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《ダウラギリ山》攻略戦 Ⅷ

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 「紅! 直上に穴を空けるぞ!」
 「待て、羽入! トンネルの崩落の恐れがある! この重量が落ちれば羽入が危ない!」

 俺は怒鳴りながらも、「流星剣」で後方の妖魔を滅多斬りにしていた。
 絶え間なく振るって何とか敵との距離を維持してはいるが、どんどん溢れ出して来る妖魔の数に、あとどれほど続けられるか分からない。
 前方は紅たち三人で攻撃して防いでいる。
 そちらは「オロチブレイカー」で主に迎撃しているが、何しろ数が多く一瞬だが近づかれることもある。
 恐らく数億の妖魔がこの狭いトンネルに出て来ると紅が予測した。
 紅が「霊素観測レーダー」からの情報でそう言っていた。

 「酸素濃度が低い! 羽入!」
 「大丈夫だ! 酸素マスクがある!」
 
 紅はすぐに残量を計算した。
 何も言わないので、まだしばらくはもつのだろう。
 ズハンが叫んだ。

 「伊庭様が突入! とんでもない速さで来ている!」
 「おう! 接近したら教えてくれ! 「流星剣」を止める!」
 「分かりました!」

 しかし、3分後に伊庭さんのスピードが落ちた。
 距離にして約800メートル。
 最初はトンネルを出口に向かう妖魔をたちまちに斃したが、恐らく噴出する高密度の妖魔とぶつかり足止めされたのだろう。
 トンネル内の妖魔の密度は途轍もなく高まっている。
 その状況は常に紅が把握して解析している。
 数分後、紅が言った。

 「羽入! ずっと一緒だ!」

 それで分かった。
 そうか、これで終いか。

 「当たり前だ! 愛しているぞ紅!」
 「私もだ!」

 ハオユーとズハンが笑っていた。

 「私たちもお二人が大好きですよ!」
 「私もです! ずっと一緒です!」
 「羽入は私のものだからな!」
 「「ワハハハハハハハハハ!」」

 みんなで笑った。
 俺は最後の瞬間までやる、とだけ決めた。
 紅と一緒ならば、それ以上何も望まない。
 ハオユーとズハンもいい連中だ。
 最高だぜ!



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「御影隊長! 飛行型の「ジェヴォーダン」急速接近! 213体です!」
 「なんだと!」

 レーダー係が叫んだ。
 今は不味い状況だ。
 こちらは多くが壁面近くに浮かんでいる状態だった。
 高機動でジェヴォーダンの攻撃は回避出来るが、入り口を狙われたらトンネルが崩壊する。
 飛行型のジェヴォーダンはとにかくスピードが速い。
 俺たちの攻撃が回避されることもあるだろう。
 213体を瞬時に斃さねばならないが、大技を使えばまたトンネルがどうなるか分からない。
 あと数秒。

 「第二、第三部隊! 全員迎撃に上がれ!」

 俺が指示した次の瞬間。

 「あ?」
 『ん?』

 『ナンジャァァァァァァーーーー!!!』



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「ギンギン(ロボさん、聞こえますか?」

 窓辺で寝ていると、超光速ギンギン通信が来た。

 「にゃ(ああ、銀ちゃんかー。どした?)」
 「ギンギン(羽入さんたちが大変です!)」
 「にゃん(なんだって?)」
 「ギンギン(《ハイヴ》の中で「ゲート」が開き、羽入さんたちが妖魔に埋もれそうです!)」
 「にゃー(分かった、すぐ行くよ)」
 「ギンギン(お願いします!)」

