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九州・我當会 Ⅳ
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千両は着物姿で腰に自分の「虎王」を挿している。
そのまま歩いて行く。
我當会の千人の戦闘員は、どいつも屈強な身体と不屈の精神を備えているのが分かっていた。
普通のヤクザではない。
厳しい戦闘訓練に明け暮れて来た連中だと感ずる。
銃器の扱い、格闘技を高度に習得し、そして「戦場」に馴れた連中だ。
我當会のこれまでの無茶な戦いを潜り抜け、鉄火場を数多く経験している。
自分たちの方へ来る千両を油断なく見ていた。
突然、千両から巨大な闘気が放たれた。
千人の前に出た千両が、「虎砲」を放ったのだ。
「花岡」の技で、闘気で相手を倒す技だ。
以前に俺が斬にけじめを付けるために「紅六花」の連中を連れて行った時、斬の「虎砲」に耐え抜いたのは俺と六花だけだった。
そして六花の気合で、全員が何とか立ち上がった。
俺はともかく、六花は俺への愛で耐え抜き、そして「紅六花」の連中は六花への忠誠で立ち直った。
「虎砲」はそれなりの人間であっても、そうそうは耐えられない。
鍛え抜いた鋼の戦闘力か、本物の「愛」が必用なのだ。
千両は良いやり方を見せてくれた。
千両が放った「虎砲」は、あの時の斬のものよりも大きな闘気だった。
しかし、全員が耐え切った。
俺の予想通りだ。
こいつらは尋常じゃねぇ。
「石神さん、なかなかのものですね」
千両が笑顔で言い、我當と座光寺が嬉しそうに安心していた。
我當たちは、俺たちの試験に受かったと喜んでいる。
しかも全員が、だ。
「じゃあ、俺が試そう」
我當と座光寺が話が違うという目で俺を見ている。
もちろん口には出さないが、やかましい。
俺は千両を下がらせ、千人の前で「虎相」になった。
見えている奴が二人程いるようで、ちょっと驚いた。
他の人間は何らかの波動を感じてはいるようだったが、その二人は上空を見上げていたからだ。
俺を常に覆っている火柱が、天空まで伸びて行ったのが観えているのだ。
俺はそのまま「虎砲」を放った。
千両よりも大分強い。
全員が地面に倒れ、半数以上が意識を喪った。
地面で痙攣している奴もいる。
「立て!」
誰も立たない。
「3秒以内に立て!」
俺が気合を込めて叫ぶと、30人程が何とか立ち上がった。
大した奴らだ。
精神を鍛えていない普通の人間であれば、死んでいてもおかしくない。
フラついて戦える状態ではなかったが、何とか足を踏ん張って立っていた。
何人かは俺を睨んでいる。
嬉しかった。
ここまでの連中がいたか。
俺は我當たちの所へ戻った。
我當と座光寺は震え上がっていた。
闘気を直接は当てられはしなかったが、余波を浴びて何が起きたのかは分かっている。
「まあ、こんなもんか」
「い、石神さん、今のは……」
「見た通りだ。あいつらは合格だ」
「え、じゃあ、あの30人は!」
「いや、全員合格だよ。千両がテストしただろ?」
「そうなんですか!」
俺は笑って我當の肩を叩いてやった。
あの千両の「虎砲」に耐えただけでも大したものだ。
俺がやったのは、それ以上にどこまでの連中か確かめるためだけのものだ。
まさか立ち上がれる奴らがいるとは思わなかった。
あの30人は「業」に立ち向かうことが出来る、本物の戦士だ。
特殊な訓練を受けずとも、よくぞ練り上げたものだった。
「我當会」という組織が伺える。
「大したもんだ。お前ら、相当鍛え上げてんな!」
「あの、それじゃ、石神さんの試しっていうのは……」
「ああ、あいつらは特別だ。だから石神家へ連れて行く」
「はい?」
我當組といえども、石神家本家のことは知らないようだった。
まあ、裏社会の中でも、斬のようなほんの一部の裏の中核のような連中しか知らない。
しかも「石神家」は普段は全く表に出て来ないので、斬ですら石神家のことは念頭になく、俺の名を聞いても当時は何も想像しなかった。
「じゃあ、「カサンドラ」をお借り出来るんでしょうか?」
「あ? ああ、アラスカでソルジャーの訓練を受けたらな」
「え? あいつらを連れて行かれるんで?」
「そうだよ。今のままじゃとてもじゃねぇが、使いもんにはならねぇ」
「では、あの残った30人には?」
「だからあいつらは石神家だって言っただろう!」
