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《ダウラギリ山》攻略戦 Ⅴ
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私とハーは、アラスカから派遣された「虎酔会」の方々とベースキャンプで待機していた。
ここまでは全員で、普通の人間と同じく山を登って来た。
「虎酔会」の方々は、相当な実力のソルジャーと聞いていたが、実際その通りで、慣れない登山も軽々とこなしていた。
動き方を観ても、すぐに尋常ではない方々と分かった。
それにデュールゲリエと知っている私とハーにも、気さくに話し掛けて下さる。
特に部隊長の御影さんは親しく接して下さっていた。
「あんたらのことは知っているよ。デュールゲリエの中でも一番戦場を経験してるんだってな」
「はい! でも私たちは戦闘データを共有しているんで、戦闘経験の多寡はあまり関係ないんですよ?」
「そんなことはねぇだろうよ。あんたらの量子AIは、固有の集積もあるんだろう? 俺たちもデュールゲリエと散々一緒に訓練しているけどな。あんたらが一味違うことはすぐに分かるぜ」
「そうですか!」
御影さんの言う通りだ。
公表ではデュールゲリエは戦闘データを蓄積して常に高まっていると言われているが、実際には個の様々な経験も別途積み上げられ、それが各々の性格にも反映されているのだ。
だから私たちは人間と同じなのだが、中にはそのことを嫌う方もいるので戦闘機械のように表向きは説明されている。
我々が単なる機械ではないということは、実際に接した方々の一部しか分からない。
個々の性格の違いが、私たちに多様性を生み出しているのだ。
そして、多様性が量子コンピューターの「揺らぎ」を生み、更に高度の思考を持つことが出来る。
そういうことが、説明せずとも悟られる方々だった。
これまでも、そう多くはない。
一部の個人のために作られた機体は分かりやすい。
その方のためにセッティングされていることも分かっているためだ。
羽入様のための紅。
乾様のためのディディ。
聖様とご家族のためのクレア。
東雲様のための小春。
そしてもう亡くなってしまったが、諸見様のための綾。
御堂様のガードをしているダフニスとクロエはセッティングは控えめだったのだが、御堂様と毎日接しているうちにやはり個別な機体となり、聡明な御堂様も気付かれている。
私とハーは石神様の御子、ルー様とハー様を元にセッティグされ、最初に皇紀様の護衛を申し付かった。
お優しい皇紀様と一緒に過ごすうちに、やはり影響を受けて特別な機体となっている。
ハオユーとズハンもそういう意味で特別な機体だ。
石神様と蓮花様が潜入任務に特化したセッティングをされた。
今回はその二人が羽入様と紅に同行している。
一緒に作戦行動をするので、出発前にしばらく「虎酔会」の方々と合同訓練をしていた。
幸いにも皆様に認めてもらえ、こうやって親しくもさせていただいている。
私たちが機械であることは全く意識されずに、有難いことだ。
「俺たちは《ハイヴ》の攻略は初めてだけどよ。普通はこうは行かないんだろう?」
「はい。私とハーも何度か《ハイヴ》攻略戦には参加していますが、周辺の掃討戦は必ず入りますね?」
「だよな。俺たちも全ての攻略作戦は頭に叩き込んでいる。最深部にいるとんでもねぇ奴が、今回は少し違うんだよな?」
「はい。《地獄の悪魔》であることが多いのですが、《神》がいたこともあります。《刃》と呼称された最強の個体のこともありました」
「ああ、《刃》は最悪だったな。石神家の方の脳が使われたとか」
「機密事項なのでお答え出来ませんが」
「そうだったな。構わねぇよ。俺たちは石神家の方々にも訓練をしていただいた。だから少し聴いているだけだ」
「そうなのですか!」
石神家での訓練を受けられると言うのは、相当な実力を認められたということだ。
門外不出、ということではなく、あの方々の訓練には相応の実力を持っていないと付いていけないためだ。
「あそこは無茶苦茶だったぜ! 今でも時々夜中に飛び起きる」
「「アハハハハハハ!」」
ハーと一緒に笑った。
御影さんも大笑いしていた。
「さて、いよいよ明日だな」
「はい。羽入様と紅、ハオユーとズハンが到達するはずです」
「夕飯の後でブリーフィングをする。テントに来てくれ」
「かしこまりました」
私とハーはみなさんの夕飯の準備をした。
