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天丸の再起

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 アメリカから、また聖さんがやって来た。
 みんなで大歓迎だ。
 以前に高虎さんが聖さんを連れて来て、石神家の血が無いはずなのに雄大な「虎相」を見せた。
 そして西安での戦いにも同伴し、その時はパムッカレの戦闘で相当な無理をし、しばらく身体を癒していたと聞いている。
 身体の方はもう復調し、また私たちと一緒に鍛錬をしたいのだということだった。
 聖さんは痩せていたようだけど、本当に元気そうで安心した。
 本当は高虎さんにも会いたかったが、聖さんはお一人で来られた。
 まあ、高虎さんの気持ちも分かっている。
 ウフフフ。

 「聖、また一緒だな!」
 「ええ、虎白さん。また宜しくお願いします」
 「おう!」
 「聖さん! ようこそ!」
 「おお、虎蘭! また世話になるな!」
 「高虎さん、お元気ですか?」
 「当たり前だぁ! あいつに何かあったら、俺はここにはいねぇよ!」
 「アハハハハハハ! そりゃそうですよね!」

 高虎さんと聖さんは大親友だ。
 お二人の友情は、私なんかが見てても最高のものだと分かる。
 聖さんは、若輩の私なんかとも親しく話してくれる。
 みんな聖さんが大好きだ。
 みんなが「タイガーファング」から降りて来た聖さんを歓迎して言葉を掛けて行った。
 一人だけ離れてこちらを見ている。
 聖さんが笑顔で向かった。

 「天丸」
 「聖」

 聖さんが天丸さんを抱き締めた。
 天丸さんが驚いていた。

 「お前、辛かったよな」
 「おい……」
 「お前、また一緒にやろうな。トラを助けようぜ」
 「あ、ああ! 俺はそのために生きてんだぁ!」

 天丸さんが泣いて叫んだ。
 天丸さんはあの日以来、激しい鍛錬をしてきた。
 息子の天豪さんが裏切ったことを苦にして来た。
 余りに無茶なので、虎白さんたちが何度も殴り飛ばして諫めた。
 でも、天丸さんは一向に収まらなかった。
 気持ちは分かる。
 高虎さんや私たちに申し訳ないと思っているからだ。
 高虎さんや虎白さんたちが、何度も仕方の無かったことだと言っても聞かなかった。
 その気持ちも分かる。
 誰にも止められないのだ。
 あの日から、天丸さんは一度も泣いたことがなかった。
 少なくとも、私たちの前では泣かなかった。
 泣けなかったのだろう。
 私たちに対する懺悔の気持ちが大きかったのだ。
 その天丸さんが今、声を挙げて泣いていた。
 聖さんがいきなり抱き締めたからだ。
 聖さんがずっと抱き締めて声を掛けていた。

 「天丸、辛かったな」

 その言葉を繰り返していた。
 




 聖さんが来てから、天丸さんが少しずつ変わって行った。
 相変わらず無茶なこともするけど、以前ほどでは無くなった。
 聖さんは天丸さんと同じ家で寝起きするようになり、きっとそのことと関係があるのだろう。
 聖さんは無口な人だけど、優しい人なのは分かっていた。
 誰が止めても無茶を続ける天丸さんが、聖さんが止めると大人しく従っていた。

 お二人が高校時代に多少の交流があったことは知っている。
 高虎さんの「ルート20」の仲間であった天丸さんと、高虎さんの親友であった聖さん。
 詳しいことは知らないが、一緒に高虎さんを助けたこともあると前に亜紀さんから聞いた。

 高虎さんから電話が来た。
 高虎さんは週に数度、私に電話をくれる。
 私の身体が大丈夫かをいつも真っ先に聞き、その後でいろいろな話をする。
 高虎さんのお話はいつも楽しい。
 だからほとんど私が聞いているばかりで、私から話すことはほんのわずかなことだった。
 でも高虎さんは全然気にしないで、楽しく話してくれる。
 私に意見を求めることもある。
 私なんかがお役に立てるわけもないのだが、一生懸命に考えてお答えする。

 「こないだ六花と話しててさ」
 「はい!」
 「虎白さんたちって、六花に子どもが生まれるといつも来るじゃん」
 「ああ、そうですね」
 「栞とか麗星なんかは行かないじゃん」
 「まあ、そうですかね」
 「あれってなんでかなって」
 「アハハハハハハハ!」

 本当に高虎さんは面白い。

 「それでさ、六花が信じられない美人だからじゃないかって話してたんだよ。虎蘭はどう思う?」
 「それはあるかもしれませんね! 六花さんは本当にお綺麗な方ですから」
 「そうなのかなー」
 「アハハハハハハハ!」

 先日、麗星さん、栞さん、六花さんの出産記念のパーティを開いたそうだ。

 「お前も呼びたかったんだけどよ。そうすっとみんな来ちゃうだろ?」
 「絶対そうですね!」
 「ちょっとなー」
 「アハハハハハハハ!」

 今日のお電話では、私の方からお話することがあった。

 「聖さんが来て、天丸さんがちょっと穏やかになりましたよ」
 「そうか!」

 高虎さんが喜んだ。

 「聖さんと一緒に寝起きして、少しずつ無理をしないようになりました」
 「良かったな! そうかよ、聖がやってくれたかぁー!」

 高虎さんは、聖さんがうちへ来たいと言った時に、きっと天丸のことが心配だったのだろうと言っていた。
 高虎さんには聖さんの心がよく分かるのだと思った。

 「聖さん、良い方ですよね?」
 「あたりまえだぁー! 俺の大親友だからな。俺もあいつには散々世話になってる」
 「そうですか」
 「あいつってさ、他人をぶっ殺すのは平気なくせによ、やけに他人の痛みに敏感でなぁ」
 「ああ、そういう感じですね! いらしてすぐに天丸さんを抱き締めて、天丸さんが泣いてました」
 「な! そうだろ? あいつって優しいんだよ! 俺が本当に苦しんでると助けてくれるし、一晩中一緒にいてくれんだ」
 「そうなんですね」
 「最高だよ! あいつがいたから俺も立ち直れたんだ」
 「素敵ですね」
 「まあ、聖と天丸を宜しく頼む。天丸も俺の大事な友達だからな」
 「はい、お任せ下さい!」
 「虎白さんじゃ頼めねぇしよ」
 「そんなことないですよ! 虎白さんも気に掛けていろいろやってます」
 「まあ、そっか。そうだな、そういう人だよな」
 「はい!」

 私は高虎さんにこっちに来て欲しいと言ったが、ちょっと苦笑していた。

 「行きたいんだけどな。お前にも会いたいんだよ。でも、俺、そっちに行くといつもボロボロになっちゃうじゃん」
 「ああ、そうですねぇ」
 「お前、守ってくれねぇもんな」
 「そんなことないですよ! でも虎白さんたちが夢中になっちゃうんで」
 「だからそれを助けろってぇ!」
 「アハハハハハハハ!」

 それでも高虎さんは近いうちにいらしてくれると言ってくれた。
 楽しみだった。
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