「は、はい! すみません!」
座光寺が申し訳なさそうに言った。
黙っている我當は、もう「俺」という人間が分かっている。
座光寺もそうなのだろうが、今直面している戦争の心配をしているのだろう。
精鋭の連中を連れていかれれば、ここを護る奴がいねぇ。
俺に言われた亜紀ちゃんと柳が、倒れている連中を蹴り飛ばして意識を取り戻していっていた。
俺は「全員を起こせ」とだけ言ったのだが、中南米やアフリカで二人とも合理的な無慈悲さを身に付けているようだった。
「それでは外道会との戦争はどうなるんで?」
「ああ、そっちか。それは今から片付けるよ」
「はい?」
「てめぇら! いちいちマヌケな顔をすんじゃねぇ!」
千両が笑って、俺はトロいのが嫌いなのだと説明した。
「場所を教えろ。全部平らげてやる」
「分かりました! よろしくお願いいたします!」
「おう!」
俺たちは一旦我當会の本部へ戻り、「Ωコンバットスーツ」に着替えた。
荒事になるのは分かっていたので、持って来ている。
我當会には敵のアジトをまとめるように命じていた。
俺たちが応接室へ行くと、地図を拡げて待っていた。
「まずは茶を出せ!」
「はい! 申し訳ありません!」
座光寺がすぐに手配した。
紅茶と杏子の和菓子が出て来た。
和菓子が美味かった。
紅茶を飲みながら説明を聞く。
各場所と、予想できる敵の数と戦力だ。
敵の拠点は36か所。
よく調べ上げていた。
「ああ、場所はよく分かんねぇな。誰か案内を付けろ」
「はい、分かりました!」
座光寺が車の手配を命じるので止めた。
「車の移動じゃかったるくてしょうがねぇ。飛んで行くから必用ねぇよ」
「はい?」
亜紀ちゃんが座光寺の胸倉を掴む。
「てめぇ! 千両さんの言葉を忘れたかぁ! タカさんの言う通りにしろぉ!」
「す、すみません!」
俺と亜紀ちゃん、柳でやろうと思っていたが、千両も「Ωコンバットスーツ」を着込んでいた。
やる気かぁ。
「タカさん、今度は皆殺しでいいんですよね!」
「ライカンスロープや下っ端はな。でももしも「ボルーチ・バロータ」がいたら確保しろ」
「え、どうやって分かるんですか!」
「ロシア人だ!」
「はい!」
案内人を4人選ばせ、俺たちは「飛行」で飛んだ。
さて、戦争のお時間だぁ。
そのまま歩いて行く。
我當会の千人の戦闘員は、どいつも屈強な身体と不屈の精神を備えているのが分かっていた。
普通のヤクザではない。
厳しい戦闘訓練に明け暮れて来た連中だと感ずる。
銃器の扱い、格闘技を高度に習得し、そして「戦場」に馴れた連中だ。
我當会のこれまでの無茶な戦いを潜り抜け、鉄火場を数多く経験している。
自分たちの方へ来る千両を油断なく見ていた。
突然、千両から巨大な闘気が放たれた。
千人の前に出た千両が、「虎砲」を放ったのだ。
「花岡」の技で、闘気で相手を倒す技だ。
以前に俺が斬にけじめを付けるために「紅六花」の連中を連れて行った時、斬の「虎砲」に耐え抜いたのは俺と六花だけだった。
そして六花の気合で、全員が何とか立ち上がった。
俺はともかく、六花は俺への愛で耐え抜き、そして「紅六花」の連中は六花への忠誠で立ち直った。
「虎砲」はそれなりの人間であっても、そうそうは耐えられない。
鍛え抜いた鋼の戦闘力か、本物の「愛」が必用なのだ。
千両は良いやり方を見せてくれた。
千両が放った「虎砲」は、あの時の斬のものよりも大きな闘気だった。
しかし、全員が耐え切った。
俺の予想通りだ。
こいつらは尋常じゃねぇ。
「石神さん、なかなかのものですね」
千両が笑顔で言い、我當と座光寺が嬉しそうに安心していた。
我當たちは、俺たちの試験に受かったと喜んでいる。
しかも全員が、だ。
「じゃあ、俺が試そう」
我當と座光寺が話が違うという目で俺を見ている。
もちろん口には出さないが、やかましい。
俺は千両を下がらせ、千人の前で「虎相」になった。
見えている奴が二人程いるようで、ちょっと驚いた。
他の人間は何らかの波動を感じてはいるようだったが、その二人は上空を見上げていたからだ。
俺を常に覆っている火柱が、天空まで伸びて行ったのが観えているのだ。
俺はそのまま「虎砲」を放った。
千両よりも大分強い。
全員が地面に倒れ、半数以上が意識を喪った。
地面で痙攣している奴もいる。
「立て!」
誰も立たない。
「3秒以内に立て!」
俺が気合を込めて叫ぶと、30人程が何とか立ち上がった。
