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栞の出産 Ⅳ
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外では石神さんが残党を狩っているのが分かった。
とんでもないスピードでどんどん斃している。
強力な武器を持った連中も多いが、それをほとんど使わせない。
石神さんでなければ、結構な被害が出ているだろう。
先ほどまでは俺と二人で対応していたが、石神さんだけで十分なことが分かった。
ならば、俺は石神さんに試されるために呼ばれたのだろう。
《デモノイド》相手の戦闘は合格ということか。
それで本試験は、この院内に侵入する敵だ。
恐らくは「強さ」だけではない。
気配を押し殺すことに長けている連中だ。
それをどのように捉え、撃破するのか。
俺は気配で捉えることを辞めた。
そこに拘れば、恐らく敵の侵入を許してしまう。
俺の気配感知の能力では足りない敵だろう。
だから俺は数を数えた。
病院内に侵入し、それなりの速さで踏破して来るはずの敵。
その動きをイメージしながら数えた。
45を数えた時、廊下に「無影斬」を放った。
血飛沫が飛び散り、4体の気配が現われた。
斬さんが病室から出て来る。
俺が「無影斬」を撃った反対側に向かって技を撃って、一人を霧散させた。
「そっちにもいましたか」
「お前はまだ甘いな」
「斬さんは気配が分かったのですか?」
「ふん! お前はもっと戦場に立つべきだ」
「はい」
斬さんは恐らく、俺と同じく敵の動きを読んでいた。
俺もやったわけだが、斬さんは完全に読み切っていたのだ。
だから戦場での経験が必要なのだと言っている。
気配を辿っての戦闘は、限界があるのだ。
石神さんが来た。
廊下に出ていた斬さんと話す。
「終わったか」
「ああ、こいつは一人漏らしたぞ」
「そうか。他の4人は斃したんだな?」
「そうじゃ。お前、あいつらはどうやって分かった?」
斬さんが俺に向かって聞いた。
「そろそろ来る頃かと。だから技を撃ちました」
「ふん!」
石神さんが笑っていた。
「斬、なかなかいいじゃねぇか!」
「ふん!」
俺が気配だけで戦っていないことを、石神さんも分かってくれた。
斬さんはまた部屋へ戻った。
石神さんが俺について来いと言い、斬さんが入った部屋へ導かれた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
石神さんが俺に栞さんを紹介した。
「磯良、俺の妻の一人の栞だ。斬の孫でもある」
「栞さん、初めまして。お会い出来て光栄です」
栞さんはお綺麗な人だった。
出産間近のようで、お腹が大きい。
「磯良君ね。護ってくれてありがとう」
「自分など必要ありませんでした。最後に一人撃ち漏らしましたし」
「いいえ、あなたは十分にやってくれたわ。この病院はね、以前に私も勤めていたの」
「そうなんですか」
「だからね、どこも壊されなくて良かった。磯良君が来てくれたお陰よ」
「そんな。でも、少しでもお役に立てたのなら嬉しいです」
「うん、ありがとう。おじちゃんもあなたを信頼していたわ」
「いいえ、斬さんのお陰で助かったのは俺の方です」
栞さんが笑っていた。
「あなたはすぐに反対側にも攻撃をするつもりだったでしょう?」
「……」
「おじいちゃんはせっかちだから。それに自分もやりたかったのよ。私とお腹の子を狙って来る奴を絶対に許せなかったから」
「ふん!」
斬さんは俺を見ないでいたが、少し微笑んでいるように見えた。
それに、栞さんも只者ではないことが分かった。
先ほどの戦闘を全て把握している。
相当な遣い手だと感じた。
「まあ、遅い時間になった。栞は寝てくれ。斬はどうする?」
「わしは戻る。士王がいるからな」
「磯良、こいつ、士王の前じゃ全然態度が違うんだよ。こんな仏頂面じゃなくてニコニコしてんだ」
「ふん!」
栞さんが笑った。
俺はまた別な部屋へ連れられた。
すぐ近くの部屋だ。
「静かにな。ここには響子がいる。今は眠っているからな」
「分かりました」
石神さんが小声で俺に話している。
部屋へ入ると、大きなベッドに誰か寝ていた。
