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《ダウラギリ山》攻略戦 Ⅸ

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 「羽入! もう限界だ!」
 「おう! じゃあ一挙にやるぞ!」
 
 俺も紅たちも、ついに溢れかえる妖魔に押されて行った。
 もう10メートルも敵との距離は無い。
 妖魔の攻撃も捌き切れなくなった。
 最後に大技を放って、俺たちは終わるだろう。
 紅が俺に背中を擦りつけた。
 せめて、俺たちは最期まで戦って死ぬのだ。
 抱き締め合って敵に殺される死に方じゃねぇ。

 「羽入! 愛してる!」
 「紅! 愛しているぞ!」
 
 ハオユーとズハンも「レーヴァテイン」を撃ちながら、互いの肩を抱き締めた。
 何の後悔も悲しみも無い。
 互いに一緒なら、それで満足だ。

 「「「「!」」」」

 その時、突然トンネルの上方が消えて、轟音の後で陽光が挿し込んで来た。
 恐ろしい数の妖魔が一瞬にして消え、俺たちはただのU字型の通路に立っていた。

 「なんだぁ!」

 俺が叫んでも、紅もハオユーたちも何も応えない。
 俺と同様に上を見上げていた。
 巨大なダウラギリ山の山頂がねぇ!
 数分もそうしていたか。
 一応紅たちが周囲を走査し、「霊素観測レーダー」との情報交換もしていたが、何も分からない。
 ベースキャンプも混乱しているようだった。
 そのうちに「虎酔会」のソルジャーが走って来た。

 「おい、無事か!」

 第一部隊隊長の伊庭さんだった。
 黒笛を握ったまま、俺たちの前に呆然と立ち尽くしていた。

 「あ、ああ、何が起きたんだ?」
 「さっぱり分からん! 突然「ゲート」と妖魔が消え、ダウラギリ山の山頂も消えた」
 「消えた?」
 「そうだ。《ハイヴ》の通路に沿って斬られたようだ」
 「なんだそりゃ?」
 「だから分からねぇって! 俺たちも驚いてんだよ!」

 伊庭さんが興奮して怒鳴った。

 「あ、ああ、悪かったな」
 「いや、そういうことじゃ……何にしても助かったようだ。もう妖魔の反応もねぇよ」
 「そうだな」

 話し合ってもしょうがねぇ。
 しかし、「ゲート」を破壊するなんて、一体どれほどの攻撃なのか。

 「羽入、《スズメバチ》はどうする?」
 「え?」

 紅が俺に聞いて来た。
 そういう作戦だったからだ。
 妖魔の反応は無くなり、《ハイヴ》もなんだかこんなだが、探索の任が終わったわけではない。

 「一応、射出しておくか?」
 「まあ、そうだな。そういう作戦だったもんな」

 ハオユーとズハンがポッドを操作し、前後に《スズメバチ》を放った。
 高速で16体の《スズメバチ》が飛んでった。
 なんだか、ひどくマヌケな感じがする。

 「何か分かるかもしれんしな」
 「そうだよな」

 もう知らん。



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 俺と紅はそのままアラスカへ行った。
 ハオユーとズハンは現場に残り、他のデュールゲリエたちと現場の調査をする。
 ほとんどの「虎酔会」の方々も俺たちと一緒にアラスカへ戻った。
 輸送型の「タイガーファング」が迎えに来てくれ、俺たちはいそいそとそれに乗った。

 司令本部に出頭し、作戦の報告をしたが、誰一人何が起きたのか分かっていなかった。
 ダウラギリ山の山頂はある程度破壊されて、下への被害は最小限となった。
 人的被害はまったくなく、ただ、瓦礫が谷底へ積もっただけだ。
 現地での調査で、最奥部には途轍もない妖魔が控えていたようだが、それもあの謎の攻撃で一瞬で死んだそうだ。
 世界最高峰の山だったダウラギリ山は、上方1000メートルが削られ、8000メートル超の世界最高峰の14座から外されることになるだろう。
 俺は知らん。
 でも、なんかゴメン。

 石神さんの御厚意で、「ほんとの虎の穴」のVIPルームに入らせてもらった。
 「虎酔会」の御影さん、伊庭さん、そして皐月さん、細波さん黒野さんの《ハイブ》に救助に突入して下さった方々。
 そしてお忙しい石神さんまで来て下さって、俺たちの労をねぎらってくれた。

 「おい、羽入、また死にそうになったんだって?」
 
 石神さんが笑って言った。

 「はぁ、今度こそはと思いましたよ」
 「悪かったな。ああいうものだと考えておくべきだったな」
 「いいえ。でも、本当に何が起きたんですかね?」
 「まあ、分からんけどなぁ。でも、飛行タイプのジェヴォーダンが以前から突然姿を消していたんだ」
 「なんですか?」

 石神さんもよくは分からないそうだ。
 とにかく、「霊素観測レーダー」は様々な妖魔のタイプ、ジェヴォーダンのタイプなどを解析する技術があり、飛行タイプもちゃんと把握していたそうだ。

 「それも分からんよ。「霊素観測レーダー」が飛行タイプを観測すると、大体すぐに消えてしまうんだ。最初は飛行タイプに欠陥があるんじゃないかと蓮花とも話していたんだけどな。でも遺骸を解剖しても、まったくそんな兆候はねぇ。まあ、俺たちの知らない存在がやっているんだろうとは思うんだが」
 「そんなのがいるんですかぁ!」

 俺は驚いて立ち上がった。
 紅が落ち着けと言い、席に座った。
 でも、この世界で「虎」の軍以外に、「業」と敵対する勢力があるのか!
 御影さんたちも驚いている。
 彼らも知らない情報だったようだ。

 「味方だとは思うんだがな。でも分からねぇ。俺たちにまったく接触して来ねぇしよ。とにかく、途轍もねぇ強さだ。しかも俺たちに一切姿も、攻撃手段すらも見せねぇというなぁ」
 「なんなんすかね?」
 「だから分かんねぇよ!」

 石神さんに頭をはたかれた。
 そうだ、何度も聞くと怒る方だった。
 紅が俺のことを睨んでいた。
 紅は俺のことを一番に愛してくれてはいるが、石神さんに失礼な態度を取れば、いつも怒る。

 石神さんは、とにかく俺と紅が無事だったことを喜んで下さった。
 俺たちに美味い料理と酒をどんどん勧め、紅には男を喜ばすテクニックを話されていた。
 紅が真面目に聞き入っていた。





 その後、ある機会に石神さんのお嬢さんの亜紀さんとお会いした。
 亜紀さんがダウラギリ山での戦闘に興奮しており、俺に言った。

 「羽入さん、紅さん! 私、あのナゾの救援者を知ってるんですよ!」
 「え! ほんとうですか!」
 「はい! あれは「ヒモダンス・タイガー」です!」
 「「はい?」」

 なにそれ?

 「ほら! 「般若」でタカさんと一緒に私たちで踊ったじゃないですか!」
 「それって、あの面白いダンス?」
 「あれはただのダンスじゃないんですよ!」

 亜紀さんが大真面目な顔を俺たちに近づけて小声で言う。

 「そ、そうなんだ」
 「「ヒモダンス・タイガー」を呼ぶ儀式なんです!」
 「それって……」
 「良かったですね!」

 「はぁ、はい」
 「ありがとうございます」

 全然分からねぇ。
 また別な時に石神さんに「ヒモダンス・タイガー」のことを聞いたら爆笑され、「そんなものはいねぇ」と言われた。
 まあ、そうですよね?
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