それほどの危険はないだろう、と。
日本は戦争には程遠い。
そう思っていた。
ところが、あいつはとんでもない敵と戦うことになっていた。
トラとまた一緒に戦えることで有頂天になっていた俺は、トラと子どもたちの壮絶な力を見て焦った。
そして敵の強さ。
トラと別れてから、また俺は徹底的に鍛え直して行った。
俺の出来る限りの鍛錬をしたが、やはり「花岡」は必須だった。
トラに「花岡」を教わって、俺は必死に覚えた。
トラから頼まれて、俺が自力で「花岡」を習得したと子どもたちには見せていたが、冗談じゃねぇ。
俺も頑張ったのだ。
まあ、亜紀たちが学校へ通っている間も俺は鍛錬し、またそれまでの積み上げもあってあいつらにも負けないようになっていったのだ。
トラは子どもたちに俺のことを天才だからと言いたかったようだ。
そうすることで、子どもたちはずっと先のものを見続けることが出来る。
そしてトラに石神家へ連れて来てもらって、更に分かった。
「花岡」もそうだが、鍛錬ということがどういうことかが理解出来た。
石神家のみなさんは剣技の熟練者だが、石神家の剣技や「花岡」が最強なのではない。
そこから更に先へ行こうとする心が重要なのだ。
トラはそうやって強くなって来たのだ。
天丸とは、そういう話もした。
天丸自身も、こうやって石神家の鍛錬の日々を過ごして来たので、俺の言っていることはよく分かってくれた。
格闘家として大した鍛え方もして来たのだろうし、血反吐を吐くこともあっただろう。
しかし、根本が違った。
ルールも時間制限も戦場には無い。
万一の場合にタオルも投げられないし、降参して許してもらえるわけでも無い。
傷ついてもドクターが控えているわけでも無い。
負ければ死ぬのだ。
そういう戦場で、どのように戦って行くのか。
その答えが石神家にはあった。
まあ、トラに声を掛けた時点で、天丸にも死ぬ覚悟はあっただろう。
戦場が格闘技とは違うことはもちろん理解していた。
でも、死ぬ覚悟だけでは不十分だ。
戦って勝つ覚悟が必用なのだ。
死ぬのはオマケだ。
交通事故で死ぬのと同じことが戦場で起きるだけだ。
天丸は死にたがっていたが、虎白さんたちはそこに「戦う覚悟」を刻み込んでくれた。
俺はほんのちょっと一緒にいただけだ。
「聖、今日もやるぞ!」
「ああ」
天丸が明るく笑い、俺も笑った。
それでいい。
天丸、やるぞ。
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