石神さんが手招き、そっと近づいた。
「おお、レイが大人しいな」
「レイ? どこにいるんですか?」
「ああ、俺にも見えないんだ。でも、初めての人間が来ると、もっと波動が違うんだぜ。レイが警戒するんだな」
「あの、もしかしたら、さっき俺の傍に来たかもしれません」
「マジか! どうだったんだ?」
「いえ、あの、吼えられただけなんですけど」
石神さんが口を押さえて爆笑していた。
「お前、レイに気に入られたんだな」
「そうなんですか?」
「間違いねぇ。まあ、響子を見てくれ」
「はい」
美しい白人の女の子が眠っていた。
身長は高そうだが、まだ幼さが残っている。
少し寝顔を見てから、石神さんに連れられて部屋を出た。
1階の自動販売機まで行き、二人でシートに腰を下ろした。
石神さんが缶コーヒーを渡してくれる。
「悪かったな。お前に栞と響子を見せて置きたくてよ」
「はい、ありがとうございます」
「響子は最大の機密事項だったんだ。俺が最も大事にしている人間でよ。だからなるべく響子の存在は秘密にされてきた。でも、流石にもうな。敵は響子の存在を知り、襲ってくるようにもなった」
「でも、響子さんのガードは万全ですよね」
「まあな。あのレイがいる限りは何も出来ないだろうよ」
「そうですね。あ、鬼族も動いていましたよね?」
「ああ、分かったか。あれは院長のガーディアン「鬼理流」の眷族だ。数億はいるようだぞ」
「そんなにですか!」
「でも、「業」の数には遠く及ばない。相手は京を確実に超えるからな」
「!」
「早乙女もまだお前たちには話していないだろう。前に「御虎シティ」が1兆を超える数で襲われたことがある。「業」も大分無理をしたようだが、それだけを送り込めるようになったということだ」
「世界人口を軽く超えますよね」
「そうだ。「虎」の軍も数の問題は何とかしようとしている。「業」の使うゲートは短時間で膨大な数の妖魔やライカンスロープ、バイオノイドを送り出す。だからその対抗手段として、今、日本中に拠点を展開しているところだ」
「はい、早乙女さんからも聞きました。「アドヴェロス」は「虎」の軍と今後は共闘していくだろうと」
「ああ、国内は「アドヴェロス」に任せたいんだけどな。だからトップハンターの磯良の実力を見ておきたかったんだ」
「そういうことなんですね」
俺は石神さんから礼を言われ、家に帰った。
自分がそれほど役立ったとは思わなかったが、あの石神さんが頭を下げて「ありがとう」と言ってくれたことが嬉しかった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
栞は予定通りに出産し、無事に「千歌」が生まれた。
亜紀ちゃんたちもすぐに来て、もちろん斬も士王と一緒に来た。
生まれたばかりの「千歌」を抱き上げ、あいつ、涙を流しやがった。
「花岡家」に士王が生まれたことは、斬にとって悲願とも言える喜びだっただろう。
しかし、新たに千歌が生まれ喜ぶ姿を見れば、単に曾孫の誕生を喜ぶジジィであることが分かる。
「花岡家」としてだけではなく、人間として愛する栞の子が愛おしいのだ。
調子に乗った響子が千歌を抱き、落っことすところだった。
もちろん読んでいた俺がちゃんと抱き上げた。
斬が蒼白な顔をし、栞が宥めた。
桜花たちにも抱くように言ったが、斬の顔を見て遠慮した。
まあ、すぐにもちろん世話をするに決まっているのだが。
「おい、お前の歌を聴かせてくれ」
「あ?」
斬が珍しく、そんなことを言った。
千歌はまだ目が開いていないが、聴覚はある。
亜紀ちゃんがギターを抱えていた。
斬に頼まれたらしい。
俺は喜んでバッハの『シェメッリ歌曲集 リートとアリア』をギターで弾き、歌った。
そして即興で『夜羽』『銀世』そして『千歌』を弾いた。
亜紀ちゃんが廊下に出た。
誰かと電話している。
「もしもし、亜紀です!」
「!」
橘弥生に電話していた。
もう笑って止めもしなかった。
栞は病室を病院の規格の特別室に移し、一般の見舞いも受け入れるようになった。
院長はもちろん、病院の人間がひっきりなしに訪れた。
青たちも来てくれ、是非「般若」で祝いをして欲しいと言った。