 庭でいつものように、亜紀たちが訓練してる。
 ウッドデッキのサッシを叩いた。

 「あ、ロボー! なーに、外に出たいの?」
 
 亜紀が気付いた。

 「にゃー(はやくー)」
 「ちょっと待ってて」

 亜紀がサッシを開いてくれた。

 
 フヨフヨ   スン


 遠くで亜紀がなんか叫んでた。
 銀ちゃんから聞いた場所に行くと、またあいつらの臭いがした。

 「にゃ(あ、なんかまたクッサイぞ!)」

 また出たかぁ。
 しつこい連中だぁー。

 
 スン

 シパシパシパシパ……


 「にゃー!(ザマァ!)」

 全部真っ二つにして落としてやったよ。
 クッサイのが消えていく。
 しばらく地面に落ちて行くのを見てた。
 あー、なんか「虎」の軍がたくさんいるなー。
 そういえば、羽入たちを助けに来たんだっけか。
 あ、あそこの山の中に羽入たちがいんのかぁー。
 よし。


 シュッパァァァァー


 これでよし。
 あれ、みんなが絶叫してるぞ?
 まあ、いっかー。
 もう大丈夫だろう。
 

 スン


 家に戻った。



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 
 「ミハイル。「謎のX」だ」
 「……」
 「おい、今な、バイオビーストがな」
 「……」
 「なあ」
 「……もういいもん」
 「……」



 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「皐月(こうげつ)! 細波(さざなみ)! 黒野! 伊庭を追え!」
 「「「はい!」」」

 何が起きたのかはさっぱり分からん。
 しかし、突然襲い掛かろうとしていた「ジェヴォーダン」が真っ二つに割かれて落下した。
 俺も、他の誰も何も見ていない。
 「霊素観測レーダー」でさえも何も捉えていなかった。
 あり得ないことだ。
 人間が感知しないとしても、「霊素観測レーダー」やデュールゲリエたちの高度なセンサーが何も捉えないことなどあり得ない。
 それなのに、「ジェヴォーダン」200体以上が突然身体を切り裂かれて落下して行ったのだ。
 しかも、どの「ジェヴォーダン」も頭頂から尾の先まで綺麗に割かれていたのだ。
 一体どのような攻撃だったのか。
 妖魔の中には気配を消すのに長けた者がいることは知っている。
 先日、石神さんの奥様の栞さんが、そういうタイプの《デモノイド》に襲われたことも聞いている。
 しかしだ。
 仮に気配を殺して接近出来たとしても、攻撃のエネルギーは絶対に消すことは出来ない。
 「霊素観測レーダー」は、そのエネルギーさえも捉えていないのだ。
 あれほどの大質量、200体以上の巨体を綺麗に二つに割いた精妙な攻撃を、何一つ捉えていないのだ。
 あり得ない。
 それでも、現実に「ジェヴォーダン」が全て斃されたのだから、俺は現状で必死に戦略を練った。
 伊庭が行き詰っていることが分かっていたので、伊庭の次に「黒笛」を扱う三人に応援に行かせた。
 ルーとハーも更に奥へ移動する。
 俺は第一部隊の残りも《ハイヴ》へ潜入させ、状況に随時対応するように命じた。
 それ以上は状況次第だ。
 俺は目まぐるしくあらゆる可能性を考えていた。

 その瞬間、今度はダウラギリ山の上部がズレた!


 『ギャァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!!!』


 頂上から下、約1000メートルが斜めに落下していく。
 俺は何が起きたのか分からずに、思わず挙げた悲鳴の後で指示を出した。

 「全員! あの山を破壊しろ! とにかく出来るだけ小さくするんだぁー!」

 俺も加わって「ブリューナク」「グングニール」などをズレた山頂に向けて撃つ。
 既に空中に上がった第二、第三部隊が一斉に割れた山塊を更に攻撃していく。
 
 「御影隊長! 《ハイヴ》が剥き出しです!」
 「お、おう!」
 
 部下に言われて初めて気付いた。
 《ハイヴ》の構造に沿って、ダウラギリ山が斬られたようだった。
 「ゲート」もそこから出た妖魔も、一切が消えていた。
 途中まで《ハイヴ》に潜り込んでいた伊庭たちが呆然と上を見上げているのが見えた。

 これはなんなのだ!
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