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六花の出産 Ⅴ

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 石神家の全員が立ち上がって歓声を挙げる。
 虎白さんがすぐに怒貪虎さんに駆け寄る。

 「怒貪虎さん! 待ってました!」
 「ケロケロ」
 「はい、さっき見て来ましたよ! 信じられないくらいにカワイイです!」
 「ケロケロ」

 カワイイと言われて、俺は思わず顔が緩んだ。
 いかんいかん、この人らを追い出さないといけないのだ。
 まあ、大前提で俺に怒貪虎さんを止めることは出来ねぇんだが。

 「ケロケロ」
 「おい、高虎!」
 「はい!」
 「早く怒貪虎さんを銀世のとこへご案内しろよ!」
 「はい!」

 仕方ねぇ。
 店から出て来たタケが怒貪虎さんを見て驚いてのけぞる。
 うんうん、よく分かるぞ。
 俺はエレベーターで怒貪虎さんを連れて上がった。
 虎蘭と虎水も付いて来る。
 寝室へ連れて行き、ドアを開けた。

 「おい、六花。この人だけは会っておいてくれよ……あ!」

 その瞬間に自分が肝心なことを言い忘れていたことを思い出した。
 六花がまた絶叫する。

 「カエルぅぅーーーー!」


 ドッグァァァーーーーン


 俺がぶっ飛ばされた。
 しまった、先に言っておかなければならなかったぁ!
 虎蘭が大笑いで俺を抱き起し、怒貪虎さんに声を掛けた。

 「怒貪虎さん、こちらです。カワイイですよ!」
 「《銀世》ちゃんです!」

 虎蘭と虎水が怒貪虎さんをベビーベッドに招いた。
 怒貪虎さんがニコニコ(? ※目を細めている)して、近づいた。
 俺は六花の口を押さえ、耳元でなるべく小さな声で「カエルと言うな」と説明した。
 物凄い小声で言ったのだが、怒貪虎さんが俺を睨んだ。
 虎蘭が怒貪虎さんの手を引いてベッドに近寄らせてくれた。
 怒貪虎さんが微笑んで(? ※目を細めている)銀世を見た。

 「ケロケロ!」
 「そうですよね! もう本当に可愛くて!」
 「ケロケロ」
 「はい、六花さんのお綺麗さと、高虎さんの精悍さが!」
 「まだ笑わないですけど、笑ったら最高でしょうね!」
 「ケロケロ!」

 なんて?
 六花が警戒しているが、俺が連れて来たものだから何もしなかった。
 虎蘭と虎水がしきりに怒貪虎さんの気を引いてくれている。

 「ケロケロ」

 怒貪虎さんが六花に笑い(? ※目を細めている)かけた。

 「え、そうですけど」
 「!」

 おい!
 どうして六花は理解する!

 「ケロケロ」
 「ああ、そうなんですね。すいません、驚いちゃって」
 「ケロケロ」
 「アハハハハハハハ!」

 なんて?
 
 怒貪虎さんが銀世の頭を撫でてから、虎蘭たちを連れて降りて行った。

 「……」

 六花が微笑んで俺を見ている。

 「トラ、いい人ね」
 「あ、ああ……」

 カエルだろう。
 もう一度駐車場に降りると、タケたちが石神家の連中を食堂へ招いていた。
 まだ朝の6時過ぎだが、小鉄が大慌てで厨房に入って何か作っている。
 一人だと大勢の食事は大変なので、仕方なく俺も手伝い、一緒に食事を作った。
 虎白さんたちがテーブルについて出て来た料理を食べ始める。

 「高虎、俺らはなんか喰ったらすぐに帰るからよ!」
 「はい、お願いします!」
 「お前! ちょっとは引き留めろ!」
 「何言ってんすか!」

 虎蘭と虎水や何人かが手伝いに入ってくれた。
 どんどんテーブルに運ぶ。
 剣士たちが80人いたが、ここは全員が余裕で座れるくらいに広い。
 全員ではないが、酒盛りをしている。
 勝手に酒を出しているのだが、タケも小鉄も止めるわけもない。
 はぁー。
 駐車場を見て分かっているが、車で来たようだ。
 
 「飲酒運転はダメですからね!」
 「心配すんな」

 まあ、大丈夫だろうが。
 法律を守らない人たちだが、飲酒運転はしねぇ。
 多分。
 誰も遠慮しないで出て来た食事をガンガン食べている。
 虎白さんが外に出て、何かを持って来た。
 どうやら、車に積んで来た物のようだ。
 両脇に、でかい木箱を二つ抱えていた。
 俺を呼んで目の前のテーブルに置く。

 「これ、なんですか?」
 「開けてくれよ」
 「はぁ」

 観音開きの扉を開けると、中に木彫りの像が入っていた。
 クッションを剥がしてテーブルに並べると、菩薩像のようだった。
 全部で七体。
 すぐに気付いた。
 俺の子どもたちの数だ。
 士王、吹雪、天狼、奈々、夜羽、そして銀世。
 もうすぐ生まれる栞との子、千歌の分まである。

 「これは……」

 手に取って観ると、見事な菩薩像だった。
 一刀彫の多少荒々しい部分はあるが、顔は丁寧に削られており、指先の繊細さはうっとりとするほどだった。
 そして技術も見事だったが、それ以上に心が込められていることが感じられた。
 これを作ってくれたのは……

 「石神家の習わしってほどのもんじゃねぇんだけどな。時々子どもが生まれると、その家の家長がこういうのを彫ったりするんだよ」
 「そうなんですか……美しいものですね」
 「もっと前にお前に渡したかったんだけどよ。本来は虎影が作るはずだよな。でも死んじまったからなぁ」
 「はい」

 だから虎白さんが彫ってくれたのか。

 「俺が作ってもいいもんかどうかと悩んでな。でも、本当に嬉しくってよ。ちょっと前にとにかく作り始めたら、勢いで全部作っちまった」
 「虎白さん!」

 俺は感激して、虎白さんの手を握って思わず泣いてしまった。
 虎白さんが珍しく照れていた。

 「おい、なんだよ! 恥ずかしいだろう!」
 「いえ、ありがとうございます。本当に、ありがとうございます!」
 「いいよ。俺が勝手にやったことだ」
 
 どういう謂れなのかは分からない。
 でも、本当に素晴らしいものだった。

 「大事な家族が死んだ時はよ、如来像を彫るんだよ。虎影のものも作ってある。孝子さんのもな。今、虎蘭が頑張って虎葉のを作ってるよ」
 「そうですか」
 「それに天丸な、あいつもやってる」
 「天丸……」

 虎白さんに教わったのだろう。
 不器用なあいつが必死になっていることが思い浮かんだ。

 「あいつにも来いって言ったんだけどよ、まだお前に合わせる顔がねぇんだと」
 「バカな奴ですね。今度俺の方から行きますよ」
 「おう、頼むな」

 俺は改めて虎白さんに頭を下げた。

 「虎白さん、本当に嬉しいや」
 「いいよ」
 「じゃあ、これ頂きますね」
 「ああ、これから栞さんと麗星のとこへ持ってくから」
 「絶対やめてくださいね」
 「ワハハハハハハハ!」

 みんなで笑った。
 
 食事を終えた石神家の連中が、駐車場に出た。
 
 「じゃあ、やんぞー!」
 『オウ!』

 全員が輪になって怒貪虎さんを囲んだ。
 虎白さんがいい喉で歌い始める。

 ♪ ドドンコー、ドドンコー、どんどこどん(どんどこどん)…… ♪

 俺も一緒に歌わされた。
 タケと小鉄も出て来て、不思議そうな顔をしている。
 石神家の連中が踊り始め、ゆっくりと輪が回って行く。
 怒貪虎さんが中心でちょっと踊っている。
 笑顔(? ※目を細めている)だ。
 謡は全然終わらない。
 1時間が経過した……





 あのー、もういいんじゃないですかー。
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