大した奴らだ。
精神を鍛えていない普通の人間であれば、死んでいてもおかしくない。
フラついて戦える状態ではなかったが、何とか足を踏ん張って立っていた。
何人かは俺を睨んでいる。
嬉しかった。
ここまでの連中がいたか。
俺は我當たちの所へ戻った。
我當と座光寺は震え上がっていた。
闘気を直接は当てられはしなかったが、余波を浴びて何が起きたのかは分かっている。
「まあ、こんなもんか」
「い、石神さん、今のは……」
「見た通りだ。あいつらは合格だ」
「え、じゃあ、あの30人は!」
「いや、全員合格だよ。千両がテストしただろ?」
「そうなんですか!」
俺は笑って我當の肩を叩いてやった。
あの千両の「虎砲」に耐えただけでも大したものだ。
俺がやったのは、それ以上にどこまでの連中か確かめるためだけのものだ。
まさか立ち上がれる奴らがいるとは思わなかった。
あの30人は「業」に立ち向かうことが出来る、本物の戦士だ。
特殊な訓練を受けずとも、よくぞ練り上げたものだった。
「我當会」という組織が伺える。
「大したもんだ。お前ら、相当鍛え上げてんな!」
「あの、それじゃ、石神さんの試しっていうのは……」
「ああ、あいつらは特別だ。だから石神家へ連れて行く」
「はい?」
我當組といえども、石神家本家のことは知らないようだった。
まあ、裏社会の中でも、斬のようなほんの一部の裏の中核のような連中しか知らない。
しかも「石神家」は普段は全く表に出て来ないので、斬ですら石神家のことは念頭になく、俺の名を聞いても当時は何も想像しなかった。
「じゃあ、「カサンドラ」をお借り出来るんでしょうか?」
「あ? ああ、アラスカでソルジャーの訓練を受けたらな」
「え? あいつらを連れて行かれるんで?」
「そうだよ。今のままじゃとてもじゃねぇが、使いもんにはならねぇ」
「では、あの残った30人には?」
「だからあいつらは石神家だって言っただろう!」
「は、はい! すみません!」
座光寺が申し訳なさそうに言った。
黙っている我當は、もう「俺」という人間が分かっている。
座光寺もそうなのだろうが、今直面している戦争の心配をしているのだろう。
精鋭の連中を連れていかれれば、ここを護る奴がいねぇ。
俺に言われた亜紀ちゃんと柳が、倒れている連中を蹴り飛ばして意識を取り戻していっていた。
俺は「全員を起こせ」とだけ言ったのだが、中南米やアフリカで二人とも合理的な無慈悲さを身に付けているようだった。
「それでは外道会との戦争はどうなるんで?」
「ああ、そっちか。それは今から片付けるよ」
「はい?」
「てめぇら! いちいちマヌケな顔をすんじゃねぇ!」
千両が笑って、俺はトロいのが嫌いなのだと説明した。
「場所を教えろ。全部平らげてやる」
「分かりました! よろしくお願いいたします!」
「おう!」
俺たちは一旦我當会の本部へ戻り、「Ωコンバットスーツ」に着替えた。
荒事になるのは分かっていたので、持って来ている。
我當会には敵のアジトをまとめるように命じていた。
俺たちが応接室へ行くと、地図を拡げて待っていた。
「まずは茶を出せ!」
「はい! 申し訳ありません!」
座光寺がすぐに手配した。
紅茶と杏子の和菓子が出て来た。
和菓子が美味かった。
紅茶を飲みながら説明を聞く。
各場所と、予想できる敵の数と戦力だ。
敵の拠点は36か所。
よく調べ上げていた。
「ああ、場所はよく分かんねぇな。誰か案内を付けろ」
「はい、分かりました!」
座光寺が車の手配を命じるので止めた。
「車の移動じゃかったるくてしょうがねぇ。飛んで行くから必用ねぇよ」
「はい?」
亜紀ちゃんが座光寺の胸倉を掴む。
「てめぇ! 千両さんの言葉を忘れたかぁ! タカさんの言う通りにしろぉ!」
「す、すみません!」
俺と亜紀ちゃん、柳でやろうと思っていたが、千両も「Ωコンバットスーツ」を着込んでいた。
やる気かぁ。
「タカさん、今度は皆殺しでいいんですよね!」
「ライカンスロープや下っ端はな。でももしも「ボルーチ・バロータ」がいたら確保しろ」
「え、どうやって分かるんですか!」
「ロシア人だ!」
「はい!」
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さて、戦争のお時間だぁ。
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