俺は有難く受け入れ、六花が戻ってからやらせてもらうと約束した。
また先の楽しみが増えた。
とんでもないスピードでどんどん斃している。
強力な武器を持った連中も多いが、それをほとんど使わせない。
石神さんでなければ、結構な被害が出ているだろう。
先ほどまでは俺と二人で対応していたが、石神さんだけで十分なことが分かった。
ならば、俺は石神さんに試されるために呼ばれたのだろう。
《デモノイド》相手の戦闘は合格ということか。
それで本試験は、この院内に侵入する敵だ。
恐らくは「強さ」だけではない。
気配を押し殺すことに長けている連中だ。
それをどのように捉え、撃破するのか。
俺は気配で捉えることを辞めた。
そこに拘れば、恐らく敵の侵入を許してしまう。
俺の気配感知の能力では足りない敵だろう。
だから俺は数を数えた。
病院内に侵入し、それなりの速さで踏破して来るはずの敵。
その動きをイメージしながら数えた。
45を数えた時、廊下に「無影斬」を放った。
血飛沫が飛び散り、4体の気配が現われた。
斬さんが病室から出て来る。
俺が「無影斬」を撃った反対側に向かって技を撃って、一人を霧散させた。
「そっちにもいましたか」
「お前はまだ甘いな」
「斬さんは気配が分かったのですか?」
「ふん! お前はもっと戦場に立つべきだ」
「はい」
斬さんは恐らく、俺と同じく敵の動きを読んでいた。
俺もやったわけだが、斬さんは完全に読み切っていたのだ。
だから戦場での経験が必要なのだと言っている。
気配を辿っての戦闘は、限界があるのだ。
石神さんが来た。
廊下に出ていた斬さんと話す。
「終わったか」
「ああ、こいつは一人漏らしたぞ」
「そうか。他の4人は斃したんだな?」
「そうじゃ。お前、あいつらはどうやって分かった?」
斬さんが俺に向かって聞いた。
「そろそろ来る頃かと。だから技を撃ちました」
「ふん!」
石神さんが笑っていた。
「斬、なかなかいいじゃねぇか!」
「ふん!」
俺が気配だけで戦っていないことを、石神さんも分かってくれた。
斬さんはまた部屋へ戻った。
石神さんが俺について来いと言い、斬さんが入った部屋へ導かれた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
石神さんが俺に栞さんを紹介した。
「磯良、俺の妻の一人の栞だ。斬の孫でもある」
「栞さん、初めまして。お会い出来て光栄です」
栞さんはお綺麗な人だった。
出産間近のようで、お腹が大きい。
「磯良君ね。護ってくれてありがとう」
「自分など必要ありませんでした。最後に一人撃ち漏らしましたし」
「いいえ、あなたは十分にやってくれたわ。この病院はね、以前に私も勤めていたの」
「そうなんですか」
「だからね、どこも壊されなくて良かった。磯良君が来てくれたお陰よ」
「そんな。でも、少しでもお役に立てたのなら嬉しいです」
「うん、ありがとう。おじちゃんもあなたを信頼していたわ」
「いいえ、斬さんのお陰で助かったのは俺の方です」
栞さんが笑っていた。
「あなたはすぐに反対側にも攻撃をするつもりだったでしょう?」
「……」
「おじいちゃんはせっかちだから。それに自分もやりたかったのよ。私とお腹の子を狙って来る奴を絶対に許せなかったから」
「ふん!」
斬さんは俺を見ないでいたが、少し微笑んでいるように見えた。
それに、栞さんも只者ではないことが分かった。
先ほどの戦闘を全て把握している。
相当な遣い手だと感じた。
「まあ、遅い時間になった。栞は寝てくれ。斬はどうする?」
「わしは戻る。士王がいるからな」
「磯良、こいつ、士王の前じゃ全然態度が違うんだよ。こんな仏頂面じゃなくてニコニコしてんだ」
「ふん!」
栞さんが笑った。
俺はまた別な部屋へ連れられた。
すぐ近くの部屋だ。
「静かにな。ここには響子がいる。今は眠っているからな」
「分かりました」
石神さんが小声で俺に話している。
部屋へ入ると、大きなベッドに誰か寝ていた。
石神さんが手招き、そっと近づいた。
「おお、レイが大人しいな」
「レイ? どこにいるんですか?」
「ああ、俺にも見えないんだ。でも、初めての人間が来ると、もっと波動が違うんだぜ。レイが警戒するんだな」