ずっと二人で食事のお世話をさせてもらった。
夕飯は牛カツとヤクの肉のシチューだ。
牛肉は全部使い切ったが、多少カツレツが薄めなのが申し訳ない。
ヤクも少なめだ。
一応登山隊なので、目立つほどの食材を持って来られなかった。
でも、みなさん喜んで食べて下さった。
御影さんが隊長クラスや技術担当者たちと私たちを呼んで、司令本部になっているテントに集まった。
全部で8名。
「羽入たちが突入前に「皇紀通信」の回線を繋げる。そこからは常にデータのやり取りが始まる。通信係は一瞬もたるむな!」
「はい!」
「ルーちゃんとハーちゃんも頼むな」
「「はい!」」
「通信が途絶えた場合、もしくは救援要請があった場合には即座に救援に向かう。第一部隊は制圧、第二と第三部隊は救出、第四部隊は《シャンゴⅡ》の準備だ」
「はい!」
《シャンゴⅡ》は投下爆弾《シャンゴ》のミサイルタイプだ。
今回の《ハイヴ》は水平方向へ伸びているようなので、飛行するタイプのものが必用だった。
自律型の目標識別の性能があり、爆破すべきタイミングを自分で判断する。
用途は、万一《ニルヴァーナ》に汚染された場合の浄化だった。
それはつまり、中に入っている人間の焼却を意味する。
石神様は、そこまでのことを考えておられた。
もちろん救出部隊が羽入様たちを外へ出す予定ではあるが、内部の状況が分からない限り、どうなるか予想が付かない。
《ニルヴァーナ》が使われる場合、内部に感染者がいるということだ。
念のための準備だった。
「ルーちゃんとハーちゃんは状況によって救出か、もしくは《バハムート》装備での制圧だ。俺も指示するが、場合によっては独断で飛んでくれ」
「「分かりました!」」
私たちを信頼してくれていることが嬉しかった。
ハーと向き合って微笑んだ。
「まだ早いんだが、明日はどうなるか分からんので言っておく」
「はい?」
御影さんが私たちに向いて、頭を下げた。
「ここまで一緒に来られて良かった。毎回美味い飯を用意してくれてありがとう」
「え、そんな!」
「私たちの役目ですから!」
全員が頭を下げて、微笑んで私たちを見ていた。
口々にお礼を言われた。
「本当にありがとう。明日は宜しく頼む」
「「はい!」」
明日はいよいよ突入だ。
羽入様たちの無事を祈った。
そして「虎酔会」の方々のことも。
ここまでは全員で、普通の人間と同じく山を登って来た。
「虎酔会」の方々は、相当な実力のソルジャーと聞いていたが、実際その通りで、慣れない登山も軽々とこなしていた。
動き方を観ても、すぐに尋常ではない方々と分かった。
それにデュールゲリエと知っている私とハーにも、気さくに話し掛けて下さる。
特に部隊長の御影さんは親しく接して下さっていた。
「あんたらのことは知っているよ。デュールゲリエの中でも一番戦場を経験してるんだってな」
「はい! でも私たちは戦闘データを共有しているんで、戦闘経験の多寡はあまり関係ないんですよ?」
「そんなことはねぇだろうよ。あんたらの量子AIは、固有の集積もあるんだろう? 俺たちもデュールゲリエと散々一緒に訓練しているけどな。あんたらが一味違うことはすぐに分かるぜ」
「そうですか!」
御影さんの言う通りだ。
公表ではデュールゲリエは戦闘データを蓄積して常に高まっていると言われているが、実際には個の様々な経験も別途積み上げられ、それが各々の性格にも反映されているのだ。
だから私たちは人間と同じなのだが、中にはそのことを嫌う方もいるので戦闘機械のように表向きは説明されている。
我々が単なる機械ではないということは、実際に接した方々の一部しか分からない。
個々の性格の違いが、私たちに多様性を生み出しているのだ。
そして、多様性が量子コンピューターの「揺らぎ」を生み、更に高度の思考を持つことが出来る。
そういうことが、説明せずとも悟られる方々だった。
これまでも、そう多くはない。
一部の個人のために作られた機体は分かりやすい。
その方のためにセッティングされていることも分かっているためだ。
羽入様のための紅。
乾様のためのディディ。
聖様とご家族のためのクレア。
東雲様のための小春。
そしてもう亡くなってしまったが、諸見様のための綾。
御堂様のガードをしているダフニスとクロエはセッティングは控えめだったのだが、御堂様と毎日接しているうちにやはり個別な機体となり、聡明な御堂様も気付かれている。
