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九州・我當会

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 9月中旬の土曜日の朝9時。
 千両から俺の家の固定電話に連絡が来た。
 丁度俺が遅い朝食を食べ終わった時だ。
 最近双子が凝っているパン作りのお陰で、非常に美味しいクロワッサンと目玉焼き、それにオニオンスープだった。
 カップのオニオンスープを丁度飲み干したところだった。
 千両もタイミングがいい奴だ。
 俺にコーヒーを淹れていた亜紀ちゃんが出た。

 「タカさん! 千両さんですよー!」

 「よう! 何かあったか?」
 「はい、お休みの所を申し訳ありません」
 「いいよ、どうせヒマしてたんだ」
 「実は、九州の我當会(がとうかい)から連絡が来まして」
 「我當会?」

 意外な名前が出た。
 俺は千万組を始め稲城会や吉住連合、そして日本最大の山王会まで傘下に納め、日本の極道社会を統一した。
 もちろん全ての暴力団が配下になったわけではなく、主だった組織ということだ。
 それでほとんどの暴力団が俺に従うようになり、少なくとも逆らってくる連中はいなくなった。
 ただし、九州には巨大な我當会があり、そこは俺に恭順の意を示していなかった。
 敵対することも無かったので、そのまま放置していた。
 一応我當会のような大きな組には、回状をまわし、各組織が俺に着いたことは知らせている。
 極道社会の倣いだ。
 その回状を読んで傘下に入った組も多い。

 我當会は資金力もあり、尚且つ戦闘力の高い組織として有名だった。
 山王会が全国統一を図って九州に攻め込んだ時にも激しく抵抗され、ついにあの山王会でさえも九州進出を諦めたほどだ。
 また些細なことから某独裁国家と揉め、特殊部隊が我當会殲滅のために日本に派遣されて来たことがある。
 その時にも堂々と本職の兵士と渡り合い、ついには凌ぎ切った。
 我當会は最初からチャカ(拳銃)などは使わず、特殊部隊の潜伏する場所にロケットランチャーをぶち込んだと言われている。
 他にもステアーAUGなどの高性能の武器を仕入れて、激しい戦闘を繰り広げた。
 普通のヤクザとは違い、本格的な戦闘訓練を経た兵隊が揃っているということだ。
 もちろん、ぶつかれば「虎」の軍の敵ではない。
 簡単に制圧出来るが、俺は別にヤクザを統一したいわけでもないので放っておいた。

 「我當会が、うちに「カサンドラ」を供給できないかと相談して来まして」
 「「カサンドラ」だと?」
 「はい。機密事項とはいえ、もうあちこちの戦闘で使われていますので、裏社会の情報通ならば知っていたことかと」
 「そりゃそうだろうが、なんなんだ? そんなもの手に入るわけはないだろう」
 「そうなんですが」

 千両はもちろん断った。
 断り方も、上手く話を誘導し、「カサンドラ」を欲しがる理由を尋ねた。
 一応、千万組は所持していないということも明確に伝え、それが誠意と受け取られて情報を開示された。
 千万組ではなく、「虎」の軍のソルジャーにしか与えていないものなので、嘘でもない。
 千両は、我當会の人間からどうして「カサンドラ」を欲しがるのか聞き出した。

 「外道会と揉めているようでした」
 「あいつらか!」
 「はい。国内の外道会の拠点は大方潰したのですが、まだ九州に幾つか残っているようでして」
 「そうか、あっちはまだ本格的には当たってないもんな」
 「はい。我當会が支配する地域ですので、今まではまだ侵攻的な行動は控えておりました。そのうちに山王会が本格的に乗り出すつもりだったのですが」

 もちろん俺もそういう計画は分かっている。
 「業」の世界戦略が始まるにあたり、日本全土の防衛網を構築するためだった。
 山王会が九州での防衛網の建設を自ら名乗り出ていた。
 我當会とぶつかる可能性はあるが、山王会には「虎」の軍で鍛えた連中がいる。

 「まあな。でも、九州に「虎」の軍の拠点を作るつもりだけのことだったからな」
 「外道会も活動は控えていたようでして。拠点を構えてはいましたが、大人しいもんでした。ですが偶然小倉の繁華街で我當会の組員と外道会の若い奴が揉めて」
 「あるあるだな」
 「そこから全面戦争になったようです」
 「我當会は血の気が多いからなー」

 最初は揉めた者同士の喧嘩だったようだが、どうやら外道会の相手の中にライカンスロープがいたらしい。
 それで我當会の奴らが瞬殺され、そこから全面戦争になったと。
 九州にはまだ全域を覆う「霊素観測レーダー」もなく、小規模の反応は捉えられていない。
 ライカンスロープのことは我當会も心得ていて、それなりの武器で応戦していたようだが、何分相手が悪い。
 銃弾を跳ね返す、もしくは回避する奴もいる。
 我當会は対物ライフルやグレネードの集中攻撃で何とか踏ん張った。
 だが徐々に劣勢になり、「カサンドラ」を求めて来たということだった。
 もちろん「カサンドラ」は「虎」の軍の機密の一つだが、その存在は在る程度裏社会にも流れている。
 機構は分からないにしても、どういう武器なのかくらいは知っていてもおかしくはない。
 現状ではライカンスロープにも有効な唯一の兵器と見做されているだろう。
 銃もロケットランチャーも難しい相手に、欲しがる気持ちはよく分かるが。

 「もちろん、我當会も無償でということではありませんでした」
 「金で贖えるもんでもねぇけどな」
 「はい。石神さんの傘下に着くと」
 「なに?」

 我當会はヤクザの中でも一際独立自尊の気概が高い組織だった。
 神戸山王会もそうだったのだが、俺の圧倒的な力に屈した。
 稲城会もそうだ。
 丁度亜紀ちゃんにアヤを掛けて来たので、渡りに船とぶっ潰した。
 吉住連合に関しては、磯良との縁で堂前組が俺に協力を申し出、他の組も賛同した形だが。
 でも、堂前組以外は同じく俺の力に屈したのだ。
 我當会は違った。
 俺も襲撃することは無かったが、最初から戦争を辞さない構えだった。
 俺の目的は御堂の票田と、ある程度の日本の裏社会の力を操る目的だったので、我當会を手にしなくても目的は達していた。
 だから手を出さなかったという話だ。
 もちろん日本を護るために九州に拠点は作るつもりではあったし、もしかしたら我當会と揉め事になる予想もあった。
 その場合は潰すだけだ。
 まあ、俺個人としては、我當会は嫌いではなかったのだが。
 どんな戦争も辞さないあいつらの心意気は俺の好みだ。

 「我當会が本当に俺の下につくってか?」
 「まあ、少なくともぶつかるつもりは無さそうでしたよ。流石に「虎」の軍の力は知っているでしょうし」
 「それじゃあ、一度話してみるか」
 「自分もご一緒しても?」
 「ああ、頼む」

 そういうことになり、俺は千両と亜紀ちゃんと柳を連れて九州へ向かった。
 亜紀ちゃんは全然いらなかったのだが、ヤクザ好きなので俺に泣きついて同行を頼んで来た。
 柳は、まあ我當会に関してのことではオマケだ。
 俺にとっては半分旅行気分の気楽なものだ。

 さて、我當会がどう出て来るのか。
 楽しみだった。
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