「あの、もしかしたら、さっき俺の傍に来たかもしれません」
「マジか! どうだったんだ?」
「いえ、あの、吼えられただけなんですけど」
石神さんが口を押さえて爆笑していた。
「お前、レイに気に入られたんだな」
「そうなんですか?」
「間違いねぇ。まあ、響子を見てくれ」
「はい」
美しい白人の女の子が眠っていた。
身長は高そうだが、まだ幼さが残っている。
少し寝顔を見てから、石神さんに連れられて部屋を出た。
1階の自動販売機まで行き、二人でシートに腰を下ろした。
石神さんが缶コーヒーを渡してくれる。
「悪かったな。お前に栞と響子を見せて置きたくてよ」
「はい、ありがとうございます」
「響子は最大の機密事項だったんだ。俺が最も大事にしている人間でよ。だからなるべく響子の存在は秘密にされてきた。でも、流石にもうな。敵は響子の存在を知り、襲ってくるようにもなった」
「でも、響子さんのガードは万全ですよね」
「まあな。あのレイがいる限りは何も出来ないだろうよ」
「そうですね。あ、鬼族も動いていましたよね?」
「ああ、分かったか。あれは院長のガーディアン「鬼理流」の眷族だ。数億はいるようだぞ」
「そんなにですか!」
「でも、「業」の数には遠く及ばない。相手は京を確実に超えるからな」
「!」
「早乙女もまだお前たちには話していないだろう。前に「御虎シティ」が1兆を超える数で襲われたことがある。「業」も大分無理をしたようだが、それだけを送り込めるようになったということだ」
「世界人口を軽く超えますよね」
「そうだ。「虎」の軍も数の問題は何とかしようとしている。「業」の使うゲートは短時間で膨大な数の妖魔やライカンスロープ、バイオノイドを送り出す。だからその対抗手段として、今、日本中に拠点を展開しているところだ」
「はい、早乙女さんからも聞きました。「アドヴェロス」は「虎」の軍と今後は共闘していくだろうと」
「ああ、国内は「アドヴェロス」に任せたいんだけどな。だからトップハンターの磯良の実力を見ておきたかったんだ」
「そういうことなんですね」
俺は石神さんから礼を言われ、家に帰った。
自分がそれほど役立ったとは思わなかったが、あの石神さんが頭を下げて「ありがとう」と言ってくれたことが嬉しかった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
栞は予定通りに出産し、無事に「千歌」が生まれた。
亜紀ちゃんたちもすぐに来て、もちろん斬も士王と一緒に来た。
生まれたばかりの「千歌」を抱き上げ、あいつ、涙を流しやがった。
「花岡家」に士王が生まれたことは、斬にとって悲願とも言える喜びだっただろう。
しかし、新たに千歌が生まれ喜ぶ姿を見れば、単に曾孫の誕生を喜ぶジジィであることが分かる。
「花岡家」としてだけではなく、人間として愛する栞の子が愛おしいのだ。
調子に乗った響子が千歌を抱き、落っことすところだった。
もちろん読んでいた俺がちゃんと抱き上げた。
斬が蒼白な顔をし、栞が宥めた。
桜花たちにも抱くように言ったが、斬の顔を見て遠慮した。
まあ、すぐにもちろん世話をするに決まっているのだが。
「おい、お前の歌を聴かせてくれ」
「あ?」
斬が珍しく、そんなことを言った。
千歌はまだ目が開いていないが、聴覚はある。
亜紀ちゃんがギターを抱えていた。
斬に頼まれたらしい。
俺は喜んでバッハの『シェメッリ歌曲集 リートとアリア』をギターで弾き、歌った。
そして即興で『夜羽』『銀世』そして『千歌』を弾いた。
亜紀ちゃんが廊下に出た。
誰かと電話している。
「もしもし、亜紀です!」
「!」
橘弥生に電話していた。
もう笑って止めもしなかった。
栞は病室を病院の規格の特別室に移し、一般の見舞いも受け入れるようになった。
院長はもちろん、病院の人間がひっきりなしに訪れた。
青たちも来てくれ、是非「般若」で祝いをして欲しいと言った。
俺は有難く受け入れ、六花が戻ってからやらせてもらうと約束した。
また先の楽しみが増えた。
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