私とハーは石神様の御子、ルー様とハー様を元にセッティグされ、最初に皇紀様の護衛を申し付かった。
お優しい皇紀様と一緒に過ごすうちに、やはり影響を受けて特別な機体となっている。
ハオユーとズハンもそういう意味で特別な機体だ。
石神様と蓮花様が潜入任務に特化したセッティングをされた。
今回はその二人が羽入様と紅に同行している。
一緒に作戦行動をするので、出発前にしばらく「虎酔会」の方々と合同訓練をしていた。
幸いにも皆様に認めてもらえ、こうやって親しくもさせていただいている。
私たちが機械であることは全く意識されずに、有難いことだ。
「俺たちは《ハイヴ》の攻略は初めてだけどよ。普通はこうは行かないんだろう?」
「はい。私とハーも何度か《ハイヴ》攻略戦には参加していますが、周辺の掃討戦は必ず入りますね?」
「だよな。俺たちも全ての攻略作戦は頭に叩き込んでいる。最深部にいるとんでもねぇ奴が、今回は少し違うんだよな?」
「はい。《地獄の悪魔》であることが多いのですが、《神》がいたこともあります。《刃》と呼称された最強の個体のこともありました」
「ああ、《刃》は最悪だったな。石神家の方の脳が使われたとか」
「機密事項なのでお答え出来ませんが」
「そうだったな。構わねぇよ。俺たちは石神家の方々にも訓練をしていただいた。だから少し聴いているだけだ」
「そうなのですか!」
石神家での訓練を受けられると言うのは、相当な実力を認められたということだ。
門外不出、ということではなく、あの方々の訓練には相応の実力を持っていないと付いていけないためだ。
「あそこは無茶苦茶だったぜ! 今でも時々夜中に飛び起きる」
「「アハハハハハハ!」」
ハーと一緒に笑った。
御影さんも大笑いしていた。
「さて、いよいよ明日だな」
「はい。羽入様と紅、ハオユーとズハンが到達するはずです」
「夕飯の後でブリーフィングをする。テントに来てくれ」
「かしこまりました」
私とハーはみなさんの夕飯の準備をした。
ずっと二人で食事のお世話をさせてもらった。
夕飯は牛カツとヤクの肉のシチューだ。
牛肉は全部使い切ったが、多少カツレツが薄めなのが申し訳ない。
ヤクも少なめだ。
一応登山隊なので、目立つほどの食材を持って来られなかった。
でも、みなさん喜んで食べて下さった。
御影さんが隊長クラスや技術担当者たちと私たちを呼んで、司令本部になっているテントに集まった。
全部で8名。
「羽入たちが突入前に「皇紀通信」の回線を繋げる。そこからは常にデータのやり取りが始まる。通信係は一瞬もたるむな!」
「はい!」
「ルーちゃんとハーちゃんも頼むな」
「「はい!」」
「通信が途絶えた場合、もしくは救援要請があった場合には即座に救援に向かう。第一部隊は制圧、第二と第三部隊は救出、第四部隊は《シャンゴⅡ》の準備だ」
「はい!」
《シャンゴⅡ》は投下爆弾《シャンゴ》のミサイルタイプだ。
今回の《ハイヴ》は水平方向へ伸びているようなので、飛行するタイプのものが必用だった。
自律型の目標識別の性能があり、爆破すべきタイミングを自分で判断する。
用途は、万一《ニルヴァーナ》に汚染された場合の浄化だった。
それはつまり、中に入っている人間の焼却を意味する。
石神様は、そこまでのことを考えておられた。
もちろん救出部隊が羽入様たちを外へ出す予定ではあるが、内部の状況が分からない限り、どうなるか予想が付かない。
《ニルヴァーナ》が使われる場合、内部に感染者がいるということだ。
念のための準備だった。
「ルーちゃんとハーちゃんは状況によって救出か、もしくは《バハムート》装備での制圧だ。俺も指示するが、場合によっては独断で飛んでくれ」
「「分かりました!」」
私たちを信頼してくれていることが嬉しかった。
ハーと向き合って微笑んだ。
「まだ早いんだが、明日はどうなるか分からんので言っておく」
「はい?」
御影さんが私たちに向いて、頭を下げた。
「ここまで一緒に来られて良かった。毎回美味い飯を用意してくれてありがとう」
「え、そんな!」
「私たちの役目ですから!」
全員が頭を下げて、微笑んで私たちを見ていた。
口々にお礼を言われた。
「本当にありがとう。明日は宜しく頼む」
「「はい!」」
明日はいよいよ突入だ。
羽入様たちの無事を祈った。
そして「虎酔会」の方々